生成AIブームの裏側 ― アマゾン排出量、7年で最大の伸びに
米アマゾンは2026年7月、最新のサステナビリティ・レポートで2025年の温室効果ガス排出量が前年比16%増の約8,100万トン(CO2換算)に達したと公表しました。
データセンター建設ラッシュが主因とみられ、米NPR系列のKUOWやInsurance Journal、Transport Topicsなど複数の米メディアが報じています。
2019年に「気候誓約」を掲げて以来、最大の増加幅となりました。
排出量16%増の内実
アマゾンが公表した数字によれば、2025年の総排出量は約8,100万トン(CO2換算)で、前年から16%増加しました。
これは同社が「気候誓約(クライメート・プレッジ)」を掲げた2019年と比べると、実に58%もの増加にあたります。
増加率だけを見れば、生成AIブームが本格化する前とは全く異なる伸び方をしていることが分かります。
中でも急増したのが、電力購入に伴う間接排出量(スコープ2排出量)で、前年比34%増となりました。
データセンターの電力消費に加え、配送車両の電動化や建物の電化も電力需要を押し上げた要因とされています。
皮肉なことに、脱炭素化を目指した電化そのものが、火力発電中心の電力網に依存する限り排出量を増やしてしまうという矛盾も浮かび上がります。
一方でアマゾンは、売上高あたりの排出量を示す「炭素原単位(カーボンインテンシティ)」は2019年比で38%減少したと強調しています。
同期間に売上高は156%増加しており、事業成長のペースに比べれば排出量の伸びは抑えられているという主張です。
配送個数あたりの排出量も前年比7%減となり、物流面では効率化が着実に進んでいることがうかがえます。
主因はデータセンター建設とAI電力需要
排出量増加の最大の要因とされるのが、生成AI向けのデータセンター建設です。
データセンターの新設には大量のコンクリートと鋼材が必要で、いずれも製造過程で多くのエネルギーを消費し、二酸化炭素を排出します。
アマゾンは2025年、他のどの企業よりも多くのデータセンター容量を新設したとされ、生成AIの学習・推論需要に対応するための建設ラッシュぶりがうかがえます。
同社の最高サステナビリティ責任者(CSO)を務めるカーラ・ハースト氏は、「気候誓約から7年、私たちは大きな変化を経験してきたが、AIほど大きな変化はなかった」と述べ、生成AIの急速な普及が想定を上回るペースでエネルギー・水・インフラへの需要を生み出していると説明しています。
アマゾン側は対策として、データセンターの電力効率を示す指標「PUE(電力使用効率、数値が1に近いほど効率的)」が世界平均で1.14となり、業界平均より9%優れていると説明しています。
また、冷却に使う水の効率は業界平均の7倍に達するとしています。効率化を進めながらも、AI需要の伸びのスピードが効率化のペースを上回っている、というのが実態に近いと言えるでしょう。
グーグル・マイクロソフト・メタも同様の課題
排出量の増加はアマゾンに限った話ではありません。同時期に発表された各社のデータによると、次のような増加が明らかになっています。
- グーグル:排出量が前年比18%増、自社施設からの直接排出(スコープ1)は20%増、電力使用量は37%増
- マイクロソフト:排出量が前年比23%増
- メタ:排出量が前年比64%増、大手4社の中で最も高い伸び率
グーグルは自社の報告書で「AIインフラの拡大スピードが、電力網の脱炭素化のスピードを上回っている」と認めています。
AI研究者のサーシャ・ルチオーニ氏も「データセンターは気候対策とは逆方向に進んでいる」と指摘しており、これはアマゾン一社にとどまらない、業界全体に共通する構造的な課題だといえるでしょう。
各社がしのぎを削るAI開発競争は、裏を返せば気候変動対策の足並みを乱すリスクをはらんでいます。
特にメタの64%増という数字は、AI投資の規模とタイミングによって排出量が短期間で大きく振れることを如実に示しています。
社内からも上がる異議の声
排出量の増加は、アマゾン社内でも波紋を広げています。
従業員団体「アマゾン従業員気候正義の会」のイライザ・パン氏は、「会員たちは、アマゾンが自主的に正しいことを行う能力への信頼を失っている」と述べました。
同団体のサラ・トレーシー氏も、「多くの技術者が求めているのは、AIをどうすればより責任ある形で構築できるかについての、本当の意味での対話だ」と訴えています。
気候変動対策を重視する立場と、AI開発を加速させたい経営判断との間で、社内でも意見の隔たりが生じつつあることがうかがえます。
従業員から公然と異議が出ること自体、企業イメージやリクルーティングにも影響しかねない問題として、経営陣にとって軽視できない課題になりつつあります。
明るい材料 ― 再生可能エネルギーと日本への広がり
もっとも、アマゾンの取り組みが停滞しているわけではありません。
同社は再生可能エネルギー事業を世界30カ国で712件展開し、発電容量は42ギガワット(米国の一般家庭約1,300万世帯分に相当)に達しています。3年連続で、電力消費量の100%を再生可能エネルギーで賄ったとしています。
配送面でも、電気配送バンを世界で5万2,700台以上導入し、2025年には24億個の荷物を電動車両で配送しました。使い捨てプラスチック袋の使用も北米で2億8,800万枚以上削減しています。
こうした排出量抑制の取り組みは日本とも無縁ではありません。
AWSは2027年までに日本国内で総額2兆2,600億円を投資する計画を明らかにしており、国内で新設するデータセンターには、従来品よりエンボディドカーボン(製造・建設段階で発生するCO2)を最大70%削減できる低炭素型コンクリートを採用すると発表しています。
今回の排出量増加問題は、日本国内のデータセンター建設にも波及する可能性がある論点だといえます。
補足情報
アマゾンの排出量報告は毎年7月ごろに公表されており、前年分(2024年実績)の報告では排出量が前年比6%増の6,825万トンとなり、電力由来の排出量が統計開始以来初めて増加したことが話題となりました。
今回の16%増はそれを大きく上回るペースで、AI関連投資の加速がより鮮明になっています。
なお、企業の排出量は自社工場や車両からの直接排出(スコープ1)、購入電力による間接排出(スコープ2)、原材料調達や製品使用など取引先を含めた排出(スコープ3)の3つに分類されます。
アマゾンの場合、スコープ3が全体の3分の2以上を占めるとされ、サプライヤー側の脱炭素化が今後の焦点になりそうです。
実際アマゾンは、上位サプライヤーの62%が独自の脱炭素化計画を持つに至ったとも報告しています。
まとめ
生成AIの急速な普及は、アマゾンをはじめとする米ビッグテック各社に、データセンター建設という形で大きな環境負荷をもたらしています。
効率化や再生可能エネルギー投資を進めても、AI需要の伸びが排出量の絶対量を押し上げる構図は当面続きそうです。
各社が2040年や2030年に掲げるネットゼロ目標を維持できるか、そして従業員や投資家からの声にどう応えるか、日本国内のデータセンター建設への影響も含め、来年以降の報告書に注目が集まります。
出典:
KUOW (NPR)
Insurance Journal
Transport Topics
Amazon (About Amazon)