AI向けメモリ需要の急増が、ゲーム機の値上げと販売不振を招く
2026年も後半に入り、米国のゲーム市場に異変が起きています。
ゲーム専門メディアのIGNやGameSpot、GamesIndustry.bizなどが相次いで報じたところによると、2026年7月の米国内ゲーム市場は支出総額・ハード・ソフトのほぼ全項目で前年割れとなりました。
特にパッケージ版ソフトの売上高は、調査開始の1995年以来最低の水準まで落ち込んだといいます。
背景にあるのは、意外にも生成AIブームが引き起こした半導体不足でした。
支出総額は前年比10%減——ソフトもハードも周辺機器も総崩れ
米市場調査会社サーカナ(Circana、小売販売データの収集・分析を専門とする調査会社)のアナリスト、マット・ピスカテラ氏によると、2026年7月の米国内ゲーム消費支出は総額45億ドル(約6750億円)で、前年同月比10%減となりました。
内訳を見ると、ソフトなどの「コンテンツ」支出が44億5000万ドルから40億7000万ドルへと9%減。
ハード(ゲーム機本体)支出は3億9500万ドルから2億8200万ドル(約423億円)へと29%減。
周辺機器も1億8900万ドルから1億7800万ドルへと6%減と、主要3項目がそろって前年割れとなりました。
ハード支出の落ち込みは特に深刻で、複数の業界メディアは「2020年のコロナ禍以来最悪の7月」と表現しています。
パッケージ版ソフトは8500万ドルで過去最低——「あと10年もない」との声も
今回の統計で最も象徴的なのが、パッケージ版(円盤などの物理メディア)ソフトの売上高です。
7月のパッケージ版ソフト売上高は8500万ドル(約128億円)にとどまり、サーカナが統計を取り始めた1995年以来、単月として過去最低を記録しました。
プラットフォーム別のシェアを見ると、2026年に入ってからの累計で任天堂が63%を占め、ソニーが32%と続きます。
一方でマイクロソフトのXboxは4〜5%程度にとどまり、米国内でXbox用の新作パッケージソフトを購入する消費者はごくわずかという状況です。
ピスカテラ氏は業界の先行きについて「物理ソフトが残された時間は、おそらくもう10年もないだろう」との見解を示しています。
配信サービスやダウンロード販売が定着した現在、パッケージ版はコレクター向けの需要を中心に、緩やかな縮小が続くとみられます。
ハード販売29%減の裏側——AIが引き起こした「メモリ危機」
ハード支出の急減の主因とされているのが、生成AIブームによる半導体、特にDRAM(半導体メモリの一種で、パソコンやゲーム機、サーバーなどに広く使われる基幹部品)の不足です。
AIデータセンター向けの高帯域幅メモリ(HBM、AIの演算処理に特化した高性能なメモリ規格)の需要が急拡大し、半導体各社が生産能力をHBM向けに優先配分した結果、一般向けDRAMの供給が逼迫しました。
この影響でメモリ価格は2026年だけで最大89%上昇したとされています。
この結果、米国内のゲーム機平均販売価格は2026年1月の452ドルから、7月には542ドル(約8万1300円)へと16%上昇しました。
価格上昇は販売数量にも直撃し、7月のハード販売台数は前年同月比39%減となっています。
機種別に見ると、状況は以下の通りです。
- プレイステーション5——販売台数6%減(ドルベースでは首位を維持)
- Xboxシリーズ——販売台数18%減
- Nintendo Switch 2——販売台数51%減(前年7月は発売直後の需要が高水準だった反動、台数ベースでは依然首位)
価格改定の動きも相次いでおり、Xbox、プレイステーション5に続き、Switch 2も9月1日付での値上げが予告されています。
携帯型ゲーム機「Steam Deck」のOLEDモデルに至っては、最大46%の値上げが実施されました。
業界への影響は長期化の様相——次世代機の開発計画にも波及
メモリ不足の解消は当面見込めない状況です。
世界のメモリ市場でおよそ3分の1のシェアを持つ韓国サムスン電子は、AI企業からの中長期的な需要予測を理由に、供給逼迫が2028年ごろまで続くとの見通しを示しています。
この影響は現行機だけにとどまりません。
複数の業界メディアは、ソニーが次世代機「プレイステーション6」について、RAMコストの高騰を理由に発売時期を2029年へ延期せざるを得ない可能性があると報じています。
任天堂についても、Switch 2の追加値上げを検討しているとの観測が出ています。
ゲーム業界が長年前提としてきた「発売後は徐々に値下がりする」というハードウェアの価格モデルが、AI需要という外部要因によって崩れつつある格好です。
補足:統計開始の1995年は初代プレイステーション発売の年
サーカナのパッケージソフト販売統計は1995年から続いており、これは奇しくもソニーの初代「プレイステーション」が北米で発売された年でもあります。
当時はディスクメディアの普及によってゲーム業界の主役がカートリッジから光ディスクへと移り変わった転換点でした。
それから約30年を経て、今度はディスクからダウンロード配信への移行がほぼ完了しつつあることを、今回の最低記録は象徴しています。
なお日本国内でも近年、家電量販店やGEO・TSUTAYAといった中古販売店を中心にパッケージ版の店頭在庫は縮小傾向にありますが、任天堂タイトルを中心に根強い実店舗需要が残っている点は米国と異なる特徴です。
今回の価格高騰の震源であるAI向け半導体需要は、スマートフォンやパソコンの価格にも波及し始めており、ゲーム機だけの問題にとどまらない広がりを見せています。
まとめ:AI特需の余波が消費者の手元にも届き始めた
今回の統計は、生成AIをめぐる巨額投資が、データセンターの外側にいる一般消費者の財布にも影響を及ぼし始めていることを示しています。
ゲーム機の値上げやパッケージソフトの縮小は、AI関連需要とゲーム業界という一見無関係な分野が、半導体という共通基盤でつながっていることを浮き彫りにしました。
今後は9月1日に予定されるSwitch 2の値上げや、年末商戦期の販売動向、そしてサムスンが示した2028年というメモリ不足解消の目安が注目されます。
次世代機プレイステーション6の発売時期についても、今後の続報が待たれます。
出典:
GamesIndustry.biz
IGN
GameSpot
Kotaku
GamesRadar+
TechRadar