イーロン・マスクのスターリンク衛星が私達を死の宇宙線に晒す危険があると物理学者が警告

SpaceXは過去数年間、多数のスターリンク衛星を宇宙に打ち上げてきました。しかし、元NASA物理学者は、イーロン・マスクの宇宙企業が私たちを致死的な宇宙線の危険にさらしていると主張しています。

宇宙開発の進展と地球環境保護のバランスを考える上で、重要な問題提起だと言えるでしょう。

イーロン・マスクが手掛ける低コストの衛星インターネットサービスです。2019年に打ち上げが始まり、現在約5,500基が稼働しています。今後数年で10万基以上に増える計画で、地球規模のインターネットアクセスを実現しようとしています。

スターリンク衛星地球の磁気圏を脅かす?

元NASA物理学者のシエラ・ソルター=ハント博士は、SpaceXのスターリンク衛星が地球の磁気圏に深刻な影響を及ぼすと警鐘を鳴らしています。

これらの衛星は使い捨てであり、絶え間なく大気圏再突入と交換が行われるため、博士によると、その結果軌道上に「導電性粒子」と呼ばれる金属層が形成されると述べています。現在約5,500基のスターリンク衛星が稼働しており、今後10年~15年で10万基にも増える計画だ博士は述べています。

この金属ごみの蓄積が問題なのは、地球を宇宙放射線から守る磁気圏の質量を大幅に上回ってしまうためです。

地球の磁気圏で最も重い部分は、バン・アレン帯()と呼ばれる高エネルギー粒子の帯状領域の質量は0.00018kgしかありませんが、この金属ごみの重量に比べると非常に軽いといいます。つまり、磁気圏は軽量で低質量なために、大量の重い衛星デブリが前代未聞の影響を及ぼす可能性があると主張しています。

シエラ・ソルター=ハント博士は、浮遊している金属性の宇宙ゴミがおそらく地球表面から約50~400マイル上空の電離圏の上部に伝導性シールドとして沈着すると考えており、その磁場を弱めるとしています。

つまり、伝導性の高い金属粒子の層が、地球の自然の磁気シールドの代わりになってしまうという懸念が示されているわけです。

つまり、この金属ごみの層が磁気圏を遮断してしまえば、地球が宇宙放射線から守られなくなり、私たちは致死的な宇宙線に晒されてしまうのです。

ソルター=ハント博士は「衛星が10万基になる頃には遅すぎるかもしれない」と警鐘を鳴らしています。

ヴァン・アレン帯

ヴァン・アレン帯とは、地球を取り囲むように存在する強い放射線の領域のことです。この領域には、太陽から宇宙から飛来する高エネルギーの粒子が地球の磁場によって大量に捕捉されています。一方で、ヴァン・アレン帯の高エネルギー粒子は、人工衛星や宇宙飛行士に悪影響を及ぼす可能性も指摘されています。

地球磁気圏

地球は、磁場に包まれています。この磁場が広がった領域を「地球磁気圏」と呼びます。地球磁気圏は、太陽から吹き出す高速の粒子流である「太陽風」の影響を受けています。

地球磁気圏の役割

宇宙から地球に降り注ぐ高エネルギーの粒子は、「宇宙線」と呼ばれています。地球磁気圏は、地球を、この「宇宙線」から守る大切な役割を果たしています。

宇宙線は生物にとって有害なので、地球磁気圏は生命活動に不可欠な「防護層」となっています。

また、地球磁気圏は電離層の形成にも関わっており、通信や GPS などの電波利用にも重要な役割を果たしています。

一部の科学者からの疑問

シエラ・ソルター=ハント博士のこの論文は査読(科学的妥当性のチェック)がまだ終わっておらず、内容に否定的な科学者も多い。

ダーラム大学(英国)の研究者フィオナ・トンプソンは、将来の衛星数の見積もりが過剰に高すぎると指摘しています。企業の野心的な打ち上げ計画は過大に宣伝されがちだと述べています。

また、ロチェスター大学(米国)の惑星科学者ジョン・ターデュノ博士は、金属デブリの密度がある程度高くなっても、地球を遮蔽する伝導性シールドは形成されないと批判しています。この論文のいくつかの前提条件は単純すぎて正しくない可能性があると指摘しています。

しかしソルター=ハント博士は、これらの批判者から建設的な詳しい批判をもらえていないと主張しています。

彼女が改善の余地を求めても、具体的な回答が得られなかったといいます。現時点で実質的な科学的批判はないと結論付けています。

一方で、レジナ大学(カナダ)の天文学者サマンサ・ローラー博士は、この研究が「非常に重要な第一歩」だと評価しています。宇宙機デブリの「恐ろしい量」に対して必要な注意を喚起していると述べています。

天文学者らの懸念

スターリンク衛星の問題は、天文学者たちも以前から指摘してきました。

彼らは、スターリンク衛星のごみが地上の天文台を妨害し、宇宙研究を終わらせてしまうことを懸念しています。実際、学術天文学者やSpaceXの競合企業は、長年にわたってスターリンク計画に法的異議を唱え続けています。

2022年11月29日のFCC(米国連邦通信委員会)のSpaceXの第2期衛星計画に関する判断でも、「約3万機のStarlink衛星の追加は、天文学研究全体を撹乱するだろう」と、研究者からの懸念の声が上がっていました。

Credit:Torsten Hansen/IAU OAE

FCC(米国連邦通信委員会)

FCCは、米国における電波の利用、放送、通信、電気通信などを規制する独立した政府機関です。通信分野における政策や規則の策定、免許の交付など、様々な役割を担っています。

衛星通信サービスの認可も、FCCの所管業務の1つです。SpaceXがStarlinkの衛星群の打ち上げや運用を行うためには、FCCからの許可が必要です。

そのため、Starlinkに関する天文学者らの懸念はFCCに正式に表明されることになり、FCCはそうした科学コミュニティの意見を審査に組み入れる必要がありました。FCCは2022年11月に一定の条件付きでSpaceXの計画を承認しましたが、引き続き規制当局として監視を続けていくことになります。

まとめ

宇宙開発の進展と地球環境保護のバランスを考える上で、この問題は非常に重要です。私たちは、スターリンク衛星が地球に及ぼす影響をしっかりと監視し、適切な対策を講じる必要があるでしょう。

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