センザンコウの新種「マニス・アウリタ」とは?190年前の標本DNAで判明、密猟阻止に活用へ

ネパールと北インドに生息、密輸されたウロコの追跡にも応用可能

「世界で最も密輸されている哺乳類」として知られるセンザンコウに、新たな一種が加わりました。

米フィールド博物館などの国際研究チームが、1836年に採集された博物館標本からDNAを抽出し、ヒマラヤ山麓に生息する集団が独立した新種「マニス・アウリタ」であることを突き止めたのです。

この発見は、密猟対策や絶滅危惧種の保護活動に直結する画期的な成果として注目されています。

米科学ニュースサイトScienceDailyやフィールド博物館、Phys.orgなどが2026年8月下旬に報じました。

何が判明したのか——190年前の標本が明かした「隠れた新種」

今回の研究成果は、学術誌『コミュニケーションズ・バイオロジー』に掲載されました。

研究チームは、世界各地の博物館が保管する44頭分の頭骨と26頭分の毛皮、さらに現生個体を含む125頭分の遺伝情報を分析しました。

その中には、英ロンドンの自然史博物館が所蔵する、1836年に英国人博物学者ブライアン・ホートン・ホジソン氏がネパールで採集した標本も含まれていました。

この標本は当時「マニス・アウリタ」と命名されましたが、その後の分類見直しでチュウゴクセンザンコウ(中国から東南アジアに生息する近縁種)の亜種として扱われ、1951年には名称自体が消滅していました。

研究チームが約190年ぶりにこの標本からDNA(遺伝情報を担う分子)を抽出し現代の個体群と比較したところ、両者は明確に異なる系統に分かれることが判明しました。

これにより、ネパールから北インド、ブータン、ミャンマー国境にかけて分布する集団が、独立した新種であると正式に確認されたのです。

新種「マニス・アウリタ」の特徴と5年に及んだ調査の舞台裏

研究は5年以上の歳月をかけて行われ、7カ国12機関から20人の研究者が参加しました。

筆頭著者を務めたネパール工科大学のナラヤン・コジュ氏らは、次のような特徴からマニス・アウリタをチュウゴクセンザンコウと区別しています。

  • 体格が全体的に大きい
  • 尾が長い
  • 耳が小さい(種小名「アウリタ」はラテン語で「耳のある」を意味する)
  • 生息域がチュウゴクセンザンコウと重ならない

実は2025年にも別の研究チームが、同じ集団を新種「マニス・インドブルマニカ」として発表していました。

しかし今回の研究では、命名の優先権に関する国際規則に基づき、1836年に付けられた「マニス・アウリタ」という名称が正式名として復権することになりました。

共同責任著者を務めた米フィールド博物館のアンダーソン・フェイジョ氏は「私たちは知らないものを守ることはできない。この種の存在を確認できた今、絶滅危惧種を保護するためにこの情報を活用できる」と述べています。

なぜ重要なのか——「世界最多の密輸哺乳類」を守る新たな武器

センザンコウは硬いウロコに覆われた独特の姿から、漢方薬の材料や食用として東南アジアを中心に高い需要があります。

そのため、密猟・密輸の被害が最も深刻な哺乳類とされ、近縁のチュウゴクセンザンコウは既に「絶滅危惧IA類(近い将来における絶滅の危険性が極めて高い種)」に分類されています。

今回の分類確定により、押収されたウロコのDNAを既知の種のデータと照合し、密輸ルートや原産地を科学的に特定できるようになります。

さらに、保護施設で保護された個体を野生に戻す際、誤って別種の生息域に放してしまう事態も防げるようになります。

研究チームによれば、ネパールのカトマンズ盆地に残る個体群は近親交配の割合が高く、遺伝的多様性の乏しさが病気への抵抗力低下につながる懸念もあるといいます。

今後は、分布域が推定されるインド北東部やミャンマー国境地帯での実地調査を進め、生息状況の全容把握を急ぐ方針です。

考察——地味な分類学の進展がもたらす保護活動への波及効果

一見地味に見える「種の再分類」ですが、野生生物保護の現場では極めて実務的な意味を持ちます。

保護すべき対象が曖昧なままでは、限られた予算や人員をどこに投じるべきか判断できないためです。

実際、2016年から2017年にかけて中国の研究者が密輸されたウロコから遺伝的な違いを発見したことが、今回の一連の研究の出発点になったとされています。

現場で押収された「証拠」から科学的な発見が生まれ、それが今度は取り締まりの精度向上に還元されるという好循環が生まれつつあります。

また、19世紀の標本が最新のゲノム解析技術によって約190年越しに「復活」した点も象徴的です。

世界中の博物館に眠る古い標本群は、気候変動や生物多様性の研究においても今後さらに活用が進むとみられています。

関連情報——センザンコウを取り巻く現状

センザンコウは全身を覆う硬いウロコを唯一の武器として持つ哺乳類で、世界には現在8種が確認されています。

ウロコはケラチン(人間の爪や髪と同じ主成分のタンパク質)でできており、伝統的な漢方薬の材料として東南アジアや中国で根強い需要があります。

国際自然保護連合(IUCN)によれば、過去10年間で密輸されたセンザンコウは推計100万頭を超えるとされています。

ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)では2017年以降、全種の商業目的の国際取引が全面禁止されています。

それでも違法取引は後を絶たず、DNA鑑定を用いた摘発強化への期待が高まっています。

まとめ——分類の確定が保護の第一歩に

今回の研究により、ヒマラヤ山麓に生息するセンザンコウが独立した新種「マニス・アウリタ」であることが約190年越しに確定しました。

この成果は、密輸されたウロコの追跡や、保護個体の適切な野生復帰先の判断など、実際の保護活動に直接役立つ点が特徴です。

研究チームは今後、インド北東部やミャンマー国境地帯での実地調査を通じて、正確な生息数や分布域の把握を進める方針です。

日本ではあまり報じられていないニュースですが、世界最多の密輸哺乳類を守るための地道な科学的成果として、今後の展開が注目されます。

出典:
ScienceDaily
Field Museum
Phys.org
Mongabay

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