常習犯は2年で2倍、ミレニアル世代の4割弱が経験
米国で「万引き」の経験者が国民の3割に達したとする調査結果が話題になっています。金融サービス大手LendingTreeが2026年6月に実施した最新調査によれば、万引きの経験がある成人の割合は2024年の23%から30%へ拡大し、常習的に行うと答えた人も2年で倍増しました。CBSニュースやニューズウィークなど複数の米メディアが報じたデータをもとに、物価高が消費者心理に及ぼしている変化を読み解いていきます。
米国民の3割が万引き経験——世代別では若年層が突出
LendingTreeが成人2000人を対象に2026年6月2日から11日にかけて実施した調査によると、「万引きをしたことがある」と答えた人は全体の30%(29.6%)に達し、2024年の23%(22.9%)から大きく増加しました。さらに深刻なのは常習化の進行で、「定期的に万引きをしている」と回答した人は11.5%と、2年前の6.1%からほぼ倍増しています。世代別ではZ世代(18〜29歳)が39%、ミレニアル世代(30〜45歳)が38%と若年層で突出して高く、X世代は24%、ベビーブーマー世代は18%にとどまりました。性別では男性36%に対し女性23%です。特に注目すべきは18歳未満の子を持つ親の変化で、2024年の9.8%から2026年には19.7%へと倍以上に急増しており、子育て世帯における家計圧迫の深刻さが数字として表れています。若年層ほど比率が高いのは、収入基盤が不安定な世代がインフレの打撃をより直接的に受けていることの表れとも読み取れます。
動機は「困窮」だけではない——価値観の変化という考察
万引きをした人の9割が「物価高など経済的な圧力が影響した」と回答した一方、具体的な理由の内訳を2年前と比較すると興味深い変化が見えます。「生活費を切り詰めるため」を理由に挙げた人の割合は33.9%から19.1%へ、「生活を成り立たせるため」は29.5%から17.2%へ、むしろ低下しているのです。純粋な困窮だけでは説明のつかないこの変化について、経済アナリストのケビン・トンプソン氏は「資本主義への反発という、より広範なイデオロギー的要因が背景にある」と分析しています。つまり物価高は依然として主因でありながら、企業への不信感や「高すぎる価格は不当だ」という規範意識の変化も、万引きへの心理的なハードルを下げている可能性があるということです。経済的な必要性から始まった行動が、次第に一種の抗議行動や社会規範への異議申し立てへと性格を変えつつある——そうした構図が浮かび上がります。
標的は「セルフレジ」——2年で窃盗率がほぼ2倍に
特に急増が目立つのがセルフレジ(客が自分でバーコードを読み取り会計する無人化された精算機)での万引きです。LendingTreeが2025年10月に実施した別の調査(対象2050人)では、セルフレジ利用者の27%が「意図的に商品をスキャンせず持ち帰ったことがある」と回答し、2023年の15%からほぼ2倍に急増しました。理由として「生活必需品が買えないため」が47%、「関税による値上げのため」が46%、「価格が不当に高いと感じるため」が39%と、いずれも経済的な要因が上位を占めます。消費者の55%はセルフレジを「速くて便利」と好意的に評価する一方、利用者の69%が「セルフレジは万引きしやすい」と認識しており、特にベビーブーマー世代(77%)やX世代(70%)でその傾向が顕著でした。人の目という監視機能が失われることが、心理的な抵抗感を下げていると考えられます。効率化のために省人化を進めた結果、皮肉にも万引きのハードルを自ら下げてしまったとも言えるでしょう。
狙われやすい店舗と商品——大手チェーンに集中
「万引きしやすい」と認識されている店舗としてはウォルマートが47%で突出し、ディスカウントチェーンのファミリーダラーが21%、Amazonフレッシュが14%、クローガーが11%、コストコが10%と続きます。
- ウォルマート:47%
- ファミリーダラー:21%
- Amazonフレッシュ:14%
- クローガー:11%
- コストコ:10%
盗まれる商品は食品・飲料が30%で最多、衣料品・アクセサリー類が25%、衛生用品が20%と、いずれも生活必需品が上位を占めました。大型チェーンほど客足が多く店員の目が届きにくいうえ、セルフレジの導入率も高いことが、標的として選ばれやすい要因と考えられます。人員を絞った省人化店舗ほど窃盗リスクが高まるという皮肉な構図が、ここでも裏付けられた形です。
捕まれば代償は大きい——それでも増え続ける背景
LendingTreeのチーフ消費者金融アナリスト、マット・シュルツ氏は「万引きが発覚すれば、罰金や弁護士費用だけでなく、就職や住居探しに影響するような長期的な不利益を負うリスクがある」と警鐘を鳴らしています。それでもリスクを承知の上で万引きに走る人が増えているという事実は、家計の余裕がそれだけ乏しくなっていることの裏返しとも言えるでしょう。今回の調査結果は、物価高が消費者の財布だけでなく、規範意識や店舗との信頼関係にまで影響を及ぼしていることを示しています。小売各社にとっても、防犯コストの増加と顧客体験の両立という難しい舵取りを迫られる局面に入ったと言えそうです。
補足:業界全体の損失は9兆円規模、万引きは「大人」の問題に
小売業界のロス(万引き・従業員による窃盗・在庫誤差などを含む損失の総称)を分析するAppriss Retailの2026年版報告書によれば、米国小売業界が2025年に被った棚卸し差異(帳簿上の在庫数量と実際の数量との差)による損失額は900億ドル(約9兆円)に上るとされ、返品の悪用や不正まで含めた総損失は7960億ドルに達します。また今回のLendingTree調査では、万引き経験者の60%が16歳を過ぎてから初めて万引きをしたと回答しており、万引きが必ずしも「未成年の非行」ではなく、成人になってから経済的圧力をきっかけに始まるケースが多いことも示唆されています。
まとめ:物価高が変える消費者行動、今後の焦点はセルフレジ対策
LendingTreeの調査は、米国で万引きの経験者が3割に達し、常習化と若年層への広がりが進んでいることを浮き彫りにしました。背景には物価高だけでなく、企業への不信感という価値観の変化もあると分析されています。特にセルフレジでの窃盗が2年で倍増している点は、小売各社が省人化と防犯対策の両立をどう図るかという新たな経営課題を突きつけています。今後、各チェーンがセルフレジの運用方針をどう見直すか注目されます。
出典:
CBS News
Newsweek
LendingTree(万引き調査)
LendingTree(セルフレジ窃盗調査)
Appriss Retail 2026 Total Retail Loss Benchmark Report