元Googleの著名研究者4人が創業、わずか1カ月で評価額500億ドル規模へ
米グーグルの著名なAI研究者・技術リーダー4人が設立した新興企業「Discovery Loop(ディスカバリー・ループ)」が、設立からわずか1カ月あまりで、評価額500億ドル(約7兆5000億円)規模を目指す資金調達について投資家と協議していることが分かりました。
米ビジネス・インサイダーが9月11日に報じ、ロイター通信も同日、この情報を関係者の話として伝えました。Discovery Loopは8月、10億ドルの資金調達を評価額100億ドル程度で検討していると報じられたばかりです。
今回報じられた500億ドルという評価額は、前回報道された100億ドルの約5倍です。ただし、500億ドルでの調達が決まったわけではなく、条件は今後変わる可能性があります。ロイターによれば、この評価額で実際に資金調達が成立する保証もありません。
科学研究そのものをAIによって自動化するという大胆な構想と、Googleを代表する研究者たちの顔ぶれが、投資家から大きな注目を集めています。
評価額は約1カ月で100億ドルから500億ドル規模へ
ビジネス・インサイダーは9月11日、Discovery Loopが新たな資金調達に向けて投資家と協議しており、評価額として約500億ドルを目指していると報じました。
Discovery Loopをめぐっては、8月13日にも、10億ドル規模の資金調達を評価額100億ドル程度で検討していると報じられていました。
つまり、8月に報じられた100億ドルから、9月には500億ドル規模を目指す状況となり、単純比較では約5倍の評価額です。
ただし、ここで注意が必要です。100億ドルの評価額での調達も、500億ドルでの調達も、報道時点では「協議中」の段階です。
今回の500億ドルという数字は、すでに成立した企業価値ではありません。ロイターも、取引条件は変わる可能性があり、この評価額での調達が実現する保証はないと報じています。また、Discovery Loopはロイターからのコメント要請に対して、直ちには回答していません。
Discovery Loopとは何か
Discovery Loopは2026年8月5日に設立が発表されたAIスタートアップです。
創業者は、ジェフ・ディーン氏、サンジェイ・ゲマワット氏、クォック・レー氏、オリオル・ビニャルス氏の4人。いずれもGoogleで長年AIやコンピューター科学の研究・開発を担ってきた人物です。
同社が目指しているのは、AIを使って科学や工学における「発見のループ」そのものを自動化することです。
通常の研究では、研究者が仮説を立て、実験を計画し、実験を実施し、結果を分析します。そして、その結果をもとに次の仮説を立てるというサイクルを繰り返します。
Discovery Loopは、この一連のサイクルをAIによって大規模に自動化し、同時に数千もの実験を進められるようにする構想を掲げています。
同社の公式サイトでは、まず機械学習研究の自動化に取り組み、その後、工学、医療、材料科学、クリーンエネルギーなどへ応用を広げる構想が示されています。
また、Discovery Loopは通常の株式会社ではなく、「パブリック・ベネフィット・コーポレーション(Public Benefit Corporation)」として設立されています。これは、株主利益だけでなく、社会的な目的の追求も企業として掲げることができる法人形態です。
初期投資にはAlphabetも参加
Discovery Loopの初期資金調達は、Radical VenturesとKhosla Venturesが共同で主導しました。
このほか、Kleiner Perkins、Lightspeed、Doerr Capitalなども参加。さらに、Googleの親会社Alphabetも投資家として名を連ねています。
Alphabetは単なる出資者というだけではありません。報道では、Discovery Loopの初年度のクラウド計算資源を提供するパートナーでもあるとされています。
なお、8月5日に発表された初回の資金調達について、具体的な調達額はDiscovery Loop側から公表されていません。
一方、8月に報じられた「10億ドルを評価額100億ドルで調達する」という話は、関係者を情報源とした報道です。今回の500億ドルという数字も同様に、現時点では交渉段階の評価額です。
4人の創業メンバーは何者なのか
創業者の中心となるのがジェフ・ディーン氏です。
ディーン氏は1999年にGoogleに入社し、約27年間にわたって同社の研究・技術開発を支えてきました。Googleの検索インフラなどに加え、AI研究でも重要な役割を果たした人物です。
2023年には、Google ResearchとGoogle DeepMindのChief Scientist(チーフ・サイエンティスト)に就任しました。したがって、「27年間チーフ・サイエンティストを務めた」という意味ではなく、「Googleに27年間在籍し、そのうち2023年以降にチーフ・サイエンティストを務めた」と表現するのが正確です。
サンジェイ・ゲマワット氏は、Googleの大規模分散システムを支えた著名なコンピューター科学者です。ジェフ・ディーン氏とともに、MapReduce、Google File System、Bigtableなど、Googleの大規模コンピューティング基盤に関わってきました。
