2025年のMLBシーズン開幕戦で、ニューヨーク・ヤンキースが驚異的なホームラン記録を打ち立てました。
その裏には、新型バット「トルピード(魚雷)」の存在がありました。
There seems to be a lot of confusion about the Yankees new torpedo-style bats, but they are perfectly legal.
— Joe Pompliano (@JoePompliano) March 30, 2025
MLB bats must be made from one piece of solid wood, be no more than 2.61 inches in diameter at their thickest part, and not exceed 42 inches in length.
No problems here. pic.twitter.com/70JSOVaoGi
このバットは従来の形状とは異なり、バレル(打球部分)が手元に近い位置に設計されています。
これにより、選手たちの打撃効率が向上し、ホームラン数が劇的に増加したと言われています。
本記事では、この「トルピード」バットの特徴やその影響、さらに選手たちの反応について詳しく解説します。
トルピードバットとは?
「トルピード」バットは、従来のバットとは一線を画すデザインを持っています。
最大の特徴は、バレルが通常よりも手元に近い位置にあることです。
この設計は、選手がボールを打つ際の「スイートスポット」(最も効率よく打球できる部分)を広げることを目的としています。
設計のポイント
この新型バットはヤンキースの元アナリスト、アーロン・リーンハート氏によって開発されました。
彼は選手ごとの打撃データを分析し、それぞれに最適化されたモデルを提案しています。
アーロン・リーンハート氏とは?
アーロン・レーンハート(Aaron Leanhardt)は、元ミシガン大学の物理学教授であり、現在はMLBのマイアミ・マーリンズのフィールドコーディネーターを務めています。
4月1日、インタビューに応じたアーロン・リーンハート氏
アーロン・リーンハート氏インタビュー要約
- 開発期間: トルピードバットの開発には2年以上を要した。選手が新しいものに慣れ、調整を加えるには時間がかかる。
- 選手への感謝: トルピードバットの開発は、初期段階から協力してくれた選手たちのおかげである。2023年から試作品を試し、フィードバックを提供してくれた選手に感謝している。
- ニックネーム: ヤンキースのジャズ・チザムがトルピードバットを「使わない部分の木材を、使う部分に移動させただけ」と表現したことについて、レーンハート氏は「非常に正確な表現」と評価している。
- アイデアのきっかけ: 2022年のオフシーズンに、選手や打撃コーチからバットに関する質問が出始めたことがきっかけ。選手たちが実際にボールを打つ位置が、バットの最速部分ではないことに気づいたのが、開発の転換点となった。
- マーリンズでの導入: マーリンズでも革新的な取り組みを重視しており、近いうちにトルピードバットが導入される予定。選手たちからも関心が寄せられている。
- 隠れた努力: 多くの選手が以前からトルピードバットを使用していたが、注目を浴びることを望んでいなかった。
- 採用理由: マーリンズがレーンハート氏を採用した理由の一つは、彼の革新的な取り組みを評価したから。チームには、目立たないところで素晴らしい仕事をしている人がたくさんいる。
- 過去の経験: 物理学や電気工学のバックグラウンドを持つレーンハート氏に、過去の同僚から多くのメッセージが寄せられている。データ分析や物理学が野球に良い影響を与えていることに興奮している。
- 試行錯誤: 選手たちが快適に使えるように、数多くの試作品を作成した。
- 現状に満足しない姿勢: 現状に満足せず、常に改善を目指している。
背景と開発経緯
リーンハートはミシガン大学で電気工学の学位を取得し、その後MITで物理学の博士号を取得しました。
NASAが資金提供する先端研究にも携わった経験を持つ彼は、2017年に野球界に転身しました。
2022年にはヤンキースのマイナーリーグ打撃部門で「トルピードバット」のコンセプトを開発し始め、2024年にはヤンキースのメジャーリーグチームでリードアナリストとしてそのデザインを本格的に導入しました。
<物理の講義をするリーンハート氏>
MLBへの影響
ヤンキースがこのトルピードバットを使用したことで、2025年シーズン開幕戦では歴史的な攻撃力を発揮しました。
ただし、アーロン・ジャッジのように従来のバットで結果を出している選手もおり、全員がこの新しいバットを採用しているわけではありません。
今後の展望
現在リーンハートはマーリンズで活動していますが、マーリンズの選手たちはまだトルピードバットを採用していません。
しかし、彼はこの革新的なデザインが今後MLB全体で広く受け入れられる可能性があると考えています。
他チームでもその効果が検証されることで、更なる普及が期待されています。
驚異的なホームラン記録とその背景
ヤンキースは開幕戦で15本ものホームランを放ち、MLB記録に並びました。
12 HOMERS IN 12 INNINGS THESE TORPEDO BATS ARE INSANEpic.twitter.com/MgLejdFF4b
— Codify (@CodifyBaseball) March 30, 2025
そのうち9本は「トルピード」バット使用者によるものでした。
- アンソニー・ボルピー:3ランホームラン。
- コディ・ベリンジャー:新型モデルで安定したスイング。
- ポール・ゴールドシュミット:パワーと精度を両立。
特筆すべきは、この記録が単なる偶然ではない可能性です。
「トルピード」バットによってスイートスポットが広がり、選手たちはより多くのボールを理想的な位置で捉えることができるようになったと言われています。
選手たちの反応と意見
新型バットへの反応はさまざまです。
一部の選手はその効果を称賛し、他方では懐疑的な声も聞かれます。
肯定派
- ボルピー:「もし1シーズンで1球でもファウルを防げるなら試す価値あり」
- ベリンジャー:「重心が手元寄りでスイングが軽く感じる」
否定派
- アーロン・ジャッジ:「過去数シーズンで結果を出しているので必要ない」
- ネスター・コーテス(相手投手):ホームラン数増加は単なる技術進化だと主張
このように、「トルピード」バットの導入は選手ごとの好みによる部分も大きいです。
野球界への影響と今後の展望
この新型バットは野球界全体にどのような影響を与えるのでしょうか?
