衛星170万機計画、夜空に「壊滅的」打撃

欧州南天天文台(ESO)の新研究が明かす、メガコンステレーション時代の夜空の未来

現在、地球の周回軌道上には約1万4000基の衛星が存在しますが、SpaceXをはじめとする企業各社は今後、合計170万基もの衛星を打ち上げる計画を進めています。欧州南天天文台(ESO)が英王立天文学会や国際天文学連合と共同でまとめた最新研究は、この「メガコンステレーション(多数の衛星を連携させて機能させる巨大衛星群)」計画が天文観測に「壊滅的」な影響を及ぼすと警告しています。Euronewsやphys.orgも大きく取り上げたこの研究の内容を詳しく見ていきましょう。

研究の衝撃 – 現在の1万4000基が170万基に

今回の研究をまとめたのは、ESOで30年以上のキャリアを持つ天文学者オリヴィエ・エノー氏です。エノー氏は「1万4000基から170万基になれば、本当に大変な問題を抱えることになる」と警告しています。

現在、軌道上にある稼働中の衛星は約1万4000基、休止中の衛星やデブリ(宇宙ごみ)を含めると3万2000基以上にのぼるとされます。人類初の人工衛星スプートニク1号の打ち上げから約70年でようやくこの規模に達したことを考えると、今後わずか数年で衛星数が100倍以上に膨れ上がるという計画がいかに急激な変化かが分かります。

各社が計画中の内訳は次のとおりです。

  • SpaceX:宇宙データセンター用に100万基を追加計画(2028年までに)
  • リフレクト・オービタル:夜間照明用の鏡衛星5万基
  • イー・スペース「シナモン」計画:数十万基規模
  • 中国のCTC-1・CTC-2:数十万基規模

これらを合計すると、新たに計画されている衛星数は170万基に達します。背景には、衛星インターネット事業の競争激化に加え、近年はAI(人工知能)向けのデータセンターを宇宙空間に配置しようという構想まで浮上しており、衛星の用途そのものが多様化していることも急増の一因だと考えられます。

夜空はどう変わるのか – 明るさと視野への具体的影響

既に運用されているSpaceXの衛星群だけでも、ESOの超大型望遠鏡(VLT)による観測データでは、夜間の特定の2時間において最大28%もの視野が失われるケースが確認されています。1枚の画像に何十本もの衛星の光跡が写り込んでしまうためです。

さらに深刻なのが、リフレクト・オービタル社が計画する5万基の「鏡衛星」です。これは太陽光を反射させて地上を照らす目的の衛星ですが、実現すれば夜空全体の明るさが最大4倍に増すと試算されています。反射光が当たる範囲では、満月の4倍もの明るさになる場面もあるといいます。個々の衛星も、金星なみの明るさで肉眼で見えるようになる見込みです。

光害の進んだ都市部では、こうした人工衛星こそが夜空で唯一目に見える「星」になってしまう、という皮肉な未来も指摘されています。天体観測はもともと山奥や離島など光害を避けた場所で行われてきましたが、衛星による明るさは地上のどこにいても逃れられないという点で、従来の光害対策とは根本的に性質が異なると言えるでしょう。

次世代望遠鏡「ヴェラ・ルービン天文台」への打撃

特に懸念されているのが、チリに建設された最新鋭の「ヴェラ・C・ルービン天文台」への影響です。同天文台は史上最大級のデジタルカメラを備え、宇宙全体を数日おきに撮影し続けることで、小惑星や超新星、正体不明の天体現象をいち早く捉える次世代施設として期待されてきました。

しかしESOの研究によれば、計画中の衛星群がすべて配備された場合、同天文台が撮影する画像のほとんどが使い物にならなくなる可能性があるといいます。

エノー氏は「太陽光を反射した衛星は、遠方の銀河よりもはるかに明るく写る。観測対象の手前を衛星が横切ると、画像に明るい筋が入り、その背後にあるものをすべて消し去ってしまう」と説明しています。

数十年がかりで計画・建設され、ようやく本格稼働を迎えようとしている大型観測施設が、わずか数年のうちに相次いで打ち上げられる商業衛星群によって性能を発揮できなくなる――という事態は、巨額の税金を投じてきた天文学コミュニティにとって皮肉な巡り合わせと言えるでしょう。

光害だけではない – 生態系とケスラー・シンドロームの懸念

今回の研究が指摘する問題は天文観測だけにとどまりません。人工的に明るくなった夜空は、渡り鳥や海洋生物など、月明かりや星明かりを頼りに行動する生き物の体内時計(概日リズム)を乱すおそれがあると懸念されています。人間にとっても、夜間の人工光は睡眠リズムに影響を与えることが知られており、無関係な問題とは言えません。

さらに軌道上の衛星数が急増すれば、衝突によって発生した破片がさらに別の衝突を誘発する「ケスラー・シンドローム(衛星同士の衝突が連鎖的に増え、軌道上がデブリで埋め尽くされてしまう現象)」のリスクも高まります。一度深刻化すれば、特定の軌道帯が数十年にわたって使用不能になる可能性もある不可逆的なリスクです。

天文学者たちが警鐘を鳴らすのは、単に「星が見えにくくなる」という審美的な問題ではなく、宇宙空間そのものの持続可能な利用が脅かされているためだと考えられます。

ESOの提言 – 上限10万基、明るさは肉眼で見えない水準に

これらの分析を踏まえ、ESOは各国の規制当局に対し、具体的な上限を設けるよう提言しています。その内容は次のとおりです。

  • 軌道上に存在してよい衛星の総数は最大10万基までとする
  • すべての衛星について、暗い場所からでも肉眼で見えない明るさ(見かけの等級7等より暗い水準)に抑える

現在、SpaceXの計画には約1500件、リフレクト・オービタルの計画には約1800件のパブリックコメントが米連邦通信委員会(FCC)に寄せられており、ESOも英王立天文学会や国際天文学連合と共同で意見書を提出しています。

これほど多くの科学機関が足並みをそろえて具体的な数値目標を掲げるのは異例のことであり、天文学界の危機感の強さがうかがえます。今後、FCCがどのような判断を下すかが、夜空の未来を左右する重要な分岐点になりそうです。

補足情報

「メガコンステレーション」とは、数千基から数百万基規模の人工衛星を連携させて運用し、地球全体をカバーする通信網や観測網を築く仕組みを指します。代表例がSpaceXの「スターリンク」で、既に衛星インターネットサービスとして世界中で利用が広がっています。

近年はAI向けのデータセンターを宇宙空間に配置する構想も浮上しており、今回の170万基計画にはそうした新しい用途の衛星も多く含まれています。天文学以外にも、暗闇を必要とする生態系への影響や、電波を使って宇宙を観測する「電波天文学」への干渉なども、各国の規制当局を交えて国際的な議論の対象になっています。今回のESOの研究は、こうした議論に具体的な数値の裏付けを与えた点で意義が大きいといえるでしょう。

まとめ

ESOの最新研究は、現在の1万4000基から170万基へと衛星数が爆発的に増える可能性を示し、天文観測や生態系、宇宙空間の持続可能性に及ぶ広範な影響を具体的な数字とともに明らかにしました。

ヴェラ・ルービン天文台のような次世代施設が本来の性能を発揮できるかどうかは、今後各国の規制当局がどのような基準を設けるかにかかっています。FCCの審査の行方や、ESOが提言する「10万基・肉眼で見えない明るさ」という基準が実際に採用されるかどうか、引き続き動向が注目されます。

出典:
European Southern Observatory (ESO)
Euronews
phys.org

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