19世紀の殺人犯ウィリアム・コーダーの皮膚で作られた本が博物館で再発見される

2025年4月、イギリス・サフォーク州の博物館で、驚くべき発見がありました。

19世紀の有名な殺人犯ウィリアム・コーダーの皮膚で綴じられた本が、長年忘れ去られていたオフィスの本棚から見つかったのです。

この本は、1827年に起きた「赤い納屋殺人事件」の裁判記録を綴じたもので、既に展示されていた同様の本と並び、再び注目を集めています。

人間の皮膚で本を綴じる「人皮装丁(アントロポデルミック・ビブリオペジー)」という衝撃的な実態、そしてその倫理的・歴史的意義について、深く掘り下げていきます。

英国で最も悪名高い殺人犯の一人、ウィリアム・コーダーの皮で装丁された本が、オフィスで発見され、サフォークのモイズ・ホール博物館で展示される

赤い納屋殺人事件とウィリアム・コーダー

1827年、イギリスの小村ポルステッドで起きた「赤い納屋殺人事件(Red Barn Murder)」は、当時の英国社会に大きな衝撃を与えました。

被害者は若い女性マリア・マーテン、加害者はその恋人ウィリアム・コーダーでした。

二人は駆け落ちを約束し、コーダーはマリアに「赤い納屋」で会うよう指示。

しかし、コーダーは彼女を射殺し、納屋に遺体を埋めました。

事件発覚のきっかけは、マリアの継母が「夢でマリアが殺されている」と語ったこと。

家族が納屋を掘り返すと、遺体が発見され、コーダーはロンドンで逮捕されました。

裁判は大きな話題となり、コーダーは1838年8月11日に公開処刑され、数千人がその様子を見守ったといいます。

#OTD 1828 ウィリアム・コーダー (24 歳) は、 #Polstead 、 #Suffolkに「赤い納屋」でマリア・マーテン (26 歳) を殺害した罪で刑務所の外で#BuryStEdmundsに処されました。7,000 人を超える群衆の前で、絞首刑執行人のジェームズ・フォクソンは、おそらく「ロングドロップ」の有効性を知っていたようで、ある人物から…

この事件は、新聞記事やバラッド(物語詩)、演劇、さらには観光地化まで引き起こし、イギリス犯罪史に深く刻まれました。

人皮装丁(アントロポデルミック・ビブリオペジー)の実態

人間の皮膚で本を綴じる「アントロポデルミック・ビブリオペジー(anthropodermic bibliopegy)」は、16世紀から19世紀にかけて欧米で実際に行われていた特殊な製本技術です。

特に19世紀のヨーロッパでは、処刑された犯罪者の皮膚や、身寄りのない遺体が医学研究のために解剖され、その一部が記念品や警告の意味を込めて本の装丁に使われることがありました。

2022年時点で、世界の公的機関に所蔵されている「人皮本」は50冊以上とされ、そのうち18冊が科学的に人間の皮膚であると確認されています。

こうした本は、医学書や裁判記録、個人の日記など多岐にわたります。

ウィリアム・コーダーの本も、彼の裁判記録を綴じるために皮膚が使われた典型例です。

今回再発見された2冊目の本は、表紙と角のみが人皮で装丁されており、1冊目よりも保存状態は劣るものの、歴史的価値は極めて高いとされています。

倫理的ジレンマと現代の議論

人間の遺体やその一部を展示・保存することは、現代社会において大きな倫理的議論を呼んでいます。

特に「人皮本」は、単なる歴史的遺物ではなく、死者の尊厳や人権、そして展示の意義について深い問いを投げかけます。

2024年3月、ハーバード大学は所蔵していた19世紀の人皮本の装丁を「倫理的に問題がある」として取り外しました。

一方、今回の発見地であるモイズ・ホール博物館では、「人間の遺体は多くの博物館で展示されている」とし、今後も展示を継続する方針を示しています。

このような判断は、国や地域、博物館ごとに異なります。

アメリカのスミソニアン博物館では、2015年以降、人間の遺体の展示を原則禁止とする方針に転換しました。

一方で、教育的価値や歴史的意義を重視し、展示を続ける施設も少なくありません。

人皮本の文化的・社会的インパクト

人皮本は、その衝撃的な存在感から、単なる歴史資料を超えた文化的・社会的インパクトを持っています。

ウィリアム・コーダーの事件は、19世紀のイギリス社会における犯罪報道や大衆文化の発展にも大きく寄与しました。

事件を題材にした書籍、演劇、バラッド、さらには観光地化まで、さまざまな形で語り継がれています。

また、現代においても「ホリブル・ヒストリーズ」シリーズの著者テリー・ディアリー氏が「このような本は焼却すべきだ」と発言するなど、倫理観や価値観の違いが浮き彫りになっています。

一方で、博物館の来館者やスタッフからは「本物の本のようにしか感じない」「人皮と知らなければ気づかない」といった声もあり、受け止め方は多様です。

人皮本の保存と今後の課題

人皮本の保存・管理には、特殊な技術と倫理的配慮が求められます。

皮膚は動物性素材の中でも特に劣化しやすく、適切な温度・湿度管理や定期的なメンテナンスが不可欠です。

また、展示の際には、来館者への十分な説明や、遺族・関係者への配慮も重要です。

今後は、科学的な鑑定技術の進歩により、真贋判定や由来の特定が進むとともに、社会的な議論もさらに深まるでしょう。

人皮本は、単なる「奇妙な遺物」ではなく、歴史・倫理・文化の交差点に立つ存在として、今後も注目され続けるはずです。

世界の人皮本とその現状

世界に現存する人皮本

  • 2022年時点で、世界の公的機関に所蔵されている人皮本は50冊以上。
  • そのうち18冊が科学的に人間の皮膚であると確認済み。
  • アメリカのブラウン大学ジョン・ヘイ図書館には4冊、ハーバード大学にも1冊が存在していたが、倫理的理由から装丁が外された例もある。
  • 価格は数万ドルに及ぶこともあり、コレクターや研究者の間で高い関心を集めている。

まとめ

人間の皮膚で綴じられた本は、歴史の闇と人間の倫理観を映し出す特異な存在です。

ウィリアム・コーダー事件を巡る人皮本の発見は、単なる好奇心を超え、私たちに「死者の尊厳」 「歴史の伝え方」 「博物館の役割」といった根源的な問いを投げかけます。

今後も科学的検証や社会的議論を通じて、こうした遺物の扱い方について考え続けることが求められるでしょう。

あなたは、この“人皮本”をどのように受け止めますか?

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