フェムトサットとは?NASAが土星の環に1万機投入、18件の計画に4.9億円助成

スウォームロボティクスで実現?1万機投入という大胆発想

米航空宇宙局(NASA)が、実現すればカッシーニを超える探査になり得る、奇抜な宇宙探査構想に資金を投じ始めました。

米科学メディア「スペースドットコム」(Space.com)や科学ニュースサイト「ユニバーストゥデイ」(Universe Today)が伝えたところによると、NASAは2026年8月、実現性を探る制度「NIAC」の対象として18件の構想を選定したと発表しました。

その中でもひときわ目を引くのが、わずか数グラムの超小型探査機「フェムトサット」を1万機、土星の環そのものへ投入するという計画です。

数字とともに、その狙いを詳しく見ていきます。

NASAの「NIAC」制度とは?——18件に総額4.9億円

今回の18件は、NASAの研究部門「宇宙技術ミッション局」(STMD)が運営する「NASA Innovative Advanced Concepts」(NIAC、実現性の低い先端構想に資金を出す制度)の2026年度・第1段階(フェーズ1)採択分です。

NIACは、実現すれば宇宙開発の常識を覆すような、リスクは高いが可能性も大きい初期段階のアイデアに絞って資金を提供する制度です。

採択された18件には合計320万ドル(1ドル=155円換算で約4億9600万円)が配分されます。

1件あたり最大17万5000ドル(約2712万円)が、9カ月間の初期調査に充てられる仕組みです。

NASAの先端研究担当ディレクター、グレッグ・ストーバー氏は「(火星の有人探査など大きな目標を)達成するには、段階的な技術進歩だけでは足りません、大きな飛躍が必要なのです」と述べています。

NIAC運営責任者代理のフィリップ・ウィリアムズ氏も「NIACは、NASAがこうした”種”を育て、将来の宇宙ミッションに役立つかどうかを見極めるための制度だ」と説明しています。

土星の環に1万機投入——「フェムトサット」計画の全貌

今回最も注目を集めているのが、米国の研究者マイケル・ルーベンスタイン氏が提案した構想です。

同氏は群れで動くロボット技術「スウォームロボティクス」(多数の小型ロボットを協調させて動かす技術)の専門家として知られています。

構想では、重さわずか数グラム、大きさ数センチという超小型の探査機「フェムトサット」を1万機製造し、土星の環そのものへ直接投入します。

スマートフォン業界で培われた小型化技術を応用することで、この極端な小ささを実現するとしています。

目的は、土星の環の正確な年齢の特定、氷の粒子同士がぶつかり合い、くっつき合う仕組みの解明です。

さらに、土星の大気を複数地点で同時に観測することや、軌道や高度の異なる位置から土星の不規則な磁場を測定することも狙いに含まれます。

2004年から2017年にかけて土星を探査した探査機「カッシーニ」は、最終フェーズで環と土星本体の間を通過しましたが、氷の破片への衝突を避けるため、環そのものには一度も突入しませんでした。

今回の構想は、その”踏み込めなかった領域”に直接飛び込む点が最大の特徴です。

なぜ「使い捨て」の1万機なのか——発想の転換

1機あたりの性能を追求する従来型の探査機とは異なり、この構想は数の力で危険を乗り越える発想に基づいています。

環の中には無数の氷の破片が存在し、探査機が衝突で失われるリスクは避けられません。

そこで、多少の機体を失っても任務全体には影響しない設計にすることで、初めて環の内部という高リスク領域への突入が可能になります。

1機が安価であればあるほど、この「使い捨て前提」の設計は成立しやすくなります。

一方で課題も残ります。

1万機をどのように制御し、狙った軌道へ誘導するかという「操舵機構」については、現時点で具体的な方式が定まっていません。

小型スラスター(推進装置)を使う案や、電磁的な”綱”で機体同士をつなぐ案などが検討段階にあるとされています。

この操舵技術こそが、構想の実現性を左右する最大の技術的ハードルだと考えられます。

採択された他の奇想天外な17件

今回のフェーズ1には、フェムトサット計画以外にも個性的な構想が並びます。

主なものは次の通りです。

  • DimSun:制御可能な塵の雲を使い、地球に届く太陽光を調整する構想
  • CANVAS:金星の過酷な大気環境でも壊れない観測機器の開発
  • EARENDIL:放射性同位体を熱源に使い、月面の夜間活動を支える宇宙服の開発
  • LUX:月の溶岩洞を探査するホバリング型ロボット
  • SPARK:月面の「カルスト地形」(石灰岩が溶食されてできた地形)の地下探査
  • PRAXIS:惑星の環から直接サンプルを採取する技術
  • OBLIVIAN:ブラックホール周辺の「光子リング」の観測構想
  • 系外惑星の大陸地形を光学干渉技術でマッピングする構想

いずれも現時点では机上の構想に過ぎませんが、その振れ幅の大きさこそがNIACという制度の性格を物語っています。

補足:NIACが生んだ実績——「インジェニュイティ」もここから

NIACは1998年から2007年まで「NASA先端概念研究所」として運営された後、いったん活動を休止し、2011年に現在の名称・体制で再始動した制度です。

これまでの採択事例の中には、実際のミッションへとつながった例も存在します。

火星探査機「パーサヴィアランス」とともに火星へ渡り、地球外で初めて動力飛行に成功した無人ヘリコプター「インジェニュイティ」の技術系譜は、NIACの初期構想にまでさかのぼるとされています。

深宇宙探査用の超小型衛星「マルコ」(MarCO)に搭載された機器も、同様にNIAC出身です。

米カーネギーメロン大学のレッド・ウィッタカー氏による自律走行月面探査車の研究も、NIACのフェーズ1・2・3を経て、民間企業アストロボティック社の月面ローバー群に技術が組み込まれています。

今回の18件のうち、実際にミッション化まで進むのはごく一部と見られますが、こうした”種まき”の積み重ねが将来の探査を支えてきた実績があります。

まとめ——実現までの距離と今後の焦点

今回NASAが選んだ18件は、いずれも9カ月間の初期調査を経て、その先の資金獲得を目指す段階にあります。

土星の環に1万機のフェムトサットを投入する構想は、実現すれば土星の環の起源や磁場の謎に迫る画期的な手段となり得ます。

ただし、1万機を制御する操舵技術など、乗り越えるべき課題は少なくありません。

今後は、フェーズ1の成果を踏まえてフェーズ2への採択が行われるかどうかが焦点となります。

過去にインジェニュイティを生んだ制度だけに、一見突飛に見えるこの構想が将来どこまで育つのか、引き続き注目されます。

出典:
NASA公式発表
Space.com
Universe Today

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