マイクロソフト内製AI「MAI」始動、脱OpenAI鮮明に

ExcelとOutlookで自社製AIが始動、Anthropicへの支出「ゼロ」目指す

2026年7月7日、米Bloombergが伝えた一本の記事が業界の話題をさらっています。

マイクロソフトが看板製品のExcelとOutlookに搭載するAI機能で、これまで頼ってきたOpenAIとAnthropicのモデルを自社開発の「MAI」シリーズへ静かに置き換え始めていたのです。

SiliconANGLEやFourWeekMBAなど複数の海外メディアも後追いで報じており、生成AI業界の力学を揺るがしかねない一手として注目されています。

静かに進む「脱OpenAI」―ExcelとOutlookの舞台裏

Bloombergの報道によれば、ExcelとOutlookでは現在、週あたり数万件規模のAIプロンプト(AIへの指示・質問)が、外部のOpenAIやAnthropicではなく社内製のMAIモデルによって処理されています。

対象となっているのは、メールの返信文の下書き、長文スレッドの要約、表計算の数式生成など、利用頻度は高いものの要求される思考の複雑さはさほど高くない定型業務です。

一方で、高度な推論力が求められるフロンティア級(最先端)のタスクは、引き続きOpenAIの「GPT-5.5」やAnthropicの「Claude Opus 4.6」に割り振られる仕組みが維持されています。

つまりマイクロソフトが採っているのは、パートナー企業との関係を完全に断つのではなく、処理内容ごとに最適なAIへ自動的に振り分ける「ルーティング」という現実的な戦略です。

もっともCopilot全体では週に数百万件規模のプロンプトが処理されているとみられ、現時点でMAIが占める割合はごく一部に過ぎません。ただし、置き換えの矛先が徐々に広がっていることこそが今回の報道の核心です。

サレイマン氏の本音「Anthropicへの支出はゼロに」

今回の動きの背景を最も雄弁に物語るのが、マイクロソフトでAI部門を率いるムスタファ・スレイマン氏の発言です。

同氏は「Anthropicには多額の費用を支払っている。だからこそ、そのコストを削減し、最終的にはゼロにすることが目標だ」と明言したと報じられています。

この発言の背景には、AIモデルの利用料金(トークン単価)に大きな開きがある現実があります。SiliconANGLEが報じた価格比較は次の通りです。

  • Anthropicの最上位モデル:入力100万トークンあたり10ドル、出力100万トークンあたり50ドル
  • OpenAIの「GPT-5.5」:入力5ドル、出力30ドル
  • 中国DeepSeekの「V4-Pro」:入力0.435ドル、出力0.87ドル

Anthropic製モデルの利用料金は、中国発の格安モデルと比べて実に20倍以上の開きがあることになります。Copilotのように数百万人規模のユーザーが日常的に利用する製品では、トークン単価のわずかな差が積み重なり、年間で巨額のコスト差につながりかねません。マイクロソフトの決断は、こうした「AIコストの現実」への対応と言えるでしょう。

新モデル「MAI-Thinking-1」の実力とコスト構造

置き換えの受け皿となっているのが、2026年6月の開発者向けイベント「Microsoft Build」で発表された新型推論モデル「MAI-Thinking-1」です。

このモデルは混合エキスパート方式(MoE、質問内容に応じてAI内部の一部分だけを稼働させることで処理を効率化する設計)を採用しており、全体では約1兆パラメータを持ちながら、実際に1回の処理で稼働するのは350億パラメータ程度に抑えられています。対応できる文脈の長さ(コンテキストウィンドウ)も、入出力合わせて最大25万6000トークンに達します。

性能面では、数学の難問を解く「AIME 2025」というベンチマークで97.0%の正答率を記録し、DeepSeekの「V3.2」(93.1%)を上回りました。ただしAnthropicの最上位モデル「Claude Opus 4.6」(99.8%)には一歩及ばず、科学分野やソフトウェア開発の自律作業(エージェント型コーディング)では依然としてライバル勢に後れを取ることも認めています。

注目すべきは、開発チームが競合モデルの出力を学習データとして流用する「蒸留」という手法に頼らず、ライセンス済みの素材から一から学習させたと説明している点です。トップ性能ではなく、実用十分な精度を低コストで実現することに主眼を置いた設計思想がうかがえます。

提携と競争が同居する複雑な関係

マイクロソフトとOpenAI、Anthropicの関係は、単純な「対立」では語れません。

  • マイクロソフトは2019年以降、OpenAIに130億ドル超を投資し、クラウド提供やソフト配信の主要パートナーとなってきた
  • 2025年11月には、Anthropicとの間で300億ドル規模のAzureインフラ利用契約を締結したばかりだった
  • 2024年には自社開発の推論用チップ「Maia 100」を投入し、Nvidia製品への依存とコストの引き下げを図ってきた

つまり今回のMAI展開は、巨額の資金を投じてきたパートナーとの関係を保ちながら、同時にコストの主導権を自社側に取り戻そうとする綱渡りのような戦略の表れといえます。マイクロソフトは今後、MAIモデルの適用範囲をGitHub CopilotやTeamsにも広げる方針を示しており、置き換えの動きはExcelやOutlookにとどまらない見込みです。

業界全体に広がる「AIコスト最適化」の波

マイクロソフトの動きは孤立した現象ではありません。Amazon、Accenture、Meta、Uberといった企業でも、AI関連費用の見直しが進んでいると報じられています。背景には、DeepSeekなど中国発の低価格AIモデルの台頭により、割高な欧米フロンティアモデルへの依存にコスト面での疑問符が付き始めたという業界全体の潮流があります。

生成AIの導入初期には「最高性能のモデルを使うこと」自体が競争力の源泉でしたが、利用が定着した現在は「必要十分な性能を、いかに安く安定して提供するか」という運用面の勝負へと軸足が移りつつあるようです。

補足情報

「Copilot」はマイクロソフトがWordやExcel、Outlookなど主要オフィス製品に組み込んでいるAIアシスタント機能の総称で、2023年から順次展開されてきました。

Anthropicは2025年11月にマイクロソフトおよびNvidiaと提携し、Azure向けに巨額のクラウド利用契約を結んだばかりであり、わずか半年余りで「最大の顧客」が最大のコスト削減対象にもなるという皮肉な構図が生まれています。

なお、スレイマン氏はもともと英DeepMindの共同創業者で、2024年にマイクロソフトへ移籍しAI部門トップに就任した経歴を持ちます。

マイクロソフトはこれまでも「Phi」シリーズなど比較的小型の独自モデルを展開してきましたが、大規模な推論モデルを一から自社開発したのはMAI-Thinking-1が初めてです。

まとめ

今回の報道は、マイクロソフトが自社製AI「MAI」を軸に、ExcelやOutlookといった主力製品でOpenAIとAnthropicへの依存を段階的に引き下げ始めたことを明らかにしました。

背景にあるのは、AIモデルの利用コストという極めて現実的な経営課題です。現時点での置き換えはCopilot全体のごく一部にとどまりますが、GitHub CopilotやTeamsへの拡大が予告されており、今後の展開次第ではOpenAIやAnthropicの収益構造にも影響が及ぶ可能性があります。

他の大手企業がAIコストにどう向き合うかも合わせて注目されます。

出典:
Bloomberg
SiliconANGLE
FourWeekMBA
DeepLearning.AI (The Batch / CharonHub)

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