米調査で判明、若手求職者の「連絡途絶」が採用現場を揺るがす
面接の約束をすっぽかす、内定を承諾したのに書類も出さない、出勤初日に現れない——。米国の採用現場で、Z世代の求職者が選考や入社の途中で突然連絡を絶つ「ゴースティング」が深刻化しています。転職支援サービスResume.orgが2026年8月に発表した調査によると、内定を出した後に候補者と音信不通になった採用担当者は実に54%にのぼりました。Fox BusinessやForbesが相次いで報じたこの現象の実態と背景を、具体的な数字とともに見ていきます。
調査が示す衝撃の数字——採用担当者の半数以上が「音信不通」を経験
Resume.orgが2025年6月、採用や人事に関わる管理職の米国人1,115人を対象にPollfish(オンライン調査プラットフォーム)を通じて実施した調査で、驚くべき実態が明らかになりました。54%の採用担当者が、正式に内定を出した後にZ世代の候補者から連絡が取れなくなった経験があると回答したのです。
さらに深刻なのは、この現象が特定の年代に偏っているという認識です。回答者の53%が「Z世代は他の世代よりもやや連絡を絶ちやすい」と答え、33%は「はるかに連絡を絶ちやすい」と回答しました。合計すると実に9割近くの採用担当者が、Z世代を「ゴースティングしやすい世代」と見なしていることになります。事態を重く見た企業の一部は行動にも出ており、10人に1人の採用担当者が「今後Z世代の候補者を採用対象から外す」とまで回答しています。
選考のどの段階で消えるのか——「ゴースティング」の具体的パターン
今回の調査では、候補者が姿を消すタイミングも細かく分析されています。選考プロセスの各段階で候補者と連絡が取れなくなったと答えた採用担当者の割合は次の通りです。
- 初回連絡の前に音信不通になった:22%
- 面接後に連絡が途絶えた:38%
- 内定通知の連絡に応答がなかった:22%
- 内定を承諾したが必要書類を提出しなかった:27%
- 書類提出後、初出勤日に現れなかった:26%
- 入社後まもなく、通告なしに辞めた:29%
特に注目すべきは、内定承諾や入社直後といった「本来ならコミットメントが固まっているはず」の段階でも離脱が相次いでいる点です。単なる選考辞退にとどまらず、雇用契約そのものが実質的に反故にされるケースが常態化しつつあることを示しています。従来、こうした「無断キャンセル」は求職者側よりも企業側の問題(応募しても返信が来ない、選考結果を知らせないなど)として語られることが多かった経緯がありますが、今回の調査は逆方向——求職者から企業への一方的な連絡断絶——が同じくらいの規模で広がっていることを裏付けた点で注目されています。特に内定承諾後の離脱は、採用にかかった広告費や面接工数、他の候補者を断った機会損失など、企業側に直接的な金銭的負担を強いる点で深刻度が高いと指摘されています。
なぜZ世代は「バックレる」のか——デジタル文化と経済不安が背景に
Resume.orgでキャリアアドバイスを統括するKara Dennison氏は「Z世代のゴースティングは、彼らが採用の仕組みそのものへの信頼を失っていることの表れだ」と分析しています。米メディアの報道を総合すると、背景には主に2つの要因が指摘されています。
1つ目は、SNSやテキストメッセージを介したコミュニケーションが当たり前になった「デジタルネイティブ」特有の文化です。ウォール・ストリート・ジャーナル紙のメアリー・ジュリア・コック氏は「ゴースティングはもともとテキストメッセージ上で行う行為であり、それが恋愛関係だけでなく就職活動にもそのまま持ち込まれている」と指摘します。対面でのやり取りに不慣れな世代にとって、直接断りの連絡を入れるより単純に返信を止める方が心理的な負担が少ないというわけです。
2つ目は、コロナ禍以降の物価高や住宅価格の高騰による経済的圧迫です。本来なら住宅購入などの人生の節目を迎えているはずの年代が、その目標を達成できずにいることへの閉塞感が、従来型の労働倫理や企業への忠誠心を弱めているとの見方もあります。実際、今回の現象は「静かな退職(quiet quitting、必要最低限の業務しかこなさない働き方)」など、近年広がるZ世代の労働観の変化とも軌を一にしています。企業への終身的な忠誠心を前提とした従来型の雇用契約の考え方が、経済的な安定を実感しにくい世代にとっては説得力を持ちにくくなっているとも言えるでしょう。
企業側の危機感——採用戦略の見直しと「世代間の不信」拡大リスク
ゴースティングの増加は、企業側の採用活動にも既に影響を及ぼしています。調査では66%の採用担当者が「ゴースティングのせいで採用がより難しくなった」と回答し、47%が「若手候補者全般への信頼が低下した」と答えました。対応策として、52%が入社前の段階でコミットメントへの期待をより早く明確に伝えるようにし、43%が内定から入社日までの間のフォローアップを増やし、34%が正式な内定通知を出すタイミングを意図的に遅らせるようになったと答えています。また34%は「経験豊富な年上の候補者を優先するようになった」とも回答しており、採用の場における世代間の分断が数字にも表れています。
もっとも、Dennison氏は行き過ぎた対応には警鐘を鳴らしています。「Z世代を切り捨てれば人材プールが縮小するだけでなく、年齢を理由にした採用差別のリスクや、長期的な人材不足を招きかねない」と述べ、企業側にも迅速で誠実なコミュニケーションを求める姿勢の転換が必要だと訴えています。実際、米国では今後数年でZ世代が労働力全体の4分の1以上を占めるとされ、単純に「敬遠する」という対応では立ち行かなくなる可能性が高いのが実情です。採用側にとっては、候補者を選別する立場から、候補者に選ばれる立場への発想の転換が迫られていると言えます。
関連情報——日本の「内定辞退」との違い、「ゴーストジョブ」問題も
日本でも新卒採用における「内定辞退」は長年の課題ですが、多くの場合は事前連絡を伴う正式な辞退の意思表示であり、今回の米国の事例のように書類提出後や出勤当日に無断で音信不通になるケースとは性質が異なります。一方、米国では求人を出したものの実際には採用する意思のない「ゴーストジョブ(幽霊求人)」が求職者側を悩ませている問題も報告されており、ゴースティングは企業・求職者の双方向で起きている現象だと言えます。また、今回の調査元であるResume.orgの親会社ResumeTemplates.comは同時期、ChatGPTなど生成AIを使って履歴書やカバーレターを作成する求職者がZ世代で急増しているとの調査結果も公表しており、デジタルツールへの依存度の高さがコミュニケーション様式全体に影響している可能性も指摘されています。
まとめ——採用は「双方向の信頼構築」の時代へ
Resume.orgの調査は、米国の採用現場で内定後の音信不通が54%という高い割合で発生している実態を浮き彫りにしました。背景にはデジタル世代特有のコミュニケーション様式と、経済的閉塞感による従来型の労働倫理への不信があります。今後は、企業側が候補者への迅速な連絡や透明性のある処遇を徹底できるかどうかが、Z世代人材の確保を左右する分水嶺になりそうです。同様の動きが日本の採用市場に波及するかどうかも、注目していく必要があります。