MIT開発、水中から飛び立つ鳥型ロボット

重さ250g、脚を使わず水面から空へ羽ばたく新型ドローン

2026年7月9日、米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームが、水中を泳いだ直後に脚を使わず空へ飛び立つことができる鳥型ロボットを開発したと発表しました。

パフィンやウミウなど、水中と空中の両方を移動する「潜水鳥」の仕組みを模した機体は、どのようにして性質の大きく異なる水と空気を行き来しているのでしょうか。

米科学誌Science、MIT News、NPRなど複数の報道をもとに、その技術と応用可能性を読み解きます。

水中から空へ – 「脚なし」離水に世界初成功

今回の成果は、7月9日発行のScience誌に掲載された論文で報告されました。

MIT機械工学科のラファエル・ズフレイ助教授らの研究チームは、重さわずか250グラムの羽ばたき翼型ロボットを開発し、水中を泳いだ状態から翼を羽ばたかせるだけで空中へ飛び立つことに成功しました。

多くの潜水鳥は水面から飛び立つ際に脚で水を蹴って助走をつけますが、今回のロボットは脚を一切使わず、翼の羽ばたきだけで浮上から飛行への切り替えを実現した点が特筆されます。

離水の瞬間には機体を70度という急な角度に傾け、羽ばたきの頻度を通常の毎秒5回程度から一気に毎秒10回まで引き上げることで、1秒に満たない時間で水面を離れ空中へと移行します。

この一連の動作は、搭載されたバッテリーと防水加工を施した電子部品によって、人の操作を介さず機体単独で行われます。

水面からの離陸は従来のドローン工学において最大の難関の一つとされてきました。水は空気よりもはるかに大きな抵抗を機体に及ぼすため、水中で得た速度を一瞬で空中での揚力に変換する必要があるためです。今回の成果は、その変換を脚のような補助機構なしで達成した点で、既存の水陸両用ドローンとは一線を画すといえるでしょう。

3種類の翼で導き出した「ちょうどいい」設計

研究チームは翼幅60センチ・80センチ・100センチの3種類の翼と、角度を調整できる尾翼を用意し、組み合わせを変えながら性能を比較する実験を重ねました。

その結果、最も総合的な性能を発揮したのは80センチ幅の中型翼で、水中・空中どちらの移動においても安定した推進力を得られることが分かりました。

飛行時の巡航速度は秒速約6メートル、水中での遊泳速度は秒速約1メートルに達し、いずれも毎秒5回前後の羽ばたき頻度で維持されます。1回の充電で、飛行はおよそ6キロメートル、水中移動は1.6キロメートル余りを連続して行えるとされています。

翼の表面には水をはじく疎水性(そすいせい)のナノ粒子コーティング(水滴を弾きやすくする微細な表面加工)が施されており、水中から浮上する際の水の抵抗や重みを最小限に抑える工夫がなされています。

翼の柔軟性についても検証が行われ、硬すぎず柔らかすぎない「中程度の柔軟性」を持つ翼が、水中・空中いずれの移動においても最も高い効率を発揮することが確認されました。

翼や尾翼を用途に応じて簡単に交換できる設計になっている点も見逃せません。目的の海域や任務内容に応じて機体をカスタマイズできるため、一つのプラットフォームを幅広い観測ニーズに転用できる柔軟性を備えていると考えられます。

なぜ鳥がお手本になったのか – パフィンに学ぶ「二刀流」の効率

研究チームが参考にしたのは、パフィンやウミウ、カワセミ、アビ、カモメなど、水中と空中の両方を移動する100種を超える潜水鳥の飛行・遊泳スタイルです。

水は空気のおよそ800倍の密度を持つとされ、同じ翼で性質の大きく異なる2つの媒体を移動することは、工学的には極めて難しい課題とされてきました。

論文の筆頭著者であるズフレイ氏は、「パフィンたちは、密度が大きく異なる空気と水の両方を移動するという、非常に難しい課題を解決している」と述べています。

興味深いことに、潜水鳥の翼が比較的小さいのは、従来考えられてきたような省エネルギーのためではなく、水中での機動性や獲物を追う俊敏性を高めるためである可能性が今回の研究で示唆されました。

これは、生物の身体的特徴を単なる「効率化の産物」として片づけるのではなく、行動生態と結びつけて再解釈する動きであり、ロボット工学だけでなく生物学の分野でも注目に値する成果だと考えられます。

期待される用途 – サンゴ礁監視や海洋データ収集の低コスト化

研究チームは、氷山や港湾施設の周辺、海洋哺乳類の生息域など、従来型の船舶では近づくことが危険だったり困難だったりする海域の観測に、この機体を活用できると見込んでいます。

具体的には、次のような分野での活用が想定されています。

  • サンゴ礁の健康状態のモニタリング
  • 有害な藻類の異常発生(赤潮など)の追跡
  • 沿岸の漁業資源の調査
  • 海岸侵食の監視

従来の海洋観測は大型の船舶を出すたびに高いコストがかかりましたが、この小型ロボットであれば必要なときに何度でも低コストで出動させることができ、海洋研究の頻度と範囲を大きく広げる可能性があります。

空を飛んで目的の海域まで移動し、着水して観測した後に再び飛び立って帰還するという一連の流れを、人手をほとんど介さずに完結できる点も大きな強みだといえるでしょう。

研究チームとこれまでの歩み

本研究は、MITで「AURAラボ」を率いるズフレイ氏を中心に、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)のダリオ・フロレアーノ教授らを含む複数の研究機関の共同チームによって進められました。

MITではこれまでにも、昆虫を模した小型飛行ロボットなど、生物の動きにヒントを得た「バイオインスパイアード(生物模倣型)」ロボットの研究が重ねられてきました。

今回の成果は、その延長線上にありながらも、水中と空中という性質の異なる2つの環境をシームレス(継ぎ目なく)に行き来する本格的な実証例として位置づけられます。

補足情報

「フラッピングウィング(羽ばたき翼)」型のロボットは、プロペラを用いる一般的なドローンとは異なり、鳥や昆虫のように翼を上下に動かして推進力を得る仕組みです。

プロペラ式に比べて静音性が高く、狭い水面や障害物の多い環境でも運用しやすいという利点があるとされています。

MITではこれまでにも、1円玉より軽い昆虫型の飛行ロボットなど、生物模倣ロボットの分野で複数の研究成果を発表してきました。

今回の研究成果は、国際学術誌Scienceに2026年7月9日付で掲載されています。

研究チームによれば、水中で泳ぐ速度と空を飛ぶ速度の両方を高い水準で両立させたロボットは、これまで世界的にも数少ない事例だといいます。今後は洋上での長期運用試験や、より過酷な波・風の条件下での耐久性検証が課題になるとみられます。

まとめ

MITの研究チームが発表した重さ250グラムの鳥型ロボットは、脚を使わずに水中から空へと飛び立つ、世界初となる技術的成果です。

3種類の翼を比較する実験を通じて80センチ幅の中型翼が水中・空中双方で最も高い性能を発揮することが確認され、パフィンなど潜水鳥の翼が小さい理由についても新たな知見が示されました。

サンゴ礁の監視や海洋データ収集など、従来は船舶に頼らざるを得なかった分野での実用化が期待されており、今後の追加実験や実用機への発展が注目されます。

出典:
MIT News
NPR
EurekAlert!
Tech Xplore

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