AI冷却新技術に1億ドル、水消費95%減へ

カナダ発スタートアップ、AIデータセンターの「水危機」に挑む

AIブームの陰で急速に深刻化しているのが、データセンターが飲み込む大量の電力と水の問題です。

そんな中、カナダ・バンクーバー発のスタートアップ「Wafr Technologies」が、独自の冷却技術で水消費量を最大95%削減できると発表し、1億ドル(約150億円)の資金調達に成功しました。

Yahoo Finance Canada、DataCenterDynamics、Grit Daily、BCTechnologyなど複数の北米メディアが報じています。

https://www.wafrai.com

熱と水を大量消費するAIデータセンター

生成AIの学習・稼働を支えるデータセンターは、大量のGPU(画像処理半導体、AI計算にも使われる)が発する熱を冷やすために膨大な水と電力を必要とします。

国連関連の報告によれば、世界のデータセンターは昨年だけで448テラワット時の電力を消費しており、これは世界の国別電力消費量で見ても上位10カ国に匹敵する規模だとされています。

水消費量も看過できない水準です。米国内にある出力100メガワット級のAIデータセンター1施設だけで、1日あたり約200万リットルの水を消費するとされ、これは一般家庭6500世帯分の使用量に匹敵します。国連の試算では、2030年までにAI関連の水消費量は世界で13億人分の需要に相当する規模まで膨らむ可能性があるといいます。

背景には、AIモデルの巨大化に伴う演算量の増加があります。データセンター側も冷却効率の改善を進めてきましたが、需要の伸びに追いついていないのが実情です。今回のWafrの技術は、こうした構造的な課題に対する数少ない解決策の一つとして注目されています。

水消費を95%削減する「熱電池」冷却システム

Wafrが開発したのは、電力が安い時間帯に冷却能力を蓄え、需要が集中するピーク時にそれを放出する「サーマルバッテリー(熱電池)」と呼ばれる独自技術です。蒸発による水の消費を伴わない受動的な冷却方式を採用しており、同社は在来の蒸発冷却方式と比べて水消費量を最大95%、冷却にかかる電力消費を最大80%削減できると説明しています。

一般的なデータセンターでは、冷却だけで全体の電力使用量の30〜45%を占め、水の使用量も1メガワットあたり年間最大1000万リットルに達するとされます。Wafrはこの水と電力の両方を大幅に圧縮できる点を最大の強みとしており、すでにインドとドバイで実証実験を行い、技術的な有効性を確認済みだといいます。

共同創業者のダレル・コプケ氏は「この巨大な市場には電力と水という大きなボトルネックがある。我々の技術は水の必要性をほぼゼロにし、蒸発冷却による水消費を止める」と述べています。単なる省エネ技術ではなく、データセンター拡大そのものを制約してきた資源制約を取り払う技術という位置づけです。

1億ドル調達の全容と創業の背景

Wafr Technologiesは2025年に設立された、まだ1年に満たない若い企業です。共同創業者はCEOのビクラム・シン氏と、カナダのスタートアップ支援機関で要職を務めるダレル・コプケ氏。今回、非公開の投資家から1億ドルを調達したほか、クリーンテック支援団体「Foresight Canada」からも支援を受けています。同社は2025年の「Foresight 50 Showcase」でも注目企業として紹介された実績があります。

今回の調達は、最終的に3億ドル規模を目指す資金調達計画の第一段階と位置付けられています。設立からわずか1年での大型調達は、AIインフラの環境負荷という課題が投資家からも強い関心を集めていることの表れといえるでしょう。

事業戦略 – 自社運営とライセンス供給の両輪

Wafrのビジネスモデルは二本立てです。自らデータセンターを運営する計画と、冷却システムそのものを他の事業者に販売する計画を並行して進めています。すでに国際的なパートナー企業と複数の意向表明書(LOI)を締結済みで、商業化の段階に入りつつあると同社は説明しています。

今回調達した資金は、主に次のような用途に充てられる予定です。

  • カナダ国内にAI研究ラボを新設すること
  • 新たなデータセンター施設を立ち上げること
  • カナダ各地で技術者を数十人規模で新規採用すること

特に照準を合わせているのが、データセンター数5300カ所を抱える米国と、同400カ所のドイツです。コプケ氏は米国について「最もサステナブルとは言えないAI市場」と表現しており、規模が大きいだけに資源浪費の余地も大きいと見ています。CEOのシン氏も「AIは最大級の技術的進歩の一つだが、将来世代に環境コストを押し付けたくはない」とコメントしており、経済成長と環境配慮を両立させる姿勢を強調しています。

補足情報

「サーマルバッテリー」とは、相変化材料などを用いて熱(または冷却能力)を一時的に蓄え、必要な時に放出する仕組みの総称で、電力網の需要が低い時間帯に「冷熱」を貯めておく発想は蓄電池の冷却版とも言えます。AIインフラを巡っては水や電力だけでなく、機器の廃棄も課題視されており、国連関連の試算では2030年までにAI関連設備から生じる電子廃棄物が年間250万トンに達する可能性があるとも指摘されています。なお共同創業者のコプケ氏は、カナダのスタートアップ育成機関「Creative Destruction Lab」のバンクーバー事業責任者も務めており、地元スタートアップ業界とのつながりの深さもうかがえます。

まとめ

Wafr Technologiesは、AIデータセンターが抱える水と電力という2大制約に対し、「サーマルバッテリー」という独自技術で切り込み、設立1年足らずで1億ドルの調達にこぎ着けました。水消費95%減、冷却電力80%減という数字が実際の商用データセンターでどこまで再現されるかは今後の検証課題ですが、AIの急拡大と環境負荷のバランスを取る動きとして注目に値します。残り2億ドルの追加調達や米独での実運用が実現するか、今後の展開が注目されます。

出典:
Yahoo Finance Canada
DataCenterDynamics
Grit Daily
BCTechnology

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