中国メガソーラーとは?鳥類多様性を10年で悪化、2344郡調査で判明

再生可能エネルギー拡大の裏で鳥類が犠牲に、専門家は警鐘

太陽光発電の拡大は温暖化対策の切り札とされてきました。

しかし、その拡大が野生生物に予期せぬ打撃を与えている可能性が、新たな研究で明らかになりました。

米科学誌サイエンスに掲載された論文を基に、フィズ・オルグ(Phys.org)や香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)、米科学誌サイエンティフィック・アメリカンなどが伝えています。

中国全土2344の郡を10年間にわたり追跡した大規模調査で、太陽光発電を強く推進した地域ほど鳥の多様性が目に見えて低下していたことが判明したのです。

研究の概要——2344郡・10年分のデータが示した相関関係

今回の研究を主導したのは、南京信息工程大学(中国江蘇省にある大学)のホイミン・チャン氏らの国際研究チームです。

チームには中国のほか、ベトナムや米国の研究者も参加しています。

研究チームは2014年から2023年までの10年間、中国全土2344の郡(日本の市区町村に近い行政単位)を対象に、市民参加型のバードウォッチング記録と各地域の太陽光発電推進政策の強さを突き合わせました。

分析の結果、太陽光発電を推進する政策の強度が4段階上昇するごとに、その地域の鳥類の多様性を示す「シャノン多様性指数」(生態系にどれだけ多様な種が均等に存在するかを数値化した指標)が約2%低下するという明確な相関関係が確認されました。

わずか2%と聞くと小さな数字に思えるかもしれませんが、政策の強さという一つの要因だけで説明できる変化としては無視できない規模だと研究チームは指摘しています。

これまでも太陽光発電と野生生物の関係を調べた事例研究は各地で行われてきましたが、政策の強度という定量的な指標と生物多様性を国全体・長期間にわたって結び付けた分析は今回が初めてとされています。

市民が投稿したバードウォッチング記録という膨大な観測データを活用した点も、研究の信頼性を高める要因になったといいます。

なぜ太陽光発電が鳥を減らすのか——「見せかけの緑化」という罠

研究チームが特定した主な要因は、太陽光発電施設を建設する際に農地や草地が転用されることです。

広大なパネル群が設置されると、それまで鳥のえさ場や繁殖地だった土地が失われます。

残された緑地も施設によって分断され、鳥が利用しにくい小さな断片へと変わってしまいます。

さらに研究チームは、太陽光発電施設の周辺で植えられる緑化植物について、衛星データ上では「緑」が増えているように見えても、実際には鳥の生息地としての質を伴わないケースが多いことを突き止めました。

この現象を研究チームは「見せかけの緑化」(inferior greening)と名付けています。

見た目の緑化指標だけを追いかける従来の環境評価では、こうした質の低下を見逃してしまう恐れがあるといいます。

衛星画像による緑被率の測定は開発の環境影響を評価する際の簡便な手法として広く使われてきましたが、今回の研究はその限界を浮き彫りにした形です。

研究チームは、繁殖地の消失や生息地の分断が鳥の個体数そのものに与える影響についても、今後さらに検証が必要だとしています。

影響には偏りが——豊かな非砂漠地域ほど深刻

今回の調査では、影響の出方に明確な偏りがあることも分かりました。

  • 留鳥・渡り鳥のいずれも、多様性の低下が確認された
  • 山岳地帯を主な生息地とする種は、目立った影響を受けなかった
  • 経済的に豊かで、砂漠ではない地域ほど影響が顕著だった

山岳性の種が影響を免れた背景には、そもそも急峻な地形が大規模な太陽光発電施設の建設に適さないという事情があるとみられます。

一方、平地が多く経済発展が進んだ地域ほど太陽光発電の開発が集中しやすく、結果として鳥類への影響も大きくなったと考えられます。

砂漠地帯で影響が比較的小さかった点も示唆的です。

もともと植生や生物相が乏しい砂漠は、農地や草地に比べて太陽光発電施設を建設しても失われる生態系サービスが少ないと考えられるためです。

中国の太陽光発電はどこまで拡大したのか

中国は世界最大の太陽光発電導入国であり、その拡大ペースは群を抜いています。

2024年時点で中国国内の太陽光パネルが占める面積は4520平方キロメートルに達しており、これは米ロードアイランド州の面積にほぼ匹敵する規模です。

中国政府は2060年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」目標を掲げています。

その達成に向けて、2060年までにエネルギー構成全体の45%を太陽光発電で賄うという野心的な計画も示されています。

今回の研究結果は、この巨大な拡大計画がこのまま無秩序に進めば、生態系への負荷がさらに広がりかねないことを示唆しています。

中国はすでに風力発電も含めた再生可能エネルギー全体の設備容量で世界首位に立っており、太陽光の導入ペースは今後も加速すると見込まれています。

裏を返せば、開発の初期段階である今のうちに立地選定のルールを整えるかどうかが、将来の生態系への影響を大きく左右することになります。

専門家の見解——「エネルギー転換を止めるべきではない」

論文の筆頭著者であるチャン氏は、今回の発見について「重大なグリーンジレンマを浮き彫りにした」と説明しています。

チャン氏によれば「綿密な空間計画がなければ、政策主導の太陽光発電拡大は意図せず地域の生物多様性を損なう可能性がある」といいます。

その上でチャン氏は「教訓はエネルギー転換を遅らせることではない。生態学的な対立が少ない場所へ大規模な太陽光発電プロジェクトを誘導することだ」と強調しています。

米コーネル大学の保全科学者ケン・ローゼンバーグ氏は、今回の研究について、太陽光発電政策と生物多様性の関係を全国規模で分析した初めての事例だと評価しています。

一方でローゼンバーグ氏は、多様性指数だけでは個々の種の実際の個体数の増減が見えにくいと指摘し、今後は種ごとの個体数そのものを追跡する研究が必要だと注文を付けています。

両氏に共通するのは、脱炭素と生物多様性保全は対立するものではなく、開発の進め方次第で両立し得るという立場です。

補足:太陽光と生物多様性の対立は世界共通の課題

太陽光発電と野生生物保護の対立は、実は中国に限った話ではありません。

米国では、大規模太陽光発電施設の建設地としてリクガメの生息地である砂漠が選ばれ、保護団体との摩擦を招いてきた事例が知られています。

欧州でも、農地への太陽光パネル設置が景観や生物多様性への影響をめぐって議論を呼んでいます。

今回の研究が独自性を持つのは、市民参加型のバードウォッチング記録という膨大なデータを、10年という長期間・国レベルという広範囲で解析した点にあります。

研究チームは今後、開発が生態系への負荷の少ない場所に誘導されるよう、政策設計の見直しを提言しています。

近年は日本国内でも、山林を切り開いて設置するメガソーラーをめぐり、土砂災害リスクや景観、生態系への懸念から住民との摩擦が各地で報じられており、開発地選定の在り方は共通の論点となっています。

まとめ:脱炭素と生物多様性、両立への模索が始まる

今回の研究は、中国の太陽光発電の急拡大が、鳥類の多様性を目に見える形で低下させていたことを10年分のデータで示しました。

背景には農地や草地の転用による生息地の喪失と、「見せかけの緑化」と呼ばれる質の低い代替緑地の存在があります。

研究チームは脱炭素を否定するのではなく、開発地選定における生態学的配慮の必要性を訴えています。

太陽光発電の拡大が世界各地で見込まれる中、各国の開発計画にも同様の視点が求められそうです。

出典:
Phys.org
South China Morning Post
Scientific American

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