フロリダ州ネイプルズの住宅に、宇宙ステーションから落下した物体が突き刺さる事故が発生しました。NASAは調査の結果、この物体が宇宙ステーションから廃棄された機器の一部であることを確認しました。
宇宙開発の歴史が長くなるにつれ、私たち地上の住民にとって、宇宙からの落下物によるリスクも高まってきました。今回取り上げる事故は、その典型的な事例です。
宇宙からの落下物に対して、被害者への補償はあるのでしょうか?
損害の状況
事故が起きたのは2024年3月8日の午後2時34分。住宅の所有者アレハンドロ・オテロ氏の息子が大きな音を聞いて発見しました。
この物体は屋根を突き破り、2階まで落下して大きな損害を与えました。オテロ氏は休暇中でしたが、早めに帰宅して状況を確認しました。
「信じられないことが起きた。私の家に、こんな強い力で落下するなんて、あり得ないことだと思いました」と、オテロ氏は当時の驚きを語っています。
NASAの対応
NASAは3月28日に、オテロ氏と協力して落下物を回収し、ケネディ宇宙センターで分析を行いました。その結果、この物体が2021年に宇宙ステーションから廃棄された旧式バッテリーを固定していた金属製のサポート部品であることが判明しました。
老朽化したニッケル水素バッテリーを含む貨物パレットを宇宙ステーションから放出しました。宇宙ステーションから放出されたハードウェアの総重量は約5,800ポンド(2630kg)でした。
2024年3月8日に地球の大気圏を通過する際に完全に燃焼すると予想されていました。しかし、ハードウェアの一部が再突入を生き延び、フロリダ州ナポリの住宅に衝突しました。インコネルという金属合金でできており、重さは1.6ポンド(0.7kg)、高さは4インチ(10cm)、直径は1.6インチ(4cm)です。
NASAは、低地球軌道での責任ある運用を続け、宇宙ハードウェアを放出する際に地球上の人々へのリスクをできるだけ軽減することに尽力しています。
https://blogs.nasa.gov/spacestation/2024/04/15/nasa-completes-analysis-of-recovered-space-object/
補償の問題
オテロ氏は当初、NASAに連絡を取ったものの返答がなかったため、SNSで訴えかけていました。
https://www.yahoo.com/news/florida-man-says-space-object-193057218.html
こんにちは。あの破片のひとつがフォート・マイヤーズを外れて、ネープルズの私の家に落ちたようだ。
屋根を突き破り、2階を貫通しました。もう少しで息子が死ぬところでした。
NASAに連絡を取ってもらえますか?メッセージやメールを残していますが、返事がありません。
– アレハンドロ・オテロ (@Alejandro0tero)2024年3月15日Hello. Looks like one of those pieces missed Ft Myers and landed in my house in Naples.
— Alejandro Otero (@Alejandro0tero) March 15, 2024
Tore through the roof and went thru 2 floors. Almost his my son.
Can you please assist with getting NASA to connect with me? I’ve left messages and emails without a response. pic.twitter.com/Yi29f3EwyV
NASAは調査結果を発表し、オテロ氏の損害に対する補償について検討する意向を示しています。
しかし、この物体が日本のJAXAが所有していた機器の一部だった可能性もあり、補償の責任が複雑になる可能性があります。
国際協調の必要性
オテロ氏は連邦政府に対して自宅の修理費用をカバーするための請求を行う予定です。
しかし、この物体がJAXAに属する機器から来た可能性が高く、補償プロセスはさらに複雑になる可能性があります。
オテロ氏は、責任ある当事者からの補償を求める意向を持っていますが、現時点ではプロセスが単純ではなく、結果もまだ不確定です。NASAはこの事件を積極的に調査していますが、補償に関する最終決定はまだ公表されていません。
このような国際的な宇宙活動における補償問題は、複数の宇宙機関間での調整が必要となり、解決には時間と努力が必要になりそうです。
宇宙からの落下物で万が一被害が出たら
宇宙開発の歴史の中で、フロリダの事故のように地上に被害をもたらす落下物事故は決して珍しいものではありません。これまでにも、ロケットの破片や人工衛星の一部が地上に落下し、建物の損壊や人的被害が報告されてきました。
そのため、宇宙活動に伴うリスクに備えるための国際的な取り決めが存在します。
宇宙損害責任条約
1972年に採択された「宇宙損害責任条約」では、宇宙物体の落下による地上や航空機への損害に対する各国の責任について定められています。この条約によると、宇宙物体の発射国は、自国の宇宙活動から生じた損害について国際法上の責任を負うことになっています。
ただ今回の事故のような国際宇宙ステーションからの落下物の場合は発射国がどこなのか、落下した機材の所有者(JAXA)が補償するのか、はっきりとしません。
ただし、この条約には一定の制限があります。まず、発射国が「過失なく」損害を防ぐことができなかった場合は免責される可能性があります。
また、打ち上げ国の自国民に対しては条約の適用外となります。そのため、宇宙機関や民間企業は、このリスクに備えて独自の保険に加入しています。
一方、民間の宇宙開発企業も同様に、打ち上げロケットの破損や、人工衛星の落下事故など、さまざまなリスクに備えた保険に加入しています。
こうした民間保険の活用により、宇宙開発の恩恵を享受しつつ、地上住民の安全も一定程度担保されているのが現状です。
ただし、保険の適用範囲には限界があり、大規模な事故の際には十分な補償が得られない可能性もあります。そのため、NASAのような宇宙機関には、事故防止はもちろん、万が一の際の被害者救済に向けた強い姿勢が求められるのです。
もし北朝鮮が発射した衛星で被害にあったら
北朝鮮の衛星の破片が落下し住民に被害が出た場合、保険の適用はどうなるのでしょうか。
宇宙損害責任条約では、衛星の打ち上げによって生じた被害は、打ち上げ国または所有国が補償を行うとされています。しかし、北朝鮮はこの条約を批准していないため、北朝鮮からの補償を期待することは難しいでしょう。政府間の補償交渉次第ということになります。
民間の保険会社による対応によっては、被害に遭った場合の補償が期待できるかもしれません。
https://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_int_northkorea20120407j-01-w400
まとめ
NASAは今回の事故の原因を特定し、オテロ氏への補償について検討しています。
しかし、宇宙開発に伴うリスクと責任の問題は複雑で、今後の宇宙活動の在り方について、より包括的な議論が必要だと考えられます。