アメリカのボーイ・スカウトが名称を「スカウティング・アメリカ」に変更

ボーイスカウト・オブ・アメリカ(BSA)は、114年の歴史の中で初めて組織名を変更することを発表しました。

2025年2月8日から「スカウティング・アメリカ」に名称を変更するというこの大きな変革は、同組織が直面してきた様々な課題に対する対応策の一つと言えるでしょう。

https://apnews.com/article/d3efeda8ffb74b79b367fce426780d6f

名称変更の背景

BSAは長年、男子スカウトのみを対象としてきましたが、2013年に同性愛者の参加を認め、2015年には成人指導者の参加も認めるなど、徐々に包摂性を高めてきました。

そして2018年にはカブスカウト、2019年にはボーイスカウトにも女子の参加を認めるなど、ジェンダーの壁を取り払ってきました。

この変化は一方で、ガールスカウツ・オブ・USAとの軋轢を生み出しました。ガールスカウツは、BSAの女子受け入れがその組織の募集活動を損なっているとして訴訟を起こしましたが、最終的に和解に至っています。

また、BSAは2020年に性的虐待の告発を受けて破産法の適用を申請し、24億ドルの和解金を支払うことになりました。

このような一連の出来事を経て、BSAは新たな一歩を踏み出すことにしたのです。

ボーイスカウトでの性的虐待事件の概要

米国のボーイスカウト連盟(BSA)では、過去数十年にわたり少年たちに対する性的虐待が繰り返されていました。

被害者の申し立てが約8万2000件寄せられ、賠償額は少なくとも24億5000万ドル(約3300億円)に上ると報じられています。

性的虐待の実態

被害者の一人であるジェームズ・クレッチマーさんは、11~12歳の時に性的虐待を受けました。BSAは女性スカウトの受け入れを始めたが、報告されている事例の多くは男性リーダーによる男性スカウトへの虐待です。

過去72年間で7,800人以上のリーダーが子供への性的虐待に関与していたことが明らかになっている。

BSAの対応

性的虐待の被害に遭った被害者たちが相次いで訴訟を起こしたことで、BSAは連邦破産法11条の適用を申請した。

これにより、被害者への賠償金支払いなどの債務整理を行うことができるようになった。

影響と課題

性的虐待の被害に遭った子供たちは深刻な心的外傷を負っており、長期的な支援が必要となっています。BSAのような大規模な青少年育成団体における性的虐待の問題は、組織の信頼を大きく損なう深刻な事態となります。

今後は、徹底した再発防止策の実施と、被害者への十分な補償と支援が求められている。

日本のボーイスカウト連盟

ボーイスカウト日本連盟は2021年に「セーフ・フロム・ハーム」を発表し、子供の安全と権利を最優先する姿勢を示しました。

各地の連盟では、リーダー研修の強化や、子供への聞き取り調査の実施などの取り組みを進めています。

この問題は子供の権利と安全を脅かす重大な事態であり、徹底した再発防止と被害者支援が求められています。今後も注視していく必要があります。

「スカウティング・アメリカ」への名称変更の意義

BSAのロジャー・クローン会長兼CEO は、この名称変更について「これからの100年間、アメリカのあらゆる青少年に我々の活動に参加してもらいたい」と述べています。

つまり、これまでの「ボーイ」から「スカウティング」への変更は、組織の包摂性を高め、より多くの青少年を受け入れようとする意図が込められているのです。

実際、2018年にはカブスカウトに女子が、2019年にはボーイスカウト(現在のスカウツBSA)にも女子が参加するようになり、2021年には約1,000人の女性がイーグルスカウトの称号を初めて受けました。

現在では17万6,000人以上の女子・女性が同組織の各プログラムに参加しています。

このように、BSAは長年の伝統的な男子中心主義から脱却し、ジェンダーを問わずあらゆる青少年を受け入れる組織へと変容を遂げつつあります。「スカウティング・アメリカ」への名称変更は、まさにその変容を象徴するものと言えるでしょう。

プログラムや活動内容への影響は限定的

一方で、組織名の変更によって、BSAのプログラムや活動内容に大きな変化はないことも強調されています。

カブスカウト、スカウツBSA、ベンチャリング、シー・スカウツ、エクスプローリングなどの各プログラムの名称は変更されず、活動内容も従来通りです。

ユニフォームにも「スカウティング・アメリカ」の文字が追加されるだけで、基本的な仕様は変わりません。

つまり、この名称変更は組織の包摂性を高めるための象徴的な措置であり、スカウティング活動そのものの本質は変わらないということです。

批判的な意見もあるが…

この名称変更に対しては、保守派を中心に「ポリコレへの屈服」だと批判する声も上がっています。

しかし、ダラス地域のイーグルスカウトであるロイス・アルバーさんは「女子が歓迎され包摂されていることが全国的に認められることで、スカウティングがより安全な場所になる」と述べており、名称変更には前向きな意義があると指摘しています。

また、ブランディング専門家のデビッド・アーカー氏は、「新しい物語を語る良い機会」だと評価しています。

時代の変化に合わせて組織の名称を変更することは、新しいイメージ作りにつながり、組織の活性化につながる可能性があるのです。

会員の減少

BSAは過去10年間で会員数が減少傾向にあり、2018年のピーク時の200万人から現在は100万人を割り込んでいます。

この名称変更は、組織の活性化と新規会員の獲得を目指す取り組みの一環だと考えられます。一方で、ガールスカウツとの軋轢は完全には解消されておらず、今後の動向を注視する必要があるでしょう。

まとめ

ボーイスカウト・オブ・アメリカの「スカウティング・アメリカ」への名称変更は、同組織が長年抱えてきた課題に対する一つの解決策であると言えます。

ジェンダーの壁を取り払い、あらゆる青少年を包摂しようとする姿勢は高く評価できます。一方で、伝統的な活動内容は維持されるため、組織の本質的な変化ではなく、むしろイメージ改善を目的とした象徴的な措置だと理解できるでしょう。

今後、この名称変更がどのように組織の活性化につながるのか、ガールスカウツとの関係がどう推移するのか、注目していく必要があります。

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