CTE(慢性外傷性脳症)とは?元NFL選手の4人に1人が発症、米1712人調査で判明

米研究チームが死亡証明書1712人分を分析、選択バイアスを補正した新推計

アメリカンフットボールの元選手に多発する脳疾患「CTE」について、これまでで最も精度の高いとされる有病率調査の結果が発表されました。

米ハーバード大学附属マス・ジェネラル・ブリガム病院の研究チームが医学誌The BMJに発表した論文で、2016年から2021年の間に死亡した元NFL選手のうち、少なくとも4人に1人がCTEを発症していたと結論づけています。

NPRやBMJグループの発表をもとに、調査の詳しい内容と意味するところを解説します。

CTEとは何か——頭部への繰り返しの衝撃で起きる脳疾患

CTE(慢性外傷性脳症、Chronic Traumatic Encephalopathy)は、脳振盪など頭部への軽度な衝撃を長期間繰り返し受けることで発症するとされる進行性の神経変性疾患です。

うつ症状や攻撃性の亢進、記憶障害や認知機能の低下といった症状が現れるとされています。

現時点では生前の診断方法が確立しておらず、死後に脳を解剖して初めて確定診断が可能になるという特徴があります。

アメリカンフットボールのほか、ボクシングやアイスホッケーなど頭部への衝突が多い競技の元選手で報告例が多く、社会的な関心を集めてきました。

調査の方法——死亡証明書1712人分から出発した点が新しい

これまでのCTE研究の多くは、遺族や本人が生前の症状を自覚し、研究目的で脳を提供した事例に基づいていました。

この手法では、症状に心当たりがある人ほど脳を提供しやすいという「選択バイアス」が生じ、有病率を実態より高く見積もってしまう恐れが指摘されてきました。

今回の研究チームは、1949年以降にNFLの試合に一度でも出場した全選手を対象にリストを作成しました。

その上で米疾病対策センター(CDC)の死亡データと照合し、2008年から2021年の間に死亡した1712人を特定しています。

このうち脳提供率が最も高かった2016年から2021年の期間に絞ると、死亡した元選手878人のうち脳を提供したのは235人にとどまりました。

母集団全体を分母に据えることで、提供者に偏りがあっても実態に近い有病率を推計できる設計になっています。

判明した数値——最低でも4人に1人、最大では9割超の可能性

脳を提供した235人のうち、215人(91.4%)がCTEと確定診断されました。

この結果から研究チームは、元NFL選手全体でのCTE有病率を少なくとも約25%と算出しています。

一方、脳が明確に「CTEなし」と確認された20人を除く全員が発症していたと仮定した場合の上限値は、約97%にのぼるとしています。

つまり実際の有病率は、この25%から97%という幅の間のどこかに存在するとみられます。

さらに、脳を提供しなかった元選手の死亡証明書を調べたところ、219人について神経変性疾患が死因として記載されていたことも分かりました。

症状が最も重い「ステージIV」のCTEと診断された元選手では、6割前後が生前に臨床的な認知症の基準を満たしていたことも判明しています。

研究を率いたダニエル・ダネシュバー医師は、「この病気が繰り返しの外傷性脳損傷によって引き起こされることは分かっていたが、どれほど一般的なものかは分かっていなかった」と述べています。

考察——「9割超」という従来の数字との落差が意味するもの

ボストン大学のCTEセンターにこれまで提供された元NFL選手の脳のうち、実に93%程度がCTEと診断されてきました。

この数字だけを見ると、元NFL選手のほとんどがCTEを発症するかのような印象を与えてきました。

しかし今回の研究は、その93%という数字が脳提供者という偏った母集団に基づく数字であり、選手全体の実態を必ずしも反映していなかった可能性を示しています。

とはいえ、算出された最低値の25%であっても、一般人口における同種の神経変性疾患の有病率と比べれば依然として高い水準です。

選択バイアスを補正してもなお高い数値が残ったこと自体が、アメリカンフットボールという競技の特性とCTE発症との関連を裏付ける結果だといえます。

補足情報——研究の限界と資金提供元

今回の研究には、米国立神経疾患・脳卒中研究所(NINDS)や米国立加齢研究所(NIA)などが資金を提供しています。

研究チーム自身も、追跡できなかった元選手が一部存在する点や、家族への聞き取りに基づく生前の症状評価には記憶の誤りが混じる可能性がある点を限界として認めています。

CTEは映画「Concussion(コンカッション)」でも題材として取り上げられ、米国では社会問題として広く知られるようになりました。

NFLは近年、ヘルメットの改良やタックル規則の変更、脳振盪プロトコルの厳格化など安全対策を進めていますが、今回の調査対象となった選手の多くはこうした対策が本格化する前に現役だった世代です。

まとめ——現役選手や他競技への影響も注目点

今回の調査により、元NFL選手のCTE有病率は少なくとも25%、上限では97%に達する可能性があると推計されました。

従来の「9割超」という数字は脳提供者に偏りがあった結果である一方、選択バイアスを補正した後も無視できない高さの有病率が残った点は重く受け止められています。

今後は、安全対策強化後の世代を対象にした追跡調査や、生前診断技術の確立が課題になるとみられます。

アメリカンフットボールに限らず、頭部への衝撃を伴う他競技への影響を含めて、研究の進展が注目されます。

出典:
NPR
BMJ Group
Medical Xpress

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