デビルズ・アロウズ – 巨石25トンを18km運んだ理由、英大学が粘着テープで解明

粘着テープを使った非破壊調査で、4000年前の英国最大立石群の起源を特定

英国北部の田園地帯に4000年近くもの間そびえ立つ謎の巨石群「デビルズ・アロウズ」。

その起源をめぐる長年の謎が、最新の研究でついに解明されました。

米科学メディアPhys.orgや英ScienceDaily、オーストラリアのカーティン大学が9月9日に相次いで報じ、研究成果は英国王立協会の学術誌「Proceedings of the Royal Society A」に掲載されています。

巨石はどこから、どのように運ばれてきたのか、そして建造者たちが遠方の石を選んだ理由とは何か、詳しく見ていきます。

「デビルズ・アロウズ」とは何か——英国最大級の立石列

英国イングランド北部ノースヨークシャー州、ボロブリッジの町近くに立つ「デビルズ・アロウズ」は、3本の巨石からなる立石列(直立させた巨石を一列に並べた先史時代の記念碑)です。

現存する英国の立石としては、ラドストン・モノリスに次ぐ2番目の高さを誇ります。

主な特徴は次の通りです。

  • 高さ:最大7メートル
  • 重量:1本あたり25トン
  • 推定建造年代:紀元前2000年頃(新石器時代末期から青銅器時代初期)

「デビルズ・アロウズ(悪魔の矢)」という名称は、18世紀の古物研究家ウィリアム・スタックリーが記録した伝承に由来します。

伝説によれば、悪魔が近くの丘の上からアルドバラの町を破壊しようと巨石を投げつけたものの、届かずに現在の場所に落ちたとされています。

なお当初は4本の石があったと伝えられていますが、現在残るのは3本のみで、失われた1本は後世に別の用途で使われたと考えられています。

巨石はどこから来たのか——粘着テープが解いた出所の謎

豪カーティン大学地球惑星科学部のアンソニー・クラーク博士を筆頭とする研究チームは、英ヨーク大学のジム・リアリー博士と共同で、巨石の産地を特定する調査を行いました。

これまで巨石は、比較的近いプランプトン・ロックスという岩場から切り出されたという説が有力視されていました。

しかし研究チームは、石の表面に粘着テープを押し当てて微細な鉱物粒子を採取するという、石を傷つけない新手法を用いて分析しました。

採取したジルコンやアパタイトといった鉱物に含まれるウランと鉛の比率を分析する「ウラン・鉛年代測定法」(鉱物中の放射性同位体の変化量から形成年代を推定する手法)を用い、いわば鉱物ごとの「指紋」を周辺の岩場の地質データと照合したのです。

その結果、巨石の本当の産地は、プランプトン・ロックスよりもさらに遠い、北ヨークシャーの「ブリムハム・ロックス」であることが判明しました。

巨石が置かれた場所からブリムハム・ロックスまでの距離は、少なくとも18キロメートルに達します。

1つあたりの重さは25トンにも及び、氷河による自然移動の可能性も併せて検証されましたが、これも否定されています。

つまり、巨石は自然の力ではなく、当時の人々の手によって意図的に、しかも近道をせず遠方から運ばれてきたことが裏付けられたのです。

なぜ近くの石ではなく遠くの石を選んだのか——考察

現代の感覚では、重機もない時代に25トンもの巨石をわざわざ18キロメートルも運ぶのは非効率極まりない選択に思えます。

しかしクラーク博士は、「これらの石が単に最も近い産地から調達されたのではなく、意図的に選ばれたものであることを、私たちの研究は示しています」と説明しています。

共同研究者のリアリー博士も、「今回の成果は、景観そのものや、共有された信仰体系の重要性を浮き彫りにするものだ」と述べています。

つまり建造者たちにとって、ブリムハム・ロックスという場所自体に、単なる石材以上の特別な意味があった可能性が高いというわけです。

研究チームによれば、同様のパターンは英国を代表する巨石記念碑「ストーンヘンジ」など、他の新石器時代の遺跡でも確認されているといいます。

ストーンヘンジの中心的な巨石の一部も、少なくとも225キロメートル離れたウェールズのプレセリ丘陵から運ばれたことが、英ロンドン大学(UCL)の研究などで知られています。

利便性よりも特定の土地が持つ象徴性を優先する傾向は、当時の広い地域で共通していたと考えられます。

このことは、先史時代の人々が単なる実用性だけでなく、特定の場所に宿る精神性や信仰を重視する高度な世界観を持っていたことを示唆しています。

日本にも、特定の岩石を神聖視し祭祀の対象とする「磐座(いわくら)信仰」があることを踏まえると、洋の東西を問わず、人類には特定の土地や岩石に特別な意味を見出す普遍的な心性があるのかもしれません。

今回の発見が持つ考古学的な意義

今回の研究は、デビルズ・アロウズの巨石の産地を初めて科学的に特定した点で、考古学的に大きな意義を持ちます。

これまで巨石建造物の産地特定には、石を削ったり穴を開けたりする破壊的なサンプリングが必要とされることが多く、貴重な史跡を傷つけるリスクが常に課題でした。

今回用いられた粘着テープによる採取法は、こうした課題を解決する画期的な手法として注目されています。

一方で、25トンもの巨石を実際にどのような方法で運搬したのかについては、そりや丸太を使ったとする推測はあるものの、詳細な手順は依然として明らかになっていません。

当時の人々がこれほどの重量物を長距離にわたって動かすには、多数の人手と高度な組織力、そして共同作業を可能にする社会的な結束が不可欠だったとみられています。

今回の成果がもたらす意義をまとめると、次のようになります。

  • 石を傷つけずに産地を特定できる、低侵襲な調査手法として確立
  • 今後、他の巨石記念碑の運搬経路解明にも応用が見込まれる
  • 巨石運搬には数百人規模の労働力と長期間の共同作業が必要だったと示唆

巨石建造とストーンヘンジ——先史時代の土木技術との共通点

デビルズ・アロウズのように、低地に単独で立石列が築かれた例は英国内でも珍しく、考古学的な価値が高いとされています。

研究チームが用いた粘着テープによる採取法は、遺跡を傷つけずに鉱物サンプルを得られる低侵襲な手法として、今後ほかの巨石文化財の調査にも応用が期待されています。

ちなみに現地では、失われたとされる4本目の巨石の一部が、近隣アルドバラの教会にある十字架の土台部分に転用された可能性も指摘されています。

先史時代の巨石建造は英国だけでなく、フランスのカルナック列石など欧州各地で見られる現象であり、当時の人々が広い交易・移動ネットワークを持っていたことを示す手がかりにもなっています。

まとめ

今回の研究により、「デビルズ・アロウズ」の巨石が、少なくとも18キロメートル離れたブリムハム・ロックスから、意図的に選ばれて運ばれてきたことが明らかになりました。

非破壊の粘着テープ採取法という新手法が、4000年前の建造者たちの意思決定を解き明かす鍵となった点も注目に値します。

今後は同様の手法を他の巨石記念碑にも適用することで、先史時代の人々がどのように特定の土地を「聖地」として選び、そこに込めた意味を解明する研究が進むと期待されます。

出典:
Phys.org
ScienceDaily
Curtin University
Sci.News

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