鳥インフルエンザ拡大に伴う牛乳の安全性 – 専門家が「間接的な懸念」と指摘

FOXニュースが4月27日に報じたところによると、米国食品医薬品局(FDA)が市販の牛乳サンプルを調査した結果、5分の1で高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)ウイルスの痕跡が検出されたことが分かりました。

はじめに

近年、鳥インフルエンザウイルスの世界的な大流行が懸念されており、人への感染リスクも指摘されています。

そうした中、FDAの調査で市販の牛乳から高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)ウイルスの断片が見つかったことは、多くの消費者の不安を引き起こしています。

本記事では、この発表を受けた専門家の見解と、牛乳を飲むリスクについて解説します。

動物からヒトへの感染”スピルオーバー”の懸念

鳥インフルエンザウイルスは通常、人間に感染しませんが、時折人への感染が確認されています。このことから、動物からヒトへのウイルス”スピルオーバー(感染越え)”のリスクが危惧されているのです。

過去の感染事例

2021年7月インド

2021年7月、インドのハリヤナ州で18歳以下の男性が鳥インフルエンザA(H5N1)に感染し、ARDSを発症して死亡した、インド初の人への鳥インフルエンザA(H5N1)感染事例でした。

患者は食肉処理場を営む家族と同居しており、感染経路は不明でしたが、周辺の家禽農場からは異常は報告されていませんでした。検体からはインフルエンザBウイルスとともにA(H5N1)ウイルスが検出され、全ゲノム解析が行われています。

WHOは人から人への感染の兆候は確認されていないとしています。

2023年チリ

2023年3月29日、チリ保健省がアントファガスタ州で鳥インフルエンザA(H5)ウイルスによる53歳男性の感染症例をWHOに報告しました。 これはチリで初めて、また現時点でアメリカ大陸で3例目の鳥インフルエンザA(H5)ウイルスのヒト感染症例です。

患者は3月13日から症状が現れ、重症化して3月22日に入院し、検査で鳥インフルエンザA(H5)と確認された。

感染経路は、患者の居住地近くで病死した野鳥や海獣からの環境暴露が最も疑われています。 2022年12月から2023年2月にかけて、同地域の野鳥や海獣から高病原性鳥インフルエンザが検出されていました。

FDA調査の詳細

米国食品医薬品局(FDA)が市販の牛乳サンプルを調べたところ、5分の1で高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)ウイルスの断片が確認されました。その割合は、牛の群れがHPAIに感染していた地域でさらに高くなっていました。

しかしFDAは、ウイルスの断片が見つかったからといって、すぐに牛乳の消費にリスクがあるわけではないと説明しています。なぜなら、そこからインタクト(完全な形)の病原体が存在し、感染力があるかどうかを判断するには、さらなる検査が必要になるからです。

専門家の見解

カリフォルニア大学リバーサイド校のスコット・ペガン教授は、「FDAの調査結果は消費者に直接のリスクはない」と指摘しました。その理由として、米国では州内で販売される商業的な牛乳は、殺菌処理が義務付けられており、このプロセスでH5N1などのウイルスが死滅するため、安全性が担保されているからだと説明しています。

さらにペガン教授は、「殺菌後に牛乳にウイルスの残留物が残っても、それは危険ではない」と付け加えました。

ハッケンサック・メリディアン・ジャージー海岸大学医療センターのエドワード・リウ医師も同様に、「殺菌の加熱処理でウイルスは破壊されるため、心配はない」と指摘しています。

リウ医師は「ウイルスが完全な形で存在しないかぎり、人に感染することはない」と説明し、FDAが検出した「断片」だけでは感染の恐れがないと述べました。

間接的なリスクについて

一方で、これらの専門家は間接的なリスクについても言及しています。

ペガン教授は、「H5N1ウイルスを持つ動物から人へのスピルオーバーリスクが高まる」と指摘します。これまではその懸念の対象が主に野鳥や家禽(飼われている鳥)でしたが、今回牛の乳からウイルスが検出されたことで、牛がウイルスの新たな宿主になる可能性があり、それに直接接する人々への感染リスクが高まるのです。

また、「感染した哺乳動物が増えれば、ウイルスが人間を含む他の哺乳類に適応する可能性も高まる」と述べ、変異への懸念も示しました。実際、テキサス州で牛からヒトへの感染例も確認されています。

リウ医師も、「農家が直接鳥と接触することで人への感染が起こる可能性はある」と指摘しています。

未知のリスクに備えて

こうした専門家の意見から分かるのは、牛乳そのものを飲む行為には安全性が高いものの、ウイルス感染が広がれば、動物からヒトへの感染リスクが間接的に高まる可能性があるということです。

FDAは長年にわたり、殺菌していない生乳を飲むことを控えるよう勧告してきました。さらに今回は、感染した牛の乳を使った生乳製品の製造・販売を控えるよう企業に求めています。

殺菌牛乳に対する規制はひとまず安全性を担保していますが、ペガン教授は「この乳牛のH5N1ウイルス感染について、さらなる情報が得られるまでは、生乳製品の摂取を避けるのが賢明かもしれない」と助言しています。

無殺菌の生乳製品には注意が必要

CDC(アメリカ疾病予防管理センター)は現状では一般市民へのリスクは低いと判断しており、FDAとUSDA(アメリカのオーガニック認証)双方から、市販牛乳の供給は現在のところ安全であるとの見解が示されています。

しかし一部の州では、農家市場などでの生乳製品の地元販売が認められているのが実情です。こうした無殺菌の生乳製品には注意が必要でしょう。

まとめ

今回のFDA調査結果は、市販牛乳そのものを飲む行為に大きな懸念はないものの、ウイルス感染が広がれば家畜からヒトへの感染のリスクも間接的に高まる可能性があることを示唆しています。

殺菌牛乳には一定の安全性が担保されていますが、今後の感染状況次第では新たな対策が求められるかもしれません。一方、生乳製品については引き続き注意が必要です。

感染症に対する備えは常に重要ですが、政府、専門家、一般国民が連携し、冷静な対応を心掛けることが何より大切でしょう。

コメントする

CAPTCHA