AI生成のマドンナ・カバーが全国4位に急上昇、豪州が「人間性」守る新ルール導入
オーストラリアの音楽チャートを運営する業界団体ARIA(Australian Recording Industry Association)が、AIのみで制作された楽曲をチャートから除外する新ルールを発表しました。
きっかけとなったのは、マドンナの名曲「Like a Prayer」をAIでカバーした楽曲が急浮上し、全国ラジオで最も再生された1曲になった出来事です。
ABCニュースやRTEなど複数の海外メディアが報じたこの決定は、AIと音楽業界の関係を占う試金石として世界的に注目を集めています。
ARIAとは?豪州の音楽チャートを統括する業界団体
ARIAは、オーストラリアで音楽の売上や再生回数を集計し、公式チャートを発表している業界団体です。
日本で言えばオリコンやBillboard JAPANのような存在で、アーティストの人気やヒット曲を測る公的な指標として機能しています。
このARIAが、「Charts Code of Practice(チャート運用規定)」を改定し、AIが全体もしくは主要な創作部分を生成した楽曲をチャート対象から除外すると発表しました。
新ルールは今週金曜日の8月29日から施行される予定です。
一方で、作詞や編曲の一部にAIを補助的に利用した楽曲は、これまで通りチャートの対象として認められます。
つまり線引きの基準は「AIを使ったかどうか」ではなく、創作の主要な部分を誰が担ったかという点に置かれているのが特徴です。
この基準は運用次第で解釈の幅が生じる可能性もあり、今後どこまで厳密に判定されるのかが実務上の焦点になりそうです。
- AIが全体または主要な創作部分を生成した楽曲——チャート対象外
- 作詞・編曲・マスタリングなどでAIを補助的に利用した楽曲——チャート対象
- ストリーミングやチャート操作の疑いがある楽曲——チャート対象外
発端は「AIマドンナ」——Like a Prayerのカバーが全国4位に浮上
今回の規定改定のきっかけとなったのは、クイーンズランド州(ゴールドコースト)の音楽プロデューサー、ジョシュ・ファワズ氏が制作した楽曲です。
同氏はマドンナの1989年の代表曲「Like a Prayer」をダンス調にAIでカバーし、配信を開始しました。
この楽曲は今年5月にARIAの豪州シングルチャートで最高2位を記録し、8月時点でもトップ20入りする4位につけています。
さらに、オーストラリアのラジオで最も多くオンエアされた楽曲にもなりました。
ヒットの後になって、Spotifyの表記が更新され、ボーカルとドラムが生成AIによって作られたことが明らかになりました。
つまり、リスナーの多くは人間が歌っていると信じたまま、この楽曲を聴き続けていたことになります。
この一件が波紋を広げたのは、AI生成曲が単なる話題作りにとどまらず、既存の名曲の知名度を借りて実際に商業的成功を収めてしまったためです。
オリジナルの権利者であるマドンナ側の許諾がどこまで得られていたかは明確でなく、この点も業界の懸念を強めた一因とみられます。
新ルールの中身——「実質的に人間が作った」楽曲だけが対象に
ARIAのアナベル・ハード最高経営責任者(CEO)は、新ルールについて「チャートは音楽の消費動向を測るだけでなく、人間の創造性の成功を称えるものでもある」と説明しています。
そのうえで「オーストラリアのアーティストの枠を奪ってまで、AI生成音楽をチャートに含めることに、私たちは関心がない」と述べました。
新ルールのもとでARIAは、対象外と判断した楽曲をチャートから削除したり、順位を修正したり、すでに授与された賞を取り消したりする権限を持ちます。
一方でアーティスト側には、除外の判断に異議を申し立てる手続きも用意されています。
ハード氏は「これまでもアーティストは常に新技術の最前線に立ってきた」とも語り、AIの活用自体を否定しない姿勢も示しました。
この発言からは、ARIAが目指しているのはAI技術そのものの排除ではなく、人間の創作物としての信頼性の担保だという姿勢がうかがえます。
録音・編集・マスタリングなど制作工程の一部にAIツールを使うことは今や一般的であり、どこまでを「補助」とみなすかは今後の運用実績を通じて明確化されていくとみられます。
- 対象外と判断した楽曲のチャートからの削除
- チャート順位の修正
- すでに授与された賞の取り消し
- アーティスト側からの異議申し立ての受け付け
音楽業界からの反応、「盗用」への怒りも
豪州の人気デュオ「ペキン・ダック」のアダム・ハイド氏は、今回の決定を支持する一人です。
同氏は「AIは私たちの楽曲を使っている。仲間のミュージシャンたちの楽曲も、多く使われている」と指摘しました。
そのうえで「(AI生成曲を)チャートから締め出すべきだ」と明言しています。
背景には、生成AIモデルの多くが、権利者の許諾を得ないままアーティストの既存楽曲を学習データとして利用しているという問題があります。
著作権者の同意なく作品を学習に使われることへの反発は、音楽業界全体で根強く残っています。
ミュージシャンたちの怒りの根底には、自分たちが積み上げてきた作品や表現が、対価を伴わないまま新たな作品を生み出す「学習データ」として消費されているという不公平感があります。
チャートという公的な指標にAI生成曲が並ぶことは、こうした構造的な問題を可視化し、既存アーティストの経済的な機会を奪いかねないとの危機感につながっています。
世界に広がる「AI楽曲」規制——IFPIが主導
今回のARIAの決定は、単独の動きではありません。
レコード業界の国際団体IFPI(国際レコード産業連盟)は今年7月、AI生成音楽に関するガイドラインを策定しました。
このガイドラインはすでにラテンアメリカ、中東、アフリカ、東南アジアを含む20以上の公式チャートプログラムに採用されているといいます。
ARIAもこの国際的な枠組みに足並みをそろえた形です。
今後、米国のBillboardチャートや英国の公式チャートなど、主要市場がどこまで追随するかが焦点になりそうです。
背景には、世界的な音楽消費のデジタル化が進むなかで、生成AIによる楽曲制作コストが急速に下がり、粗製濫造とも言える状況が生まれている事情があります。
各国のチャート運営団体が足並みをそろえて規定を整備する動きは、AIコンテンツの信頼性を担保する国際標準づくりの一環と位置づけることができます。
補足——広がるAI楽曲、プラットフォーム側の対応
音楽配信の現場では、AI生成コンテンツの急増がすでに大きな課題となっています。
関連報道によれば、Apple Musicへの新規アップロード楽曲のうち、実に3分の1以上がAIのみで生成された楽曲だといいます。
Spotifyも対応を進めており、AIで生成されたペルソナ(架空のアーティスト人格)には専用のバッジを表示し、標準のおすすめ機能からは除外する方針を示しています。
ただしこのバッジはアーティストのプロフィール単位で付与されるもので、楽曲一つひとつを識別する仕組みではない点には注意が必要です。
ARIAは1983年に設立された業界団体で、豪州の音楽賞「ARIA Music Awards」の主催団体としても知られています。
まとめ——「人間らしさ」を守れるか、今後の焦点
今回のARIAの決定は、AIが音楽制作に深く浸透する中で、チャートという「人気の物差し」をどう守るかという課題への一つの答えです。
新ルールは8月29日から施行され、AIが主要な創作部分を担った楽曲はチャート対象外となります。
一方で、AIを補助的に使う楽曲は引き続き認められるため、線引きの運用が今後の課題になりそうです。
IFPIの枠組みのもとで同様の動きが他国にも広がるか、そして日本の音楽チャートがどう対応するかにも注目が集まります。