クォック・レー氏はGoogle Brainの立ち上げに関わったAI研究者の一人で、深層学習や機械学習研究で知られています。
また、2020年に発表された「AutoML-Zero」の研究にも共同著者として名を連ねています。AutoML-Zeroは、人間があらかじめ機械学習アルゴリズムの構造を細かく設計するのではなく、基本的な数学演算を組み合わせながら、AIが機械学習アルゴリズムそのものを探索することを目指した研究です。
そして4人目がオリオル・ビニャルス氏です。Google DeepMindでAI研究を率いてきた研究者で、Geminiの開発にも深く関わってきました。
Discovery Loop自身も、この4人について、AI、分散システム、大規模コンピューティングなど複数の分野で長年にわたる研究・開発経験を持つチームだと説明しています。
なぜGoogleを離れて新会社を立ち上げたのか
Discovery Loopの背景にあるのは、AIによって「研究そのもの」を高速化するという発想です。
これまでの科学研究では、優秀な研究者が仮説を考え、実験を行い、その結果を分析して次の実験へ進むという、人間中心のプロセスが基本でした。
しかしAIが仮説の生成、実験計画、実験結果の分析、次の仮説の生成までを担えるようになれば、研究サイクルそのものを大幅に高速化できる可能性があります。
Discovery Loopは、この「発見のループ」を大量の計算資源によって並列化することを目指しています。
同社の説明では、将来的にはAIが科学・工学上の問題について実験を繰り返し、より速く、より高品質な解決策を見つけられる世界を目指しています。
これは、単にAIに研究者の仕事を手伝わせるという発想より一歩踏み込んだものです。
AIを「研究を支援する道具」ではなく、「研究プロセスそのものを動かすシステム」として位置づけようとしている点に、この会社の大きな特徴があります。
Google自身が出資する意味
興味深いのは、Googleから独立した4人の研究者が設立した会社に、Googleの親会社Alphabet自身が投資していることです。
Googleから優秀な研究者が独立する一方で、Alphabetは投資家・クラウドパートナーという立場でDiscovery Loopとの関係を維持しています。
これには、AI研究の最前線で生まれる新しい技術や人材との関係を維持するという意味合いも考えられます。
ただし、「Googleが将来的な技術還元を狙っている」といった具体的な意図については、現時点でGoogleが公式に説明しているわけではありません。そのため、そこは推測として扱う必要があります。
今回の事例は、巨大テクノロジー企業とAIスタートアップの関係が、単純な「独立か競争か」だけではなく、出資やクラウド提供を通じた協力関係にもなり得ることを示しています。
なぜ、まだ製品もない会社に500億ドルなのか
Discovery Loopが注目される最大の理由は、単なるAIチャットボットやAIエージェントを開発する会社ではないことです。
同社が目指すのは、AIによって科学研究そのものを自動化し、研究開発の速度を根本から引き上げることです。
もしこの構想が実現すれば、創薬、新素材、半導体、エネルギーなど、研究開発が重要な産業に大きな影響を与える可能性があります。
一方で、500億ドルという評価額は、あくまで今回報じられた資金調達交渉における目標水準です。
実際の調達がその評価額で成立したわけではなく、ましてやDiscovery Loopがすでに500億ドルの企業価値を実証したわけでもありません。
その意味では、今回のニュースは「AIによる科学研究の自動化に対して、投資家が非常に大きな将来価値を見込んでいる」というニュースとして見るのが適切でしょう。
まとめ
Discovery Loopは、Googleで長年AIやコンピューター科学の研究を担ってきたジェフ・ディーン氏、サンジェイ・ゲマワット氏、クォック・レー氏、オリオル・ビニャルス氏の4人が、2026年8月5日に立ち上げたAIスタートアップです。
同社は、AIによって科学研究の「仮説→実験→分析→次の仮説」という発見のループを自動化し、研究開発そのものを高速化することを目指しています。
8月には10億ドルの調達を評価額100億ドル程度で検討していると報じられました。そして9月11日には、今度は500億ドル程度の評価額を目指して新たな資金調達を協議していると報じられています。
単純比較では評価額は約5倍ですが、これは「5倍になった」という確定した企業価値ではなく、あくまで新たな資金調達で目指している評価額です。
Alphabetも初期投資家として参加し、クラウド計算資源も提供するとされています。
Googleを代表する研究者4人が独立し、AIによって「科学の進め方そのもの」を自動化しようとしている。そして、その構想に対して、わずか数週間で100億ドルから500億ドル規模へと評価額の目標が膨らんでいる。
今回のDiscovery Loopをめぐる動きは、AI競争が「より賢いモデルを作る競争」から、「AI自身に研究や発見をさせる競争」へと広がりつつあることを示す事例として、注目されます。