欧州核融合ベンチャー史上最大級の資金調達が意味するもの
ドイツ発の核融合スタートアップ「Proxima Fusion(プロキシマ・フュージョン)」が、2026年7月7日までにシリーズA2ラウンドで4億1100万ユーロ(約4億6800万ドル)を調達したと発表しました。Google(Alphabet)や独エネルギー大手RWEも出資に加わり、欧州の核融合分野では過去最大規模の投資となります。米メディアTechStartups、Yahoo Finance、EnergyConnectsなどの報道と同社発表をもとに、その内容と背景を読み解きます。
調達の概要 – 評価額24億ユーロの巨大ラウンド
発表によれば、今回のシリーズA2ラウンドを主導したのは英投資会社のXTXベンチャーズとイーストXベンチャーズで、両社だけで約1億5000万ユーロを拠出しました。これにGoogleとRWEが戦略的投資家として参加したほか、KfWキャピタルやEUの欧州イノベーション会議(EIC)基金など17を超える投資家が名を連ねています。出資者の9割超が欧州の投資家で占められている点も特徴です。
今回の調達により、プロキシマの評価額は24億ユーロ(約27億ドル)に達し、創業からわずか3年足らずで累計調達額は6億5000万ユーロ(公的助成金9500万ユーロを含む)に到達しました。これは欧州の核融合企業としては過去最大の資金調達であり、同社が「欧州で最も資金力のある核融合企業」と称される所以です。
なぜGoogleとRWEが出資したのか
Googleは近年、生成AIの学習・推論に伴うデータセンターの電力需要急増に直面しており、脱炭素電源の確保が経営課題となっています。同社はすでに米新興企業コモンウェルス・フュージョン・システムズ(CFS)とも200メガワット分の電力購入契約を結んでおり、核融合分野への投資先を分散させる狙いがあると見られます。
Google側は「核融合はクリーンで枯渇せず、本質的に安全な電源として大きな可能性を持つ」としつつ、「商業化は依然として極めて困難で、成功が保証されているわけではない」ともコメントしており、期待とリスクの両面を認めた上での投資である点は注目に値します。一方、ドイツの電力大手RWEは自社が保有する廃止済みの原子力発電所跡地(バイエルン州)を、プロキシマの実証炉建設予定地として提供する計画で、単なる資金提供にとどまらない事業提携となっています。
核となる技術「ステラレータ」とは
プロキシマが採用するのは「ステラレータ」と呼ばれる炉形式です。これは強力な磁場でねじれたドーナツ状の真空容器に超高温のプラズマ(原子核と電子が電離した状態の高温気体)を閉じ込め、核融合反応を起こす方式です。
現在世界で主流の「トカマク型」(環状の磁場でプラズマを閉じ込める方式)と比較すると構造や磁石の設計は複雑になりますが、プラズマの状態がより安定し、理論上は連続運転がしやすいとされています。プロキシマは高温超伝導(HTS、従来より高い温度で電気抵抗がゼロになる特殊な素材を使う磁石技術)を用いたコイルの開発を進めており、この磁石製造技術の確立が事業化の鍵を握るとしています。同社はマックス・プランク・プラズマ物理学研究所からのスピンオフ企業で、MITやGoogle Xの出身者も創業メンバーに名を連ねる、学術発の技術系スタートアップです。
開発ロードマップ – 実証炉「Alpha」から商用炉「Stellaris」へ
プロキシマは2段階の開発計画を掲げています。まずバイエルン州の廃止原子力発電所跡地に、正味のエネルギー産出(投入エネルギーを上回る出力)を実証する炉「Alpha」を建設し、2030年代前半の稼働を目指します。建設費は約20億ユーロと見積もられており、プロキシマが約4億ユーロ、バイエルン州政府がほぼ同額を負担する枠組みです。
その先に見据えるのが、初の商用ステラレータ発電所となる「Stellaris」で、2030年代後半の実現を目標に掲げています。核融合発電はこれまで「実用化はあと30年」と言われ続けてきた技術ですが、プロキシマCEOのフランチェスコ・ショルティーノ氏は今回の調達について「我々は約束したことをやり遂げた。ドイツにとって、そして欧州にとって歴史的な機会だと考えている」と述べ、開発を加速させる姿勢を強調しました。
米国勢との差 – 世界の核融合スタートアップ競争
とはいえ、資金力で見れば米国勢が依然として先行しています。米コモンウェルス・フュージョン・システムズは累計で約29億ドルを調達し世界最大級の核融合企業とされ、サム・アルトマン氏が支援する米ヘリオン・エナジーも累計約15億ドルを集めています。プロキシマの4億6800万ドルはこれらと比べればまだ小さいものの、「欧州発」で世界に伍する核融合企業を育てるという政治的意味合いも大きく、ドイツ・バイエルン州や欧州連合(EU)の公的資金が支援に加わっている点は、米国主導になりがちだった核融合開発競争に欧州が本腰で参戦した証と言えるでしょう。
核融合発電はまだ商用炉が世界のどこにも存在しない未成熟な技術ですが、生成AIの普及に伴う電力需要急増を背景に、テック企業と電力会社を巻き込んだ投資合戦が世界的に加速しています。
補足情報
核融合発電は、水素などの軽い原子核同士を融合させて重い原子核に変える際に生じるエネルギーを利用する発電方式で、太陽が輝く仕組みと同じ原理です。核分裂を利用する既存の原子力発電と異なり、暴走反応や高レベル放射性廃棄物のリスクが低いとされ、脱炭素電源の「本命」として長年期待されてきました。プロキシマ以外にも、英国のトカマク・エナジー、日本の京都フュージョニアリングやヘリカルフュージョンなど、世界各国で多様な方式の核融合スタートアップが乱立しており、今後数年で技術方式の淘汰が進む可能性があります。
まとめ
プロキシマ・フュージョンによる4億1100万ユーロの資金調達は、Googleやドイツのエネルギー大手RWEを巻き込みながら、欧州発の核融合企業としては過去最大規模のものとなりました。実証炉「Alpha」は2030年代前半の稼働を目標としており、実現すればステラレータ方式として世界初の純エネルギー産出実証となる可能性があります。もっとも核融合発電の商業化は依然として不確実性が大きく、資金力で先行する米国勢との競争や、実証炉建設の遅延リスクにも注意が必要です。今後、Alphaの建設進捗や他の核融合スタートアップの動向にも注目が集まりそうです。
出典:
Proxima Fusion 公式発表
TechStartups
EnergyConnects
Yahoo Finance