日本の株式市場に新たな風が吹いています。米国を拠点とするアクティビスト投資家、ダルトン・インベストメンツ(Dalton Investments LLC)が日本企業の変革を促す動きを加速させています。
企業価値向上と株主還元の最大化を目指すDaltonの戦略は、日本のコーポレートガバナンスに大きな影響を与えつつあります。
今回は、このダルトン・インベストメンツについて詳しく見ていきましょう。
ダルトン・インベストメンツ(Dalton Investments LLC)の概要
ダルトン・インベストメンツは、1998年にSteven D. PerskyとJames B. Rosenwaldによって設立された投資運用会社です。
アジア、新興市場、およびグローバル株式に特化したバリュー重視の投資アプローチを採用しています。
本社はロサンゼルスに置き、ラスベガス、東京、香港、シドニー、ムンバイにも拠点を構えるグローバルな企業です。
2023年3月31日時点での運用資産は約26億ドルに達し、年金、寄付金、財団、金融機関、ファミリーオフィスなど、幅広い投資家層にサービスを提供しています。
Daltonの投資戦略は、アクティブ運用のロングオンリーおよびロング/ショート戦略を中心としています。
特に日本市場では、アクティビスト投資家として知られ、投資先企業の企業価値向上や株主価値の最大化を目指して積極的なエンゲージメント活動を行っています。
日本市場での活動と影響力
ダルトン・インベストメンツの日本市場での活動は、近年特に注目を集めています。
2024年12月からは、日本の個人投資家向けに追加型の公募投資信託の運用を開始する予定です。
これは、海外アクティビストによる初めての試みとして業界内で話題を呼んでいます。
ダルトン・インベストメンツの日本戦略の特徴は、集中投資型のポートフォリオ構築にあります。
20〜30社程度の日本企業に投資を行い、株主提案やエンゲージメントを通じて企業価値の引き上げを目指します。
ただし、単なる還元要求で一辺倒の強行派とは一線を画し、投資先との友好的な対話を重視する姿勢を取っています。
この戦略は既に成果を上げつつあります。
例えば、トヨタグループの源流企業である豊田自動織機とのエンゲージメントでは、Daltonによる株主提案を受けて、豊田自動織機が2024年10月にデンソー株式の全株式売却を発表し、資本効率の改善と株主還元への取り組みを示しました。
Daltonの投資哲学とアプローチ
ダルトン・インベストメンツ(Dalton Investments LLC)の投資哲学の核心は、「バリュー重視」のアプローチにあります。
企業の本質的な価値と市場価格の乖離に着目し、長期的な視点で投資を行います。
具体的な投資プロセスとしては、ボトムアップアプローチによる企業の財務分析や資本配分政策、経営陣との面談等による銘柄分析を通じて、事業の競争力やキャッシュフロー創出力に優れながら、本源的価値と株価の乖離が大きい銘柄を厳選してポートフォリオを構築します。
Daltonは、単なる株価上昇や短期的な利益を追求するのではなく、投資先企業の持続的な成長と企業価値の向上を目指しています。
そのため、経営陣との建設的な対話を重視し、必要に応じて株主提案を行うなど、積極的に企業の変革を促す姿勢を取っています。
Daltonのポートフォリオと主要投資先
2025年1月1日時点でのダルトン・インベストメンツのポートフォリオ価値は約1億6,962万ドルで、26の保有銘柄を開示しています。
主要な投資先には以下の企業が含まれます:
- ICICI Bank Limited
- MakeMyTrip Limited
- NVIDIA Corporation
- Genpact Limited
- Infosys Limited
https://fintel.io/ja/i/dalton-investments-llc
日本企業への投資も積極的に行っており、アイザワ証券、酉島製作所、デジタルHD、ドウシシャ、HSホールディングス、フジシールインターナショナル、ココカラファイングループ、フジ・メディア・ホールディングスなどが主な投資先として挙げられます。
https://www.buffett-code.com/shareholder/3569ff3e0d67317f67afab35c7cb5567
これらの投資先選定からも、Daltonが新興市場や技術革新、金融サービスなどの成長分野に注目していることがうかがえます。
同時に、日本市場においては、伝統的な企業や中堅企業にも投資を行い、企業価値向上の余地がある企業を幅広く対象としていることが分かります。
日本のコーポレートガバナンスへの影響
ダルトン・インベストメンツの活動は、日本企業のコーポレートガバナンス改革にも大きな影響を与えています。
2024年12月、Daltonは投資先企業の経営陣および取締役に対し、コーポレート・ガバナンスへの期待として以下の2点を強調する書簡を公表しました:
- 東京証券取引所から要請されている「資本コストと株価を意識した経営」に明確にコミットすること
- Daltonが提唱する3つの株主提案(効果的な資本配分、強い利害調整、高い独立性と多様性を備えた取締役会)の実現に向けて引き続き努力すること
これらの要求は、日本企業の経営陣に対して、より株主を意識した経営と透明性の高いガバナンス体制の構築を促すものです。Daltonの活動は、日本の企業文化に根付いてきた株式持ち合いや内向きな経営姿勢に一石を投じ、グローバル基準に沿った経営改革を促進する役割を果たしています。
Daltonの日本戦略の特徴
ダルトン・インベストメンツの日本戦略には、いくつかの特徴的な点があります。
まず、集中投資型のポートフォリオ構築により、各投資先企業に対して深い分析と積極的な関与が可能となっています。
また、友好的な対話を重視する姿勢は、日本の企業文化に配慮したアプローチとして評価されています。
さらに、2024年12月から開始予定の個人投資家向け公募投資信託は、一般の投資家にもアクティビスト投資の機会を提供する画期的な取り組みです。
この動きは、日本の投資文化にも変革をもたらす可能性を秘めています。
まとめ
ダルトン・インベストメンツは、バリュー重視の投資哲学と積極的な企業関与を通じて、日本企業の変革を促進する重要なプレイヤーとなっています。
その活動は、単に投資収益を追求するだけでなく、日本のコーポレートガバナンスの改善や企業価値の向上にも貢献しています。
今後、Daltonの影響力がさらに拡大するにつれ、日本企業の経営姿勢や株式市場の動向にも大きな変化が生じる可能性があります。
投資家や企業経営者は、Daltonの動向を注視するとともに、グローバル基準の企業価値向上策について真剣に検討する必要があるでしょう。