Meta、無断AI画像化機能を3日で撤回

「同意なきAI画像化」に猛反発、公開から3日での撤回劇

Meta(旧Facebook)が満を持して投入した新AI画像生成機能「Muse Image」が、公開からわずか3日で機能停止に追い込まれました。Fox Business、Newsweek、TechCrunchなど複数の米メディアが報じたところによると、原因は本人の同意なしに実在のInstagramユーザーの写真がAI生成コンテンツに使われる仕組みへの猛烈な批判でした。ハリウッドの大手芸能事務所まで異議を唱えた今回の騒動から、AI企業の「まず出す、後で直す」開発姿勢の限界が見えてきます。

「Muse Image」とは何だったのか

Muse Imageは、Meta社内の研究組織「Meta Superintelligence Labs」が開発した同社初の本格的な画像生成AIモデルです。7月8日(火)、Instagramストーリーズ向けの30種類以上の新AIエフェクトとともに一般公開されました。

目玉となったのが、Meta AIのチャットボット内でプロンプトを入力する際に任意の公開Instagramアカウントを「@メンション」で指定できるという機能でした。指定された相手の公開写真を参照して、誕生日カードや友人グループのミーム画像などをAIが自動生成する仕組みです。

問題は、この機能が18歳以上の公開アカウント全てに対してデフォルトでオンになっていた点でした。自分の写真が勝手に使われるのを防ぐには、利用者自身が設定画面から手動でオプトアウト(利用停止の申請)しなければならず、しかもタグ付けされる本人には通知すら届かない仕様だったのです。

ハリウッドと労組が動いた「同意なき肖像利用」

最も影響力の大きい反発の一つが、トム・ハンクスやメリル・ストリープ、ゼンデイヤ、トム・クルーズら大物俳優を抱える大手芸能事務所CAA(クリエイティブ・アーティスツ・エージェンシー)からのものでした。CAAはMetaに対し直接懸念を伝え、「氏名、肖像、声、創作物は、AIモデルを含むいかなる第三者によっても、明確で文書化された同意なしに利用されるべきではない」との声明を出しています。

俳優やスタントパフォーマーらが加盟する労働組合SAG-AFTRAも、会員に対し「自分の肖像を守るために行動を」と呼びかけ、デフォルトでオンにする設計を「世論に対する明らかな判断ミス」と厳しく批判しました。

批判の広がりを象徴したのが、機能のオプトアウト方法を解説したインフルエンサーバレット・ポール氏のInstagramリール動画で、再生回数は150万回を突破しました。エミー賞ノミネート歴のある俳優ハンナ・アインバインダー氏も公然と批判の声を上げています。

高齢者を狙った詐欺広告にも悪用

批判は著名人だけにとどまりませんでした。医療系スタートアップCareYayaの最高経営責任者ニール・K・シャー氏は、自身の肖像が認知症サプリメントを偽って宣伝する詐欺広告に無断で使われたと明らかにしています。シャー氏のもとには、広告を見たフォロワーから「本当に推奨しているのか」と問い合わせが殺到したといいます。

シャー氏は「詐欺がリアルタイムで起きているのを目の当たりにして、強い警戒感を覚えた」「高齢者たちが騙され、しかも自分の肖像がその詐欺に使われているのに、私には何もできなかった」と振り返っています。この事例は、著名人の肖像権侵害という枠を超え、一般ユーザーの信用を悪用した実害が既に発生していたことを示しています。

公開アカウントであれば誰でも標的になり得るという設計上、フォロワーの多い医療従事者やインフルエンサーほど、なりすまし詐欺の温床にされやすい構造だったと考えられます。

Metaの釈明と、わずか3日での撤回

批判を受け、Metaは公開からわずか3日後の7月10日(金)、@メンションによる画像生成機能を停止すると発表しました。声明では次のように説明しています。

「私たちの狙いは便利な創作ツールを提供し、自分の公開コンテンツがこの形で参照されるかどうかを利用者自身がコントロールできるようにすることでした。この機能が的を外していたというフィードバックを受け止め、提供を終了します」

今回停止されたのは他人をタグ付けする機能のみで、Muse Image自体(自分自身の写真を使った画像生成など)はWhatsAppやMeta AIアプリ上で引き続き提供されています。機能を再びどのような形で復活させるかについて、Metaは明言を避けています。

数日という異例の速さでの方針転換は、批判の実際の広がりよりも、大手事務所や労組といった組織的な圧力の存在がMetaの意思決定を強く動かしたことをうかがわせます。SNS上の個人の声だけでは撤回に至らなかった可能性も考えられ、今後の「声の上げ方」を占う事例とも言えそうです。

補足情報

Muse Imageは、OpenAIの「Sora」やxAIの「Grok」、ByteDanceの「Seedance」など、他社のAI画像・動画生成ツールが相次いで物議を醸してきた流れの延長線上にある事例だと指摘されています。生成AI業界では、機能を先行公開してから世論の反応を見て調整する「まず出してから直す」開発姿勢が常態化しており、今回のMetaもその典型例と言えるでしょう。

なお、Muse Imageと同時期には、コーディング支援AI「Muse Spark 1.1」も発表されており、Metaは画像・コーディングの両分野で自社AIモデル群「Muse」ブランドの展開を急いでいます。今後は動画生成AI(Muse Video)の投入も予告されており、今回の一件が今後のリリース戦略に慎重さをもたらすかが注目されます。

まとめ

公開からわずか3日というスピード撤回は、AI企業がいかに「同意」という基本的な倫理的配慮を後回しにしがちかを浮き彫りにしました。CAAやSAG-AFTRAという組織的な反発に加え、高齢者を狙った詐欺への悪用という具体的な実害まで報告された今回のケースは、生成AIの実装における「デフォルト設計」の重要性を改めて示しています。

Metaが機能をどのような形(オプトイン方式への転換など)で再投入するのか、そして他のAI企業がこの教訓をどこまで生かせるのかが、今後の焦点となりそうです。

出典:
Fox Business
Newsweek
TechCrunch

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