こちらはFast Companyで取り上げられた、ジョージ・メイスン大学の研究者によるティーンエイジャーのSNS利用に関する研究内容についての記事です。
ティーンエイジャーにとってSNSアルゴリズムが自己形成にどのような影響を与えているのか、その実態と課題について掘り下げた興味深い内容となっています。
SNSが若者の生活に深く浸透している現代、アルゴリズムによってカスタマイズされたコンテンツの氾濫が、彼らのアイデンティティ形成にどのような影響を及ぼしているのでしょうか。
この問題について、ジョージ・メイスン大学の研究チームが13歳から17歳のティーンエイジャーを対象に質的調査を実施し、SNS上でアルゴリズムによって提示される「あなたへのおすすめ」コンテンツが、彼らの自己イメージにどのように影響しているのかを探りました。
SNSアルゴリズムと「あなたへのおすすめ」機能
現在、FacebookやInstagram、TikTokなどのSNSでは、アルゴリズムによってユーザー個人の嗜好や行動履歴に基づいて、「あなたへのおすすめ」と称したコンテンツが表示されています。
これらのアルゴリズムは、ユーザーの行動データを学習し、個人に最適化されたコンテンツを自動的に選別して提示するよう設計されています。
一方で、このようなカスタマイズされた情報の氾濫が、特にアイデンティティが形成途上にある思春期の若者に与える影響については、さまざまな危惧の声も上がっています。
自己イメージの歪みや、現実とのギャップから来る問題など、深刻な影響が指摘されているのです。
ティーンエイジャーのアイデンティティ形成
思春期は人間が自己のアイデンティティを形成する上で極めて重要な時期です。
この時期に得られる経験や影響が、その後の人生観や価値観の基盤となります。
SNSアルゴリズムが提示するコンテンツがどのように受け止められ、自己形成にどう作用するのか、これは大きな関心事となっています。
研究結果から見えた実態
ティーンエイジャーはアルゴリズムの反映を正確だと認識
研究チームのインタビュー調査によると、ティーンエイジャーはSNSアルゴリズムによる「あなたへのおすすめ」コンテンツを、自分自身の正確な反映だと受け止めていることが明らかになりました。
「私が重要だと思うことを検索すると、トップに私のような人たちの良い議論が表示されます」
彼らは、TikTokなどのアルゴリズムが自分を正確に理解し、適切なコンテンツを選別できるようになったと考えています。
実際、自分の嗜好と合わないコンテンツが表示された場合でも、それを単なる過去の行動の名残や一時的な不具合だと片付けてしまうのです。
なお、過激な内容やセクシャルなコンテンツが表示された場合でも、ティーンエイジャーは自分自身に問題があると受け止めるのではなく、純粋な”ノイズ“だと認識しているようです。
アルゴリズムの反映を受け入れ、自己イメージを形成
このように、ティーンエイジャーはSNSのアルゴリズムをかなり正確だと認識しており、提示されたコンテンツを自分自身の鏡と捉えています。
彼らは「合っている」コンテンツを受け入れ、自己イメージの一部として組み込んでいくのです。
調査対象の10代は、自分の興味関心やスタイルに合わなければ、そのコンテンツを無視したり、スクロールを続けることで排除したりしていました。
確かに、嫌なコンテンツを無視できる一面はあるものの、彼らは結局のところアルゴリズムによる自己イメージの反映を受け入れてしまっているのが実態です。
プライバシーも引き換えに
こうしたアルゴリズムの反映を手に入れるために、ティーンエイジャーはプライバシーを多少なりとも放棄しています。自分の行動履歴やデータが解析され、その結果が提示されることを承知の上で、「自分を映す鏡」を手に入れているわけです。
彼らはこの取引を「よいもの」だと考えており、アルゴリズムによる自己イメージの歪みや、メンタルヘルスへの悪影響などについては、あまり意識していないようです。
過度なパーソナライズによる弊害
プライバシーの懸念
