トリカブトの猛毒「アルカロイド」の生合成経路を200年ぶりに米研究で解明

猛毒の花が秘める、200年越しの化学的ミステリーとその先の可能性

致死性の高い毒草として知られるトリカブトと近縁種のラークスパー(ヒエンソウ)。その毒成分の複雑な化学構造は、発見から約200年間、実験室で人工合成することができませんでした。米ミシガン州立大学とチェコ科学アカデミーの研究チームが、この長年の謎を解く鍵となる生合成経路を世界で初めて解明したと発表しました。サイエンス・デイリー(ScienceDaily)の報道をもとに、学術誌モレキュラー・プラント(Molecular Plant)に掲載されたこの研究を解説します。

猛毒植物が「薬の種」になる理由

トリカブト(英名:wolfsbane、モンクスフード)やラークスパーは、キンポウゲ科に属する植物で、いずれも「ジテルペンアルカロイド」と呼ばれる一群の化学物質を作り出します。これは、炭素20個からなる骨格に窒素を含む構造を持つ天然化合物で、動物の神経伝達を狂わせるほどの強い毒性を発揮する一方、ごく微量であれば人体への作用を医療目的に応用できる可能性を秘めています。実際、これらの植物由来の化合物は昔から民間療法で用いられており、鎮痛、抗マラリア、抗がんなど幅広い薬理作用を持つことが知られてきました。強い毒と有用な薬効が表裏一体である点は、フグ毒やジギタリスなど他の天然毒素にも共通する特徴で、「毒にも薬にもなる」という古くからの知恵を科学的に裏付ける事例のひとつと言えます。

200年間、誰も再現できなかった化学構造

ジテルペンアルカロイドの代表格であるアコニチンは、今からおよそ200年前に単離(化合物を純粋な形で取り出すこと)されましたが、その複雑な立体構造ゆえに、現代に至るまで化学者は実験室でこの分子を人工合成することに成功していません。天然からわずかな量しか得られないため、大量に安定供給する手段がなく、詳細な薬理研究や臨床応用への道が長年閉ざされてきたのです。研究を率いたミシガン州立大学のビョルン・ハンバーガー教授は、学会でチェコ科学アカデミーのトマーシュ・プルスカル氏の研究室と出会ったことをきっかけに、両者の技術を組み合わせた国際共同研究に乗り出しました。合成が難しいなら、植物が体内でどのようにこの毒を「組み立てている」のかを解明し、その仕組み自体を借りてしまおうという発想の転換です。

6つの酵素反応、遺伝子数千個から特定

研究チームは、トリカブトとラークスパーの複数の近縁種を対象に、どの遺伝子が体内のどの部位でいつ「オン」になっているかを網羅的に調べる比較トランスクリプトミクス(遺伝子の発現量を大規模に比較する解析手法)という手法を用いました。数千個にのぼる候補遺伝子を絞り込んだ結果、アチシニウムという中間化合物を作り上げるのに必要な6段階の酵素反応を突き止めることに成功しました。この経路はデルフィニウム属とトリカブト属という異なる2つの植物属で共通して保存されており、進化的に古くから受け継がれてきた仕組みであることも判明しています。さらに研究チームは、特定した酵素の遺伝子をタバコの葉に導入し、植物内でこの経路を人工的に再現することにも成功しました。これにより、希少な野生植物を大量に採取することなく、必要な化合物を計画的に生産できる基盤技術への道が開かれました。

鎮痛・抗マラリア・抗がん――広がる応用の可能性

今回の成果が重要なのは、単に化学構造の謎を解いただけでなく、これまで実質的に不可能だった大量生産への道筋を示した点にあります。研究チームは、今回解明した経路を応用すれば、将来的に麻薬性のリスクを伴わない鎮痛薬や、既存薬に耐性を持つマラリア原虫に対抗する新薬、さらにはがん細胞の増殖を抑える化合物の開発につながる可能性があるとしています。また、これらのアルカロイドは農業害虫に対する殺虫作用も報告されており、化学合成農薬に代わる天然由来の防除資材としての応用も期待されています。今後は、今回特定された経路の川下にあたる反応、すなわちアチシニウムからアコニチンのようなより複雑な最終化合物に至るまでの酵素群を特定する研究が進められる見通しです。

補足:トリカブトとラークスパーとは

トリカブトは日本にも自生する多年草で、鮮やかな紫色の花を咲かせる一方、根や葉に含まれるアコニチン系アルカロイドは日本三大有毒植物の一つに数えられるほど強力です。過去には殺人事件の毒物としても報道され、その危険性が広く知られています。一方のラークスパー(和名:ヒエンソウ)は観賞用の花として欧米の庭園でも人気がありますが、同様に強い毒性を持つ近縁種です。両者はともにキンポウゲ科に属し、進化的に比較的近い関係にあることから、今回のように共通の生合成経路を持つ可能性が高いと考えられ、比較研究の対象として選ばれました。

まとめ

米ミシガン州立大学とチェコ科学アカデミーの共同研究チームは、トリカブトとラークスパーが持つ猛毒成分の生合成経路を世界で初めて解明し、6つの酵素反応から成る仕組みをタバコの葉で人工的に再現することに成功しました。約200年間実験室での合成が叶わなかった化合物群の量産に道を開く成果であり、鎮痛薬や抗マラリア薬、抗がん剤など幅広い分野への応用が期待されます。今後は、より複雑な最終化合物までの経路解明や、実際の医薬品開発への展開が注目されます。

出典:
ScienceDaily
Phys.org

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