反発招いた「話し相手AI」が音声搭載で復活、価格は2倍に
「一人にならないための相棒」として2024年に登場し、地下鉄広告への落書きなど激しい反発を浴びたAIウェアラブル(身につけて使う電子機器)「Friend(フレンド)」が、音声機能を新たに搭載して帰ってきました。米テッククランチ(TechCrunch)や米エンガジェット(Engadget)の報道によると、価格はこれまでの129ドルから249ドルへとほぼ倍増しています。批判の的となった製品がなぜ値上げしてまで再挑戦するのか、その狙いと、AIコンパニオン(会話相手となるAI)をめぐる懸念を見ていきます。
「フレンド」とは何か——常時会話するAIペンダント
フレンドは、血球のような形をした小さな端末をひも状のネックレスで首から下げ、常時マイクを起動させたまま日常を共有する「話し相手AI」です。ユーザーの発言や周囲の音を拾い、スマートフォンアプリへのプッシュ通知(スマホ画面に表示される短い通知メッセージ)というかたちで、その日あったことへの感想やコメントを返してくるのが特徴でした。開発したのは、17歳のときに新型コロナウイルスの感染状況を追跡するサイト「ncov2019.live」を立ち上げ、世界的な感染症の専門家アンソニー・ファウチ氏から表彰された経歴を持つアビ・シフマン氏(23)です。同氏は2024年、プレオーダー価格99ドルでフレンドの予約受付を開始し、出荷が始まった2025年には129ドルで正式発売しました。発売直後には米ニューヨークの地下鉄に出した広告が、AIに人間関係を奪われることへの反発から繰り返し落書きされ、かえって話題を呼びました。それでもシフマン氏は謝罪や方針転換をせず、批判をそのままマーケティングの材料として利用する姿勢を貫いてきました。
価格は129ドルから249ドルへ——音声機能を追加した「フレンド2.0」
今回発表された新型「フレンド2.0」の最大の変更点は、本体にスピーカーを内蔵し、これまでのプッシュ通知による一方向のコメントから、双方向の音声会話ができるようになったことです。ユーザーが話しかければ、フレンドがその場で声で応答する仕組みで、AIモデルには米オープンAI(OpenAI)の最新モデルが採用されています。利用者ごとにランダムに割り当てられる性格は変更できない仕様になっており、シフマン氏はこれを「一貫した人格を持つ相棒」と位置づけています。本体価格は129ドルから249ドルへ約2倍に値上げされたほか、会話内容の記憶を30日間より長く保持したい場合は、月額10ドルの追加サブスクリプション(継続課金サービス)への加入が必要になりました。シフマン氏はフレンドについて「アシスタントでも恋愛相手でもない、ある種の相談相手であり、友人であり、神のような存在だ」と説明しており、実用性よりも情緒的なつながりを前面に押し出す姿勢が一貫しています。
なぜ値上げに踏み切ったのか——数字で見る「フレンド」の賭け
初代フレンドは5000台限定で販売され完売しており、シフマン氏は2代目で5万台という10倍の販売目標を掲げています。同社がこれまでに調達した資金は2回のシード(創業初期の資金調達)ラウンドで合計250万ドル(評価額5000万ドル)にとどまる一方、ブランド名にあたる「friend.com」というドメイン名の取得だけで180万ドルを費やすという大胆な戦略を取ってきました。限られた資金の大半をブランディングに投じ、話題性で知名度を稼ぐという手法は次のような点にも表れています。
- 初期投資家には暗号資産基盤ソラナ(Solana)や検索AI企業パープレキシティ(Perplexity)の創業者らが名を連ね、資金力より知名度を重視した布陣を組んだ
- EU(欧州連合)市場については、GDPR(EU一般データ保護規則、個人情報の扱いに関する厳格なルール)への対応コストが高すぎるとして、当面の展開から撤退する方針を示している
シフマン氏は「もう現実はどうでもよくなっている。すべてが皮肉なものになった」と発言するなど、あえて挑発的な姿勢を取り続けており、批判の拡散そのものを認知度向上に利用する「炎上マーケティング」的な手法を意図的に選んでいることがうかがえます。
AIコンパニオンと孤独——高まる専門家の懸念
AIを話し相手とするコンパニオン端末やチャットボット(文字や音声で会話するAIプログラム)をめぐっては、安全性への懸念も強まっています。米グーグル(Google)傘下のキャラクター・AI(Character.AI)は、10代の少年が同社のチャットボットとの会話をきっかけに自殺した事案などをめぐり、遺族から起こされた複数の訴訟について和解に応じたばかりです。専門家は、AIへの感情的な依存が利用者の孤立をかえって深める危険性があると指摘しており、常時マイクを起動させて生活全般を共有するフレンドのような端末は、より強い依存を招きやすいとの見方もあります。AIウェアラブル市場そのものへの逆風も強く、競合とされた「Humane AI Pin」は発売から1年足らずで事業を停止し、米HPに買収されるかたちで事実上の失敗に終わりました。こうした厳しい市場環境の中で、フレンドが値上げと音声機能追加という賭けに出た背景には、話題性を維持し続けなければ生き残れないという危機感もあるとみられます。
「孤独ビジネス」の行方——規制と市場の狭間で
フレンドが体現しているのは、孤独感を解消する商品やサービスを提供する、いわゆる「孤独ビジネス」の広がりです。米国では単身世帯の増加や社会的孤立への関心の高まりを背景に、AIを使った会話相手サービスが相次いで登場しており、日本でもAIキャラクターとの会話アプリが若年層を中心に浸透しつつあります。一方で、常時マイクを起動させて会話や行動データを収集するビジネスモデルは、プライバシー保護の観点から各国の規制当局が注視する対象にもなりつつあります。フレンドが今後、GDPRのような厳格な規制環境の下でどこまで事業を維持できるか、そしてAIとの関係性への依存が社会問題化するかどうかは、この分野全体の先行きを占ううえでも注目されるポイントです。
補足情報
創業者のアビ・シフマン氏は、高校在学中の2019年末に新型コロナウイルスの追跡サイトを開設し、世界で1200万人以上が利用したとされる実績で知られる人物です。2020年にはウェビー賞(優れたウェブサイト・コンテンツを表彰する国際的な賞)の「今年の人」に選出され、授賞式にはファウチ博士も登場しました。今回のフレンド2.0では、本体裏面にスピーカーを搭載したことで従来モデルよりも厚みが増しており、外見上の変化も利用者の間で話題となっています。初期の広告展開でも、利用者が人生の悩みをフレンドに語りかける様子を映した動画を多用し、実用性よりも「静かな孤独感」に訴えかける手法を取ったことが、賛否を呼ぶ一因となりました。
まとめ
常時会話するAIペンダント「フレンド」は、129ドルから249ドルへの値上げと音声機能の追加という大きな転換を経て「フレンド2.0」として再始動しました。5万台という強気の販売目標を掲げる一方、AIコンパニオンをめぐる安全性への懸念は根強く残っています。値上げした端末が市場に受け入れられるのか、そしてAIとの「友情」がもたらす影響について規制当局や専門家がどう向き合っていくのか、今後の動向が注目されます。