顧客のデータが過度に収集・活用されることで、プライバシーが侵害される可能性があります。約6割の顧客がAIによるカスタマイズに抵抗感を持っているといい、消費者の49%がブランドのデータ管理に不安を感じているというアンケート結果もあります。
情報の偏り
パーソナライズにより、過去の行動や興味関心に基づいた情報しか提供されない可能性があります。また、新しい情報や視点に触れる機会が減少し、情報が偏る恐れがあります。
課題と対策
アルゴリズムの影響は深刻
こうした研究結果から分かるように、ティーンエイジャーはSNSアルゴリズムの影響を過小評価している可能性が高いと指摘されています。
実際、専門家は若年層のSNS利用が自己イメージの歪みや精神的問題を引き起こしかねないと警鐘を鳴らしています。
思春期という時期は、人格形成期にあたり、SNSが与える影響は甚大です。現に、若者の間で拡大するボディイメージの障害(※)なども、アルゴリズムによる偏ったコンテンツの氾濫が一因になっているとの指摘があります。
ボディイメージの障害
これは「身体像の障害」とも呼ばれる問題で、自己の身体の一部を非現実的に大きいと感じたり、身体的外観を否定的に評価したりする障害です。
極端な食事制限(拒食症)や過度な量の食事(過食症)を伴う依存症の一種で、「極端なやせ願望」や「肥満恐怖」といった症状が見られます。
思春期女子を対象とした研究では、ボディイメージの不満が高いほど摂食障害の可能性が高いことが示されています。
対策への取り組みが必要
研究者からは、若者に向けたアルゴリズムリテラシーの教育や、プライバシー保護の仕組み整備など、さまざまな対策が提案されています。具体的には、以下のようなアプローチが検討されています。
- AI技術を活用した、危険なコンテンツのフィルタリングシステムの開発
- 若者に対し、アルゴリズムの実像を伝え、批判的思考を促す教育プログラムの実施
- クッキーの制限や匿名検索の促進など、プライバシー保護手段の普及
若者の主体的な関与が不可欠
研究者らは、対策を講じるにあたって重要なのは、単に規制を設けるのではなく、ティーンエイジャー世代自身を巻き込むことだと指摘しています。
彼ら自身が、アルゴリズムの影響について主体的に考え、課題解決に関与することが不可欠なのです。
実際、研究チームは世界的な学生団体「Encode Justice」と協力し、Gen Z世代の若者を交えたワークショップを開催。アルゴリズムの功罪について意見交換し、若者の視点から対策を検討する機会を設けています。
研究者自身も認めるように、アルゴリズムが席巻する社会で育った現代の若者の実態は、過去の常識では理解しきれません。だからこそ、当事者である彼らの生の声に耳を傾け、一緒に解決策を見出すことが重要なのです。
Encode Justiceとは
Encode Justiceは、人工知能(AI)の開発と利用において、人権と正義を組み込むことを目的とした団体です。主に、高校生や大学生などの若者が中心となって活動しており、AIの倫理的な利用を訴えかけています。
若者の参加と啓発 Encode Justiceは、高校生や大学生など、次世代を担う若者の参加と意識啓発を重視しています。世界中から1,000人以上の学生が参加しており、AIの倫理的な利用について議論を交わしています。[4]
グローバルな活動 Encode Justiceは、40以上の米国州と30か国以上から学生が参加する、グローバルな活動を展開しています。各地域の文化や価値観を尊重しつつ、AIの正義的な利用を訴えかけています。
現時点ではEncode Justiceの日本支部はないようです。
まとめ
ティーンエイジャーはSNSのアルゴリズムが映し出す自己イメージをある程度受け入れており、そのプロセスでプライバシーの一部を惜しみなく手放しています。一方で、その影響は思わぬところで自己形成に歪みをもたらしかねません。
この問題に対処するには、AI技術の活用やプライバシー保護の取り組みと併せて、若者自身がアルゴリズムのリスクを理解し、主体的に関与することが不可欠です。
アルゴリズムが席巻する社会において、次世代を担う彼らの意識を高め、健全な自己形成を後押しすることが喫緊の課題なのです。