アメリカの乳牛業界に新たな衝撃が走っています。
高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N1型)の新たな変異株が乳牛から検出され、専門家の間で警戒感が高まっています。
この事態は、単なる家畜の健康問題にとどまらず、人間社会にも大きな影響を及ぼす可能性があります。
今回は、この新たな脅威の実態と、私たちが知っておくべきことについて詳しく解説します。
新たな変異株の出現 – 2度目の種間伝播
2024年3月に米国の乳牛で初めて検出されたH5N1型鳥インフルエンザウイルスは、B3.13と呼ばれる変異株でした。
この発見から約1年後の2025年2月、ネバダ州の乳牛から新たな変異株D1.1が確認されました。
この事実は、野鳥から乳牛への種間伝播が少なくとも2回発生したことを示しています。
セントジュード小児研究病院のインフルエンザ専門家は、「鳥から牛への伝播は非常にまれな出来事だと思っていましたが、そうではないかもしれません」と述べ、この事態の深刻さを指摘しています。
感染拡大の実態 – 15州675の牛群に
米国農務省動植物検疫局(APHIS)の報告によると、2025年2月時点で15州にわたる675の牛群でH5N1型ウイルスの感染が確認されています。
しかし、これは氷山の一角に過ぎない可能性があります。
現在、州をまたいで牛を移動させる際には事前検査が義務付けられていますが、牛乳のバルクタンクでのウイルス検査は任意のプログラムにとどまっています。
このため、実際の感染規模はさらに大きい可能性があります。
人への感染リスク – 67人の感染者と1名の死亡例
H5N1型ウイルスの脅威は、家畜だけにとどまりません。
米国疾病対策予防センター(CDC)によると、2025年2月までに少なくとも67人がこのウイルスに感染しており、その多くが酪農や畜産業に従事する人々です。
さらに深刻なのは、2025年1月にルイジアナ州で野鳥や裏庭の鳥との接触後に重度の呼吸器症状を発症し死亡した症例が報告されたことです。
これは米国初の鳥インフルエンザによる死亡例となりました。
ウイルスの特性 – 熱に強く、感染力が高い
東京大学の研究グループによる調査では、このウイルスの熱に対する耐性が明らかになっています。
実験条件下で熱処理を行った牛乳中のウイルス量は30000分の1以下に減少しましたが、完全に不活化することはできませんでした。
また、ウイルスの感染経路についても新たな知見が得られています。
搾乳機の共有を通じて牛群内で感染が拡大している可能性や、複数の農場で働く人々、他の動物、さらには空気中の飛沫を介して群れ間で広がっている可能性が指摘されています。
今後の展望と対策
この新たな脅威に対し、専門家たちは更なる調査と対策の必要性を訴えています。
サスカチュワン大学のアンジェラ・ラスムッセン氏は、「なぜ検査を続けることが重要なのか、今回の事例でわかりました」と述べ、継続的な監視の重要性を強調しています。
また、アリゾナ大学の進化生物学者マイケル・ウォロビー氏は、この問題を国家安全保障や世界の安全、人々や動物の健康、そして米国のビジネスにとって重要な問題だと位置付けています。
鳥インフルエンザの脅威
H5N1型鳥インフルエンザウイルスは、特に鳥類に対して高い致死率を示します。
過去数年間で、このウイルスは家禽や海鳥の大量死を引き起こし、接触した多くの哺乳類にも致命的な感染を引き起こしてきました。
世界保健機関(WHO)の報告によると、2003年から2024年4月1日までの間に、世界23カ国で合計889件のH5N1感染例が報告され、463人が死亡しています。
これは約52%という高い致死率を示しています。
まとめ
米国で発生している乳牛への鳥インフルエンザ感染は、私たちに新たな警鐘を鳴らしています。
ウイルスの変異と種間伝播、そして人への感染リスクは、今後も注視していく必要があります。
この問題は、単に畜産業や公衆衛生の課題にとどまらず、私たち一人一人の生活にも大きな影響を及ぼす可能性があります。
今後の研究や対策の進展に注目し、必要な情報を得ながら、適切な予防措置を講じていくことが重要です。