Ramp調査は採用増、Goldmanは減少と正反対の結果に
「AIが新卒の仕事を奪う」という悲観論が広がる一方、正反対の結果を示す調査も相次いでいます。決済プラットフォームRampと労働市場データ分析のRevelio Labsが2万1559社を調べたところ、AI導入が進んだ企業ほど新卒採用を増やしている実態が明らかになりました。TechCrunchやCoinDeskの報道、人材シンクタンクStrada Institute for the Future of Workの調査などをもとに、AIと雇用をめぐる「割れた実態」を読み解きます。
Rampの企業データが示す「ヘビー導入企業ほど採用増」
金融プラットフォームのRampは、労働市場データ分析企業Revelio Labsと共同で、2021年から2026年初頭にかけて米国企業2万1559社の実データを調査しました。AI導入の度合いは、AI関連ベンダーへの支出額をもとに区分されています。3カ月連続で月100ドル以上をAIサービスに支出した企業を「導入企業」と定義し、その中でも支出額が特に大きい「ヘビー導入企業」を抽出して分析した結果です。
その結果、ヘビー導入企業は全体の雇用者数を約10%増やし、新卒を含む未経験層の採用は約12%も増加していました。一方、AI利用が軽微な企業では、雇用者数に統計的に意味のある変化は見られなかったといいます。採用増加の効果はすぐには現れず、AI導入から6〜12カ月ほどかけて徐々に表れる傾向があるとされます。増加した職種は営業、管理部門、財務、カスタマーサポートなど多岐にわたり、特にソフトウェアやインターネット関連企業が集まる情報産業でAI導入率と採用増加率がともに高くなっていました。
ただし研究チーム自身が「相関関係であり、因果関係ではない」と強調している点は見逃せません。AIを積極導入した企業は、そもそも成長スピードが速く、技術力が高く、ベンチャー投資を受けている割合も高い傾向にあったためです。AIが採用を増やしたのか、成長企業がたまたまAIも新卒も両方増やしていただけなのか、因果の向きは慎重に見る必要があるでしょう。
その裏側 – Goldman SachsとBCGが描く悲観シナリオ
一方で、正反対のデータを示す調査も存在します。金融大手Goldman Sachsの分析やその他の集計では、次のような悲観的な数字が示されています。
- Goldman Sachs:過去1年間、AIの影響により雇用が月平均で約1万6000人分純減。打撃はZ世代(1990年代後半〜2010年代生まれの若年層)や新卒層に集中
- 2026年5月までに、企業がAIを理由に発表した人員削減は累計で約9万人に到達
- BCG(ボストン・コンサルティング・グループ):今後5年間で米国の雇用のうち最大15%がAIによって消失する可能性
同じ米国経済を対象にしていながら、なぜここまで正反対の結果が出るのでしょうか。Ramp・Revelio Labsの調査が企業の給与データを継続的に追跡した「積み上げ型」の分析であるのに対し、上記の数字は個別の解雇発表や将来予測を積算した「トップダウン型」の分析に近いという違いがあります。実態としては、AIを戦略的に使いこなして人材ごと拡大する企業と、コスト削減の手段としてのみAIを使い人員を絞る企業とに、二極化が進んでいる可能性が高いと考えられます。
人事トップの本音 – Strada Institute調査が映す「増加予測」
人材シンクタンクのStrada Institute for the Future of Workが2026年春、経営幹部・人事責任者ら約1500人を対象に実施した調査でも、興味深い結果が出ています。2025年実績としてAIが新卒採用を「増やした」と答えた割合は合計47%(大幅増11%、やや増36%)に対し、「減らした」は合計13%(大幅減3%、やや減10%)にとどまりました。2026年の見通しについても、AIが採用を増やすと考える人は、減らすと考える人の2.7倍に上りました。ただし業務内容そのものは変化しており、回答者の42%が新卒に任せる分析・判断業務が増えたと答え、41%はルーティン・事務作業が減ったと回答しています。新卒に求めるスキルを5点満点で尋ねた設問では、次のような結果になりました。
- 批判的思考:4.3点(最上位)
- コミュニケーション能力:4.3点(最上位)
- 協働・チームワーク:4.2点
- 技術的な専門スキル:4.1点
- AIリテラシー(AIを使いこなす基礎知識):3.6点(最下位)
AIを操作する技術そのものより、AIが代替できない判断力や対人スキルの価値が、むしろ高まっていることがうかがえます。
見えてきた「入り口の壁」 – Washington Monthlyが指摘する矛盾
ではAIは新卒にとって恩恵なのでしょうか、それとも脅威なのでしょうか。米誌Washington Monthlyの分析は、両者の矛盾を浮き彫りにしています。ChatGPT登場(2022年)以降、米国のホワイトカラー(事務・専門職)全体では約300万人分の職が増加し、ソフトウェア開発者は7%増、放射線科医は10%増、パラリーガルは21%増と、むしろ拡大しています。
しかしその内実を見ると、実務経験2〜4年を求める求人の割合は46%から40%に低下する一方、5年以上の経験を求める求人は37%から42%に上昇しました。学士号を持ちながら長期失業状態にある人の割合も、10年前の「5人に1人」から現在は「3人に1人」に増えています。
AIが定型業務を代行するようになった結果、企業は新卒に「練習台」としての仕事を与える余裕を失い、即戦力となる経験者を優先する傾向を強めている、というのがこの分析の見立てです。雇用全体のパイは縮んでいなくても、新卒という「入り口」だけが狭くなっている構図と言えるでしょう。
補足情報
Rampは、AI経費管理やコーポレートカードを手がける米フィンテック企業で、Revelio Labsは求人票や職務経歴データをAIで解析する労働市場分析企業です。両社の共同調査は、企業のクレジットカード決済記録という実支出データと雇用データを直接ひも付けた点で、経営者の主観に頼るアンケート調査より客観性が高いとされています。今回「導入企業」と定義されたのは3カ月連続で月100ドル以上をAIベンダーに支払った企業で、ChatGPTなど生成AIサービスの契約料もここに含まれます。日本では新卒を年に一度まとめて採用する「新卒一括採用」の慣行が根強く、米国企業のように四半期単位で採用数を機動的に増減させる動きは相対的に起こりにくいとされ、今回のような急激な採用増減は日本ではまだ現れにくいと見る専門家もいます。
まとめ
AIと新卒採用をめぐっては、「導入企業ほど採用が増える」というRamp・Revelio Labsのデータと、「AIが雇用を奪っている」とするGoldman SachsやBCGの分析が、同じ米国経済の中で共存しています。Strada Instituteの調査が示す通り、少なくとも人事現場の実感としては悲観一色ではないものの、Washington Monthlyが指摘するように新卒という「入り口」が狭くなっている点は無視できません。今後は、こうした企業データに基づく調査がさらに増えるか、そして日本企業の新卒採用にどこまで波及するかが注目されます。
出典:
TechCrunch
CoinDesk
Strada Education Foundation
Washington Monthly