「研究用」表示の裏で本物のステロイドを販売、米大手業者が摘発される
米国で急拡大する「ペプチド」通販市場に激震が走りました。50州と80カ国に顧客を持つ大手業者パラダイム・ペプチズの経営者に、禁錮70カ月の実刑判決が下されたのです。CBSニュースと米司法省(DOJ)の発表によれば、「研究用」と表示されていた製品の多くに、規制対象のステロイドであるテストステロンが混入していたことが判明しました。筋力増強や若返り目的でこうした製品を個人輸入する消費者が急増する中、野放し状態の市場の危うさが改めて浮き彫りになっています。
5万4000人が購入——パラダイム・ペプチズとは
インディアナ州を拠点にオンライン販売を行っていたパラダイム・ペプチズは、2019年4月から2024年3月までの約5年間にわたり営業し、全米50州と80カ国の顧客5万4000人に製品を販売していました。取り扱っていたのは、細胞の働きを調整する短いアミノ酸の鎖である「ペプチド」全般に加え、不妊治療にも使われるホルモン剤hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)、そして筋肉増強効果をうたう化合物SARM(選択的アンドロゲン受容体モジュレーター、後述)でした。経営者のマシュー・カワ被告(48)と、実務を支えた妹のジェニファー・ステックオーバー被告(32)は、2025年12月に未承認医薬品の販売および不正輸入の罪で有罪を認めていました。
「研究用」の建前と「人体用」の実態
同社は製品を「米国製」「純度99%」と宣伝し、第三者機関による検査済みを謳っていましたが、実際には原材料を中国やインドなどから輸入し、検査証明書を偽造していたことが明らかになっています。ラベルには「研究目的のみ」と表示されていたにもかかわらず、カワ被告は司法取引において「パラダイムの製品が人体消費のために販売されていることを知っていた」と認めました。
- 「米国製・純度99%」との表示は虚偽で、実際は海外から原料を調達
- 第三者検査の証明書を偽造して信頼性を演出
- 「研究用」ラベルは建前で、実態は人体使用目的の一般消費者向け販売
この構図は、米国内で急拡大する「研究用試薬(Research Use Only、RUO)」という抜け穴を突いたビジネスモデルの典型例と言えます。医薬品として承認されていない化合物でも、「研究用」と表示しさえすれば規制を回避しやすいという法の隙間が、こうした業者の温床になってきました。
SARMとは?——「テストステロンではない」はずが全品陽性
SARM(選択的アンドロゲン受容体モジュレーター)は、筋肉を選択的に増強しながら前立腺や毛髪への副作用を抑えられるとされ、ステロイドに代わる「安全な筋力増強剤」として一部の愛好家やボディビルダーの間で人気を集めてきた化合物群です。しかし米当局がパラダイム社のテストステロン模倣とされるSARM製品6種を検査したところ、全てから本物のテストステロンが検出されました。つまり「ステロイドではない」という最大のセールスポイントそのものが虚偽だったことになります。SARM自体、米食品医薬品局(FDA)から心臓発作や精神障害のリスクについて警告が出されている未承認化合物であり、そこに規制薬物のテストステロンまで混入していたという二重の危険が明らかになったのです。
禁錮70カ月の判決と被害者の実態
南インディアナ州連邦地裁のクリスタル・ブリスコ判事は判決でカワ被告に対し、「あなたは人々のことを考えず、自分が築きたいものだけに集中していた」と述べ、規制当局からの度重なる警告を無視し続けた末に「甚大な被害の跡」を残したと指摘しました。カワ被告には禁錮70カ月(約5年10カ月)と事業収益500万ドル(約7億5000万円)の没収が命じられ、妹のステックオーバー被告にも禁錮16カ月の判決が下されています。被害の実例として、SARM製品を購入した消費者ダン・マーフィー氏のケースが報じられています。同氏は服用後に妄想や誇大思考、嚢胞性ニキビ、自殺念慮などの症状を発症し、「ステロイド誘発性精神病」と診断されました。独自に製品を検査したところテストステロンが検出されており、同氏は現在パラダイム社を提訴しています。
補足情報
米国では近年、筋力増強やアンチエイジング目的でペプチドを個人輸入する動きが拡大しており、BPC-157(組織修復効果が期待される合成ペプチド)など特定製品名がSNSで話題になることも珍しくありません。一方で規制の方向性は一枚岩ではなく、ロバート・ケネディ・ジュニア米厚生長官はペプチドへのアクセス拡大を公に支持しており、FDAの諮問委員会も一部ペプチド6種類について利用範囲を広げるよう勧告しています。パラダイム社が閉鎖された後も、酷似した名称・デザインのサイトが新たに出現していることが報じられており、規制と市場拡大のいたちごっこが今後も続く可能性があります。
まとめ
「研究用」の看板を掲げながら実質的に人体用として未承認薬を大量販売していたパラダイム・ペプチズの摘発は、5万人を超える消費者を巻き込んだ野放し市場の実態を浮かび上がらせました。経営者への禁錮70カ月という重い判決は業界への警鐘となりますが、類似サイトの新規出現や、当局内でのペプチド活用推進論も同時に進んでおり、今後の規制動向と消費者保護のバランスがどう取られるか注目されます。
出典:
CBS News
U.S. Department of Justice (District of Northern Indiana)