ジュリアス・マレマとは何者か?「農民を殺せ(キル・ザ・ファーマー)」というスローガンを掲げる南アフリカの政治家

南アフリカの政治シーンで、ひときわ注目を集めている人物がいます。

その名はジュリアス・マレマ。

彼は「キル・ザ・ファーマー(農民を殺せ)」という物議を醸すチャント(歌やスローガン)を繰り返し唱え、国内外で激しい議論を巻き起こしています。

高級ブランドに身を包み、裕福な生活を送りながらも、貧困層の味方を自称する彼の姿勢は、多くの支持と同時に強い批判も集めています。

本記事では、マレマの生い立ちから政治的主張、物議を醸す発言、SNSでの反応、そして彼を取り巻くスキャンダルまで、多角的にその実像を掘り下げます。

ジュリアス・マレマの生い立ちと政治的キャリア

ジュリアス・セロ・マレマ(Julius Sello Malema)は1981年、南アフリカ・リムポポ州のセシェゴで生まれました。

幼少期からアフリカ民族会議(ANC)に参加し、わずか9歳で青年組織「マスパツェラ」に加入。

その後、ANC青年同盟(ANCYL)で頭角を現し、2008年には全国青年同盟の議長に就任します。

彼の政治的主張は一貫して急進的です。

南アフリカの鉱山や銀行の国有化、白人所有の土地の無償没収と再分配を強く訴え、黒人貧困層の経済的解放を掲げてきました。

しかし、党内での過激な発言や行動が問題視され、2012年には「党の名誉を傷つけた」としてANCから除名されます。

その翌年、マレマは自身の新党「経済的解放戦士(EFF)」を設立。

EFFは「急進的・左派・反資本主義・反帝国主義」を掲げ、2014年の総選挙でいきなり25議席を獲得。

2019年には44議席まで伸ばしましたが、2024年選挙では得票率が10%を下回るなど、やや勢いに陰りも見えています。

「キル・ザ・ファーマー」チャントとその波紋

マレマの名を世界に知らしめたのが、「キル・ザ・ファーマー(Kill the farmer)」というチャントです。

これは南アフリカの歴史的な闘争歌「Dubul’ ibhunu(ブーア人を撃て)」の一節であり、アパルトヘイト時代から歌われてきたものですが、現代では白人農民(主にアフリカーナー)への暴力を扇動するものとして激しい論争を呼んでいます。

2025年5月、アメリカのトランプ元大統領が南アフリカのラマポーザ大統領に対し、「マレマを逮捕せよ」と要求したことで、国際問題にまで発展しました。

ラマポーザ大統領は「表現の自由は憲法の柱」として逮捕を拒否。

一方、マレマは「トランプに脅されても決して怯まない」と公言し、再び同じチャントを群衆の前で叫びました。

このチャントについては、2022年に南アフリカの憲法裁判所が「ヘイトスピーチには当たらない」と判断。

あくまで歴史的な歌詞であり、現代の暴力を直接扇動するものではないという立場を示しました。

しかし、農村部での農民襲撃事件が続く中、「社会の分断と憎悪を煽る」として、国内外で批判の声が絶えません。

華やかな生活と腐敗疑惑——「グッチ革命家」の素顔

マレマは「貧困層の味方」を自任しながらも、ロレックスやグッチなど高級ブランドに身を包み、ヨハネスブルグの高級住宅街に豪邸を構えるなど、その贅沢な生活ぶりが度々メディアに取り上げられています。

29歳の時点で、現金で複数の高級車や住宅を購入していたことが報道され、「どうやって政治家の給料でこれほどの資産を手に入れたのか」と疑問の声が上がりました。

さらに、2018年には南アフリカのVBS銀行の破綻に絡み、マレマや側近が不正に資金を流用した疑惑が浮上。

年金受給者や自治体の資金、総額20億ランド(約111億円)が消失したとされ、野党民主同盟(DA)は「マレマも関与している」として刑事告発を続けていますが、いまだ起訴には至っていません。

マレマ自身は「EFFの指導者がVBS銀行から金を受け取った事実はない」と否定していますが、信頼性への疑念は根強く、SNS上でも「偽善者」「腐敗の象徴」といった批判が絶えません。

SNSとインターネット上の反応——分断と熱狂

マレマの発言や行動は、X(旧Twitter)やYouTubeなどSNS上で大きな議論を巻き起こしています。

EFFの支持者は「貧困層の声を代弁する真のリーダー」として熱狂的に支持し、彼のチャントや過激な演説動画は数十万回以上再生されています。

一方、白人農民や都市部の中間層、投資家層からは「危険な扇動家」「経済の破壊者」として恐れられています。

特に「キル・ザ・ファーマー」チャントに関しては、SNS上で賛否両論が渦巻きます。

支持者は「歴史的な抵抗の象徴」として擁護する一方、反対派は「現代の暴力を正当化する危険な言葉」として非難。

農民襲撃事件の現場写真や被害者の証言が拡散され、社会の分断が深まる一因となっています。

また、マレマの贅沢な生活ぶりや汚職疑惑に対しても、「革命家を装った成金」「貧困層を利用しているだけ」といった批判的な投稿が目立ちます。

EFFの政策やマレマの発言は、南アフリカの将来を巡る世論を二分しています。

国際社会とマレマ——トランプ、イスラエル、ハマス

マレマの影響力は国内にとどまらず、国際社会にも波紋を広げています。

2025年にはトランプ元大統領が「白人農民へのジェノサイドが進行中」と主張し、南アフリカ政府に対しマレマの逮捕を要求。

さらに、アメリカへの移住を希望するアフリカーナー農民に「避難所」を提供する意向を表明しました。

また、マレマはパレスチナ問題でも過激な発言を繰り返し、ハマス(パレスチナの武装組織)への武器供与を公然と支持。

「抑圧されている者には撃ち殺す権利がある」と演説し、イスラエル大使館の閉鎖を訴えました。

こうした姿勢は国際的な批判を呼び、アメリカの制裁リスト入りの可能性も指摘されています。

EFFの政策と南アフリカの経済格差

EFF(経済的解放戦士)は、鉱山や銀行の国有化、土地の無償再分配、教育・医療の無償化など、急進的な経済政策を掲げています。

南アフリカでは依然として人口の約3分の1が失業中で、特に若年層の失業率が深刻です。

EFFの支持基盤は、都市部の失業者や中間層の学生、職に就けない大卒者などで構成されており、「既存の体制では貧困から抜け出せない」という不満が背景にあります。

一方、EFFの政策が実現すれば、外国投資の減少や経済の混乱を招くとの懸念も根強く、白人層や富裕層、投資家からは強い警戒感が示されています。

まとめ

ジュリアス・マレマは、南アフリカの経済格差や人種問題という根深い課題に鋭く切り込む一方で、過激な発言や贅沢な生活、汚職疑惑など多くの矛盾を抱えた存在です。

「キル・ザ・ファーマー」チャントは、歴史的な文脈と現代社会の分断を象徴する論争点となっています。

今後も彼の動向は、南アフリカのみならず国際社会からも注視されるでしょう。

読者の皆さんも、SNSやニュースを通じて多角的な視点からこの問題を考えてみてください。

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