2025年5月、ポルトガルの大統領候補であり、急進右派政党「Chega（シェガ）」のリーダーであるアンドレ・ベンチュラ氏が、選挙集会中に突然体調を崩し、救急搬送されるという衝撃的な出来事が発生しました。
毒盛られたか？
— 五十嵐勉🌅火水風💧 (@TsutomuIkarashi) May 15, 2025
ポルトガル大統領候補の
アンドレ・ベンチュラ氏は
選挙集会中に突然体調を崩した。
政治家は水を一口飲んだ直後、
痛みで胸と首を押さえた。
彼はすぐに舞台から降ろされた。 pic.twitter.com/gkqh4Vi18r
水を一口飲んだ直後に胸と首を押さえ苦しむ姿はSNSやニュースで瞬く間に拡散し、「毒を盛られたのでは？」という憶測が飛び交いました。
しかし、現地の医療機関や公式発表は全く異なる見解を示しています。
本記事では、事件の経緯、SNS上の反応、医学的な診断、そして現代の選挙戦における情報拡散のあり方まで、分析します。
ベンチュラ氏の突然の体調不良―現場で何が起きたのか
2025年5月13日、ポルトガル南部アルガルヴェ地方タヴィラで行われた選挙集会で、アンドレ・ベンチュラ氏は演説中に突然体調を崩しました。
報道によれば、彼は水を一口飲んだ直後、急に胸と首を押さえて苦しみ出し、周囲のスタッフによってすぐに舞台から降ろされ、救急車でファロの病院へ搬送されました。
現地メディアや関係者の証言によると、ベンチュラ氏は意識を保ったまま搬送され、現場の医療スタッフの迅速な対応により大事には至りませんでした。
病院での検査の結果、彼は「食道けいれん（oesophageal spasm）」および血圧の急上昇という診断を受け、一晩入院した後、翌朝には退院しています。
この一件を受けて、Chega党は翌日の選挙イベントを中止し、党幹部が代わりに現場対応にあたりました。
ベンチュラ氏自身も「人生で初めての非常に怖い経験だった」とSNS動画で語り、医療スタッフや支援者に感謝の意を表明しています。
「毒盛り」説の拡散とSNSの反応
この事件が報じられるや否や、SNSやインターネット上では「毒を盛られたのでは？」という陰謀論が急速に拡散しました。
特にX（旧Twitter）や一部の海外掲示板では、「水を飲んだ直後に倒れた」という状況から、暗殺未遂や国外勢力の関与を疑う声が相次ぎました。
- 「ロシアの関与」や「政敵による暗殺未遂」といった根拠のない主張が拡散
- 「選挙直前の事件は偶然ではない」とする投稿が急増
- 一方で、「公式発表を待つべき」「事実無根のデマは危険」と冷静な意見も多数
ポルトガルでは選挙を前にSNS上での誤情報や扇動的な投稿が増加しており、政府も「EuroVerify」などのファクトチェック体制を強化しています。
実際、ベンチュラ氏自身もSNSを積極的に活用しており、「SNSの世論調査では我々がトップだ」と発信するなど、オンライン上の影響力は絶大です。
しかし、今回の「毒盛り」説については、現時点で信頼できる証拠は一切示されていません。
現地報道や医療機関の公式発表は、あくまで「医学的な体調不良」と断定しています。
医学的診断と公式発表―本当に「毒」なのか？
事件直後、ファロ病院の医師団はベンチュラ氏の症状について「食道けいれんと血圧の急上昇」と診断しました。
食道けいれん（oesophageal spasm）とは、食道の筋肉が異常に収縮することで激しい胸痛や飲み込み困難を引き起こす疾患で、ストレスや急激な温度変化、刺激物の摂取などが誘因となることがあります。
また、血圧の急上昇（高血圧発作）は、強いストレスや緊張、身体的負荷が重なった際に起こりやすく、特に選挙戦のような過酷な環境下では珍しいことではありません。
医師団は「安静と経過観察」を指示し、翌朝には退院を許可しています。
このような診断結果から、現時点で「毒物による中毒」や「他者による犯罪行為」を示唆する証拠は一切ありません。
病院側や党関係者も、事件性を否定しています。
ポルトガル政界と選挙戦の背景
今回の事件は、ポルトガルでわずか3年の間に3度目となる総選挙を目前に控えたタイミングで発生しました。
Chega党は近年急速に勢力を拡大し、直近の世論調査では第3党に躍進しています。
ベンチュラ氏は過激な発言とSNS戦略で支持を集めており、既存政党との対立も激化しています。
- 直近の信頼できる世論調査ではChega党は約15%の支持率で第3党
- 与党・社会民主党（PSD）は約30%、社会党（PS）は20%台後半
- 2024年の政権崩壊後、政界は混乱状態が続く
こうした状況下で起きたベンチュラ氏の体調不良は、選挙戦の行方や政界再編にも大きな影響を与える可能性があります。
事件後、与野党の主要政治家が相次いでベンチュラ氏の回復を祈る声明を発表し、政治的な駆け引きよりも人道的な対応が目立ちました。
情報拡散社会におけるリスクと課題
今回の「毒盛り」説のように、SNSやインターネット上では事実確認が不十分なまま情報が拡散しやすい傾向があります。
特に選挙戦や有名人の健康問題は、陰謀論やフェイクニュースの温床となりやすく、社会的混乱を招くリスクが高まっています。
ポルトガル政府は選挙に向けてファクトチェックや誤情報対策を強化していますが、個人のリテラシー（情報を正しく見極める力）も不可欠です。
今回のケースでは、公式発表や医療機関の説明を冷静に受け止めることが、社会の健全な議論を守る鍵となります。
食道けいれんとストレスの関係
食道けいれんは、強いストレスや精神的緊張が引き金となることが多い疾患です。
特に政治家や著名人のようなストレスフルな環境下では、突発的な発症例が報告されています。
症状は激しい胸痛や飲み込み困難、場合によっては呼吸困難を伴うこともあり、心筋梗塞と誤認されることもあります。
治療には安静、鎮痛剤、場合によっては筋弛緩薬などが用いられますが、根本的な予防にはストレス管理が重要です。
今回のベンチュラ氏のケースでも、選挙戦という極度の緊張状態が一因となった可能性が高いと考えられます。
まとめ
アンドレ・ベンチュラ氏の体調不良は、SNS上で「毒盛り」説が拡散するなど大きな波紋を呼びましたが、現時点で公式に「毒物」や「事件性」を示す証拠は一切ありません。
医療機関の診断は「食道けいれんと血圧上昇」であり、本人も順調に回復しています。
情報過多の現代社会では、冷静な事実確認とリテラシーがますます重要です。
今後も選挙戦や政治家の健康問題に関する情報には、慎重に向き合う姿勢が求められます。