MLBは既存規定内であることを確認していますが、その革新性から議論が巻き起こっています。
技術革新
- バットデザインによるプレイヤーパフォーマンス向上。
- 他チームへの波及効果(例:オリオールズやレイズでも試験的導入)。
懸念点
- 「心理的効果」が実際のパフォーマンス改善につながっているかどうか。
- 長期的な使用による怪我や疲労への影響(例:スタントンの肘問題)。
MLB全体で進む技術革新
MLBでは近年、技術革新が進んでいます。
「トルピード」バット以外にも以下のような取り組みがあります。
ピッチングラボ「ガスステーション」でリアルタイム分析
ヤンキースが設立したピッチングラボ「ガスステーション」は、フロリダ州タンパにあるマイナーリーグ施設内に設置され、2020年から運用されています。
この施設は、投手の技術向上を目的とした先進的なテクノロジーを活用しており、他のMLBチームにも影響を与えています。
- リアルタイムデータの活用: 高速カメラやレーダー技術(例:TrackManやRapsodo)を使用して、投球ごとの速度、スピンレート(回転数)、スピン軸などを即座に分析します。
- 投球の形状改善: 投手は特定の球種(例:スライダーやカーブ)の最適な形状を追求するためのデータを即座に確認できるため、効率的なトレーニングが可能です。
- 心理的効果: 「手元でデータを見ることで、自分の感覚だけでなく視覚的な理解が深まる」と選手たちは述べており、技術と感覚が融合したトレーニングが行われています。
このようなラボはMLB全体で普及しつつあり、投手たちが新しい球種や戦略を迅速に導入できる環境を整えています。
ベースランニング技術向上(モメンタムリード)
「モメンタムリード」は、ベースランニングにおける新しい技術で、走者が次の塁への動きを効率化するための戦略です。
この技術は特に盗塁成功率を高めるために注目されています。
- 基本技術: 走者はピッチャーの動作に合わせて「1、2、3」とカウントしながらリードを取り、タイミングよく次の塁へ進む準備をします。
- 盗塁成功率向上: モメンタムリードでは、走者が足元の動きをコントロールしながら勢いをつけるため、盗塁時に必要な距離とタイミングが最適化されます。
- 戦略的要素: MLBではベースサイズの拡大やピッチクロック導入などルール変更が行われており、この技術はそれらの変化に対応する形で進化しています。
この技術は走者だけでなくコーチにも重要であり、「タイミング」「距離」「予測」の3要素を組み合わせることで盗塁成功率を最大化しています。
守備シフト規制によるゲームダイナミクス改善
守備シフト規制は2023年からMLBで導入され、2025年にはさらに厳格化されています。
この規制は攻撃側の打撃成績改善と試合展開の活性化を目的としています。
- 規制内容: 守備側は二塁ベースの両側にそれぞれ2人以上の内野手を配置してはならず、違反した場合は打者が一塁へ進む権利が与えられるなど厳しいペナルティがあります。
- 攻撃への影響: 極端なシフトにより打者がアウトになる確率が高まっていましたが、新ルールによって打撃成績(例:バッティング平均)が改善されつつあります。
- 試合時間短縮効果: シフト規制やピッチクロック導入により試合時間が短縮され、観客にとっても魅力的なゲーム展開となっています。
守備シフト規制は攻撃側と守備側双方に新たな戦略的課題を生み出し、ゲーム全体のダイナミクス変化につながっています。
これら3つの要素はMLB全体で進む技術革新を象徴しており、それぞれが選手たちのパフォーマンス向上や試合展開への影響に寄与しています。
これらの取り組みは競技力向上だけでなく、観客へのエンターテインメント価値も高めています。
まとめ
ヤンキースの「トルピード」バット導入は野球界に新たな風を吹き込んでいます。
その効果はまだ完全には証明されていませんが、選手たちやファンに与える心理的影響は計り知れません。
今後、この技術革新が他チームにも広まり、MLB全体でどのような変化をもたらすか注目されます。
あなたもぜひ次回試合でその成果をご覧ください!