米国「若年死亡率危機」とは?25〜44歳で71%増、平均寿命38位に転落

米研究者分析、25〜44歳の死亡率は10万人中140→239人に急増

働き盛りのはずの米国の若者たちが、この10年余りで急速に「早死に」する国になっていることが、新たな研究で明らかになりました。

米バージニア・コモンウェルス大学のスティーブン・ウルフ教授が学術誌『ミルバンク・クォータリー』に発表した分析を、米メディアStudyFindsやNews-Medical.netが報じています。

薬物・自殺・事故といった従来注目されてきた原因だけでなく、生活習慣病による死者まで軒並み増えている点が専門家に衝撃を与えています。

25〜44歳の死亡率、10年余りで71%増

ウルフ教授の分析によれば、25歳から44歳までの米国人の死亡率は、2010年から2021年のあいだに71.2%も上昇しました。

人口10万人あたりの死亡者数で見ると、2010年の約140人から2021年には239人へと跳ね上がった計算になります。

この年齢層は本来、病気や事故のリスクが最も低いはずの世代です。

にもかかわらず、先進国の中で米国だけがこの年代の死亡率を大きく悪化させてきたと、研究は指摘しています。

結果として、2023年時点の米国の平均寿命は世界38位にまで後退しました。

1万人以上の人口を抱える国々の中で、これほど豊かな経済大国が平均寿命でここまで順位を落とす例は異例だといえます。

さらに深刻なのは、60カ国が「40歳になる前に死亡するリスク」において米国を下回っている点です。

つまり、多くの発展途上国よりも、米国の若者の方が40歳を迎えられずに命を落とす確率が高いということになります。

本来であれば、体力的にも経済的にも最も充実しているはずの年代で、これほど死亡率が悪化するのは極めて異例な事態です。

世帯の稼ぎ手や子育て世代がこれほどのペースで失われれば、地域経済や家族構成そのものにも長期的な影響が及びかねません。

この傾向がこのまま続けば、米国の労働力人口の構成そのものにも影響が出てくる可能性があります。

薬物だけでない「複合的な死因」の実態

今回の死亡率危機は、これまで盛んに語られてきた薬物過剰摂取だけが原因ではありません。

研究が指摘する主な死因の増加は、以下の通りです。

  • 薬物の過剰摂取死:1999年以降7倍に増加し、25〜44歳の死因トップに
  • 自殺:2000年から2023年にかけて40%以上増加
  • 殺人:2014年から2021年で75.5%増加
  • 交通事故死:2014年から2021年で43.5%増加
  • 糖尿病など代謝疾患:2010年から2019年で約25%増加
  • アルコール性肝疾患:2010年から2023年で2倍以上に増加
  • 高血圧関連疾患:2000年から2023年で2倍以上に増加

ウルフ教授は、こうした死因を個別の問題として扱う従来のアプローチそのものに疑問を投げかけています。

論文では「過剰摂取死、自殺、慢性疾患を別々の問題として扱うことは、全体像を見誤らせる」と述べられています。

薬物依存も生活習慣病も、根底にある同じ「放置」の症状に過ぎないという見立てです。

事故や事件のような突発的な死因と、糖尿病や高血圧のようにじわじわ進行する死因が同時に急増している点が、この分析の異様さを物語っています。

一つの原因を叩けば解決するという単純な構図ではなく、複数の死因が同時多発的に悪化している点こそが、今回の研究の核心だといえます。

地域格差はもはや「国家間格差」の規模

ウルフ教授の分析でとりわけ注目されているのが、米国内の地域による健康格差の大きさです。

ハワイ州の平均寿命は、スウェーデンやアイルランドといった西欧の先進国と肩を並べる水準にあります。

その一方で、ミシシッピ州の平均寿命は、リビアやベネズエラ、シリアといった国々に近い水準まで落ち込んでいます。

2021年時点では、複数の州が北朝鮮やシリアをも下回る平均寿命を記録したといいます。

同じ国、同じ通貨、同じ連邦政府のもとにありながら、州によって「先進国並み」から「紛争国並み」まで健康状態が分かれているわけです。

南部の「ディープサウス」地域やアパラチア山脈周辺、地方の農村部で死亡率の上昇が特に目立つと分析は指摘しています。

この地域差は、単純な貧富の差だけでは説明しきれない構造的な問題を示唆しているといえるでしょう。

国民皆保険制度のもとで地域間の医療格差が比較的小さい日本の視点から見ると、この州ごとの落差の大きさは異様に映るかもしれません。

研究者が挙げる「5つの背景要因」

ウルフ教授は、米国の若年層の健康状態がここまで悪化した背景として、大きく5つの要因を挙げています。

  • 国民皆保険制度が存在しないこと
  • 喫煙や食生活など、個人レベルでのリスクの高い行動
  • 他の先進国と比べて大きい所得格差と貧困
  • 歩行者より自動車を優先してきた都市・生活環境
  • 他国と比べ、集団の福祉よりも個人の自己責任を重んじる政策・価値観

新型コロナウイルスの流行も、こうした既存の悪化傾向をさらに加速させたと分析されています。

ウルフ教授は「我々には解決策がないわけではない。長年米国を上回る成果を上げてきた他国が、より良い健康状態が実現可能であることを証明している」と述べています。

そのうえで「米国に欠けているのは解決策ではなく、政治的な意志だ」と強調しました。

裏を返せば、原因はすでに特定されているにもかかわらず、政策として実行に移されていないという厳しい指摘でもあります。

医療保険制度や都市計画といった構造的な要因が並ぶ点は、個人の努力だけでは解決できない問題であることを浮き彫りにしています。

関連データで見る米国の健康格差

今回の分析は、国連経済社会局や米CDCの公的統計データベース、経済協力開発機構(OECD)加盟の豊かな16カ国のデータなどを組み合わせて行われました。

対象期間は1999年から2023年、州別の分析については1941年以降のデータまでさかのぼっています。

なお、別の研究では1999年から2023年の死亡者数だけで約340万人にのぼるとされ、2023年の死亡率はコロナ禍前の傾向が続いていた場合の想定より70%高い水準にあることも報告されています。

研究チームは、薬物・アルコール関連死や交通事故死、循環器・代謝疾患による死が、いずれも「個別の流行」ではなく共通の土壌から生じている可能性を強調しています。

まとめ

今回の分析は、米国の25〜44歳という働き盛り世代の死亡率が、10年余りで71%も上昇したという衝撃的な実態を明らかにしました。

薬物・自殺・事故に加え、生活習慣病まで同時に悪化している点は、単一の政策では解決しにくい根深い問題であることを示しています。

ハワイとミシシッピの平均寿命が先進国と紛争国ほど懸け離れている現実は、米国内の格差の深刻さを象徴しているといえるでしょう。

今後、この分析が米国内の医療保険制度改革や地域格差是正の議論にどうつながっていくのか、注視する必要がありそうです。

出典:
StudyFinds
News-Medical.net
Boston University School of Public Health

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