米国のTikTok禁止法案を前に、70万人以上がRedNoteに移行
TikTokの禁止が迫る中、アメリカのユーザーたちが新たな活路を見出そうとしています。
その行き先は意外にも、中国発のSNSアプリ「RedNote(小紅書)」。わずか2日間で70万人以上の新規ユーザーが殺到し、アメリカのApp Storeでダウンロードランキング1位に躍り出ました。
この現象は単なるアプリの乗り換えなのか、それとも米国政府への抗議なのか。
TikTok難民たちの動向から、デジタル時代の国際関係の複雑さが浮き彫りになっています。
TikTok難民の大移動
予期せぬ人気急上昇
RedNote(中国名:小紅書)は、中国版Instagramとも呼ばれる写真共有アプリです。
これまで主に中国国内のユーザーをターゲットにしていましたが、突如として米国ユーザーの注目を集めることになりました。
その理由は、2025年1月19日に迫るTikTok禁止法案です。
ByteDanceがTikTokの米国事業を売却しない限り、アプリの使用が禁止されるという法案に対し、多くのユーザーが代替プラットフォームを探し始めたのです。
RedNoteは、この予期せぬ人気に戸惑いながらも、チャンスと捉えています。
急遽、英語コンテンツのモデレーション体制を整えたり、英中翻訳ツールの開発に着手したりと、グローバル展開への準備を進めています。
文化交流の場に
RedNoteでは、「TikTok難民」と題されたライブチャットルームに5万人以上のアメリカ人と中国人ユーザーが集まり、即興の文化交流が行われました。
食文化や若者の就職問題など、様々なトピックについて意見を交わす姿が見られました。
一方で、センシティブな話題に触れようとするアメリカ人ユーザーに対し、中国人ユーザーが慎重な対応を取る場面もありました。
例えば、「中国と香港の法律の違いについて聞いてもいいですか?」という質問に対し、「ここではそういう話題は避けた方がいいです」と返答するなど、文化の違いも浮き彫りになっています。
RedNote(小紅書)とは
RedNote(中国名:小紅書)は、2013年に中国で設立された人気のSNS型ECアプリです。
https://play.google.com/store/apps/details?id=com.xingin.xhs&hl=ja
主に若い女性ユーザーに支持されており、月間アクティブユーザー数は約3億人に達しています。
主な特徴
コンテンツ共有
ユーザーは写真や動画を通じて商品レビューやライフスタイル情報を共有します。特にコスメやファッション関連の投稿が多く見られます。
EC機能
投稿内から直接商品を購入できる仕組みがあり、ライブコマースも人気です。
KOL(Key Opinion Leader)によるリアルタイムのプロモーションが行われています。
コミュニティ形成
ユーザー同士の交流が活発で、コメントやいいねを通じてコミュニケーションが促進されます。
主要機能
投稿・シェア機能
「ノート」と呼ばれる投稿形式で、写真や動画を中心とした視覚的なコンテンツを共有できます。
検索・発見機能
AIによるパーソナライズされたコンテンツ推薦やカテゴリー別の簡単検索が可能です。
ライブストリーミング
インフルエンサーやブランドがリアルタイムで視聴者と交流し、商品紹介や即時購入につなげることができます。
ユーザー層
主に中国国内の若年層、特に女性ユーザーが多くを占めています。
近年では中国国外でも利用者が増加しており、アジア圏で特に人気が高まっています。
コンテンツの特徴
美容情報、コスメレビュー、ファッションコーディネートなどが人気のコンテンツです。
ユーザーは商品の使用感や効果を詳細に共有し、他のユーザーの購買決定に影響を与えています。
ビジネス活用
インフルエンサーマーケティングや企業の公式アカウント運用など、ブランドプロモーションの場としても活用されています。
特に、中国市場への進出を目指す海外ブランドにとって重要なプラットフォームとなっています。
TikTok禁止法案の影響
国家安全保障vs表現の自由
TikTok禁止法案の背景には、国家安全保障上の懸念があります。
米国司法省は、中国がアメリカ人のデータをスパイ活動や脅迫、世論操作に利用する可能性があると指摘しています。
一方で、TikTokユーザーの中には、この法案を表現の自由への侵害と捉える声も少なくありません。
あるコンテンツクリエイターは、RedNoteへの移行を「サイレントプロテスト」と表現し、
「私たちアメリカ国民は、声を上げても無視されていると感じています。これは中指を立てて『ノー!私たちはこれが気に入らない!あなたたちは私たちの声を聞いていない!』と言う機会なのです」
と語っています。
他の中国アプリへの影響
専門家は、TikTok禁止法案が他の中国製アプリにも波及する可能性を指摘しています。
ウォルフェ・リサーチの米国政策・政治部門責任者は、「Lemon8やRedNoteなどの中国のソーシャルメディアアプリも、この規制の下で禁止される可能性があります」と述べています。
実際、ByteDance傘下の写真共有アプリLemon8も、RedNoteに次いでApp Storeのダウンロードランキング2位に入っています。
TikTok禁止法案が成立した場合、これらのアプリの運命も不透明になる可能性があります。
ユーザーの反応と今後の展望
新たなコミュニティの形成
RedNoteに移行したユーザーの中には、単なる代替プラットフォームとしてではなく、新たな可能性を見出す人もいます。
ボルチモア在住のコンテンツクリエイター、Stella Kittrellさん(29歳)は、「アメリカ人がRedNoteを使うことは、プライバシーの懸念やビジネスへの過度な介入に対する米国政府への皮肉な反応のように感じます」と述べ、中国企業とのコラボレーションに期待を寄せています。
一方で、RedNoteの人気が一時的なものに終わる可能性も指摘されています。
Laithlandさんは、「政府に中指を立てることに飽きたら、みんな別のところに行くでしょう。でも今のところ、ただぶらぶらしているだけです」と語っています。
プラットフォームの進化
RedNoteにとって、この急激なユーザー増加は大きなチャンスです。
TikTokのような世界的な人気を獲得する可能性を秘めています。
しかし、それには言語の壁や文化の違いを乗り越える必要があります。
RedNoteが英語圏のユーザーにも魅力的なプラットフォームとなるか、それとも一時的なブームで終わるのか。
今後の展開が注目されます。
TikTok禁止法案の経緯
TikTok禁止法案は、2024年4月にジョー・バイデン大統領によって署名されました。
この法律は、ByteDanceにTikTokの売却を求めるもので、9ヶ月の猶予期間と3ヶ月の追加猶予期間が設けられています。
しかし、TikTokは5月に法律の差し止めを求めて提訴しており、この裁判は数年に及ぶ可能性があります。
また、2024年の大統領選挙でドナルド・トランプ氏が勝利したことで、状況が変わる可能性もあります。
トランプ氏は選挙期間中、TikTok禁止を実施しないと発言していました。
まとめ
TikTok難民の大移動は、デジタル時代における国際関係の複雑さを象徴しています。
国家安全保障と表現の自由、テクノロジーの進化とプライバシーの問題など、様々な要素が絡み合っています。
RedNoteの急成長は、ユーザーたちの柔軟な適応力を示すと同時に、プラットフォーム間の競争の激しさも浮き彫りにしています。
今後、各国政府やテクノロジー企業がどのようにこの問題に対応していくのか、そしてユーザーたちがどのような選択をしていくのか、引き続き注目していく必要があるでしょう。