IHIは、子会社のIHI原動機が船舶用ディーゼルエンジンの試運転データを長年にわたって改ざんしていたことを発表しました。これは重大な不正行為であり、企業の信頼を大きく損なう事態となっています。
IHIは4月25日、子会社のIHI原動機が2003年以降に出荷した船舶用ディーゼルエンジンの約9割にあたる4,215台でデータ改ざんを行っていたと発表しました。 これは、企業の社会的責任を問われる重大な問題であり、IHIの信頼を大きく損なう事態となっています。
データ改ざんの実態
IHI原動機は、新潟内燃機工場と太田工場の2工場で、「燃料消費率」を改ざんして出荷していたことが明らかになりました。
具体的には、改ざんが判明した2,046台の半数は、仕様書に記載された燃費率を満たしていなかったというのです。
さらに、海外向けの製品では、NOx(窒素酸化物)排出規制を逸脱している可能性があったことが指摘されています。
NOxは大気汚染の主要因の一つであり、環境への悪影響が懸念されます。
また、陸上用エンジンでも約2割の146台でデータ改ざんが行われていたことが判明しています。 つまり、IHI原動機の不正行為は船舶用エンジンだけでなく、陸上用エンジンにも及んでいました。
改ざんが発覚した経緯
24年2月下旬にIHI原動機の従業員から内部告発があり発覚しました。
エンジンの製品用途
現時点までの調査における、改ざんがあったエンジンの製品用途
船舶用エンジンの製品用途は,公官庁船,漁船,内航船,タグボート,作業船など。
陸上用エンジンの製品用途は,発電装置,鉄道車両など。
株式会社IHI原動機について詳しく調べてみました。
IHI原動機とは?
IHI原動機は、産業用、船舶用、陸用エンジンの開発に取り組む企業です。特に、船舶用エンジンとプロペラの開発・製造に強みを持っています。
社員数は1,547名です。(2022年3月31日現在)
IHI原動機の事業内容
- 産業用、船舶用、陸用エンジンの開発
- 船舶用エンジンとプロペラの開発・製造
- 発電プラントの設計
IHI原動機は国内外で、ディーゼルエンジン、ガスエンジン、ガスタービン、Z-drive推進システムなどの開発、製造、販売、メンテナンスで高い市場シェアを持っています。
IHI原動機の強み
- 船舶用エンジンとプロペラの開発・製造に強みを持つ
- 産業用、陸用エンジンの開発にも取り組む
- 発電プラントの設計にも実績がある
- 国内外で高い市場シェアを誇る
IHI原動機の歴史
1895年に日本石油株式会社の新潟鐵工所が創設され、1910年に株式会社新潟鐵工所として独立しました。
1919年には日本初の舶用ディーゼルエンジンを開発しました。
1960年、石川島重工業と播磨造船所が合併し、石川島播磨重工業株式会社が発足しました。
2003年新潟原動機株式会社として原動機事業を承継
2019年にIHIの原動機部門を統合して、株式会社IHI原動機に商号変更しました。
IHI原動機は、長年にわたり船舶用エンジンの開発に注力してきました。最近では、環境対応型のエンジン開発にも力を入れています。
信頼を裏切った企業の責任
IHIは、このような重大な不正行為を認めざるを得ない状況に追い込まれました。
企業にとって、製品の品質と安全性を担保することは最も重要な責務の一つです。にもかかわらず、IHI原動機はデータを改ざんして出荷していたのです。
IHIグループでは、2019年にも航空機エンジンの整備で不正行為が発覚しており、今回の事件は2度目の不正事件となります。
これは、企業の社会的責任を著しく損なう行為であり、IHIの信頼を大きく裏切るものといえます。消費者や取引先、そして社会全体から強い批判を受けるのは必至でしょう。
再発防止に向けた取り組み
IHIは、この事態を重く受け止め、外部有識者による特別調査委員会を設置し、原因究明と再発防止策の策定を進めると述べています。
しかし、一度失われた信頼を取り戻すのは容易ではありません。
例えば、IHI原動機の製品を使用している船舶所有者からは、燃費性能に対する不安の声が上がっています。また、同社の製品を採用している自治体からも、調達見直しの検討が行われるなど、IHIの事業に大きな影響が出ています。
業界全体の信頼を揺るがす深刻な事態
さらに、この問題を受けて、国土交通省は他の製造業者に対しても立ち入り検査を行うなど、業界全体の燃費データの信頼性を確認する動きも出ています。IHIにとっては、単に自社の問題だけでなく、業界全体の信頼性が問われる事態となっているのです。
IHIには、徹底的な原因究明と、確実な再発防止策の実施が求められます。単なる謝罪だけでは不十分で、企業の姿勢と行動が問われることになるでしょう。
長年に渡る改ざんと隠蔽
IHI原動機は、1980年代後半から燃費データの改ざんを行っていたとの証言があります。つまり、この問題は長年にわたって隠蔽されてきたものであり、IHIにとっては極めて深刻な事態だと言えます。
また、IHIは特別調査委員会を設置し、再発防止策の策定を進めていますが、国土交通省は5月末までにその対応を求めています。つまり、IHIには短期間での対応が求められており、信頼回復には相当の努力が必要とされています。
IHIグループの社内風土の課題
組織的な不正行為の背景
2度にわたる不正事件の発覚から、IHIグループ内には組織的な不正を容認する風土が存在していたと考えられます。
コンプライアンス意識の欠如
この問題は長年にわたって行われてきたということから、コンプライアンス意識が十分ではなかったと指摘できます。
上司による部下への圧力
上司からの業績目標達成への強い圧力が、部下による不正行為を助長した可能性もあります。
組織的な隠蔽体質
2度にわたる不正事件の発覚から、IHIグループ内には問題を隠蔽しようとする体質があったと考えられます。
専門用語の解説
ディーゼルエンジン
圧縮着火式の内燃機関の一種で、ガソリンエンジンと比べて高効率かつ耐久性が高いことから、主に船舶や建設機械、発電機などに使用されています。
NOx(窒素酸化物)
大気汚染の主要因の一つで、呼吸器系への悪影響が指摘されています。ディーゼルエンジンからの排出が問題となっており、排出規制が設けられています。
まとめ
IHIの子会社であるIHI原動機による、船舶用ディーゼルエンジンの試運転データ改ざんは、企業の信頼を大きく裏切る重大な不正行為です。
製品の品質と安全性を担保することは企業にとって最も重要な責務の一つです。にもかかわらず、IHI原動機はこれを無視し、データを改ざんして出荷していたのです。
IHIには、徹底的な原因究明と確実な再発防止策の実施が求められます。単なる謝罪だけでは不十分で、企業の姿勢と行動が問われることになるでしょう。
信頼を失った企業が、再び社会から信頼されるためには、真摯な対応と、確実な改善への取り組みが不可欠です。IHIにはその責任があるといえるでしょう。