キャットニップ、蚊よけでDEET同等効果

ウガンダ農村での実証実験、天然ローションが標準的な虫除け剤に匹敵

マラリアを媒介する蚊への対策として、輸入品の化学虫除け剤は高価すぎて手が届かない――そんな課題を抱えるアフリカ農村部で、身近な植物「キャットニップ」から作られたローションが解決の糸口になるかもしれません。

英カーディフ大学とウガンダのマケレレ大学の研究チームが実施した野外実験で、キャットニップ由来のローションが市販の虫除け成分「DEET(ディート)」と同等の効果を示したことがわかりました。

Phys.orgおよび学術誌Scientific Reportsに掲載された論文をもとに、この研究の詳細と意義を解説します。

研究の舞台 – マラリア常在地での野外実験

研究の舞台となったのは、ウガンダ東部ブダカ県のムギティ地区とカモンコリ地区です。いずれもマラリアを媒介するハマダラカ(Anopheles gambiae)が生息する、マラリア常在地域です。

研究チームは2025年5月から6月にかけて、「ヒューマン・ランディング・キャッチ法(人の肌に着地した蚊を吸引器で捕獲し、実際の忌避効果を測定する野外実験の標準手法)」と呼ばれる手法を用いました。

参加者は夕方18時から22時までの間、下肢を露出させた状態で各種の虫除け剤を塗布し、蚊がどれだけ着地するかを記録するという、実際の生活環境に近い形で効果を検証しています。

参加者は事前にマラリア検査を受け、実験期間中も毎日再検査を行うなど、安全面にも配慮された設計となっていました。こうした実地での厳密な検証は、実験室内のデータだけでは見えてこない「現実の効果」を示す点で重要な意味を持ちます。

キャットニップとは?

キャットニップ(学名Nepeta cataria、和名は「イヌハッカ」)はシソ科の植物で、猫が匂いを嗅ぐと恍惚状態になることで広く知られています。今回注目された成分ネペタラクトンは、もともと植物自身が虫から身を守るために作り出している防御物質だと考えられています。

DEETは1944年に米国農務省が開発した虫除け成分で、80年以上にわたり世界中で使用されてきました。世界保健機関(WHO)によれば、マラリアは今なお世界で年間約2億人以上が感染し、アフリカだけで数十万人が命を落とす深刻な感染症です。安価で効果的な予防手段の普及は、この数字を左右する重要な要素の一つです。

驚きの結果 – 濃度6%でDEETと肩を並べる

実験では、キャットニップの精油に含まれる有効成分「ネペタラクトン」を2%および6%の濃度で配合したローションと、市販の15%DEET製品、さらに何も効果を持たない偽薬(プラセボ)が比較されました。

2回の試験で得られた結果は以下の通りです。

  • 1回目の試験(ムギティ地区):6%キャットニップで79%の忌避効果、15%DEETも同じく79%
  • 2回目の試験(カモンコリ地区):6%キャットニップで95%の忌避効果、15%DEETも同じく95%
  • 2%キャットニップでも68〜91%と、6%にはやや劣るものの高い効果を確認
  • プラセボは統計的に有意な忌避効果を示さず、実験の信頼性を裏付け

つまり、天然由来の成分であっても、適切な濃度であれば化学合成された標準品とほぼ同等の実用レベルに達することが、2度の独立した野外試験で再現的に示されたことになります。

2001年に米国で報告された研究でもネペタラクトンの高い忌避効果は指摘されていましたが、今回はアフリカの実際の生活環境下で、しかも安価に生産できる形で効果が確認された点が新しいといえるでしょう。

なぜ重要なのか – DEETが「高すぎる」現実

研究チームを率いたカーディフ大学のサイモン・スコフィールド博士は、「DEETはウガンダの農村部で自給自足の生活を送る人々にとって、価格帯として手の届かないものだ」と指摘しています。

実際、輸入品のDEETは100gあたり5〜50米ドルと幅があるものの、現地の所得水準からすれば決して安くありません。一方、今回のローション利用者を対象にした調査(119人)では、30gあたり0.08〜2.70米ドル程度であれば購入したいという回答が得られています。

キャットニップは現地でも栽培可能な植物であり、精油の抽出工程も比較的簡単です。これにより、輸入に頼らず地域内で生産から販売までを完結させる仕組みが構築できる点も見逃せません。

今回開発されたローションには「DSKローション」という名前が付けられました。これは実験に協力した現地コミュニティのリーダー、ダイソン・スティーブン・カレボ氏にちなんだものです。単なる技術開発にとどまらず、地域住民が主体となって生産・販売に関わる「コミュニティ主導型」のモデルを志向している点も、この研究の特徴といえます。

今後の展望 – アフリカ全域、そして他の害虫へ

この研究成果は、イタリア・フィレンツェで開催された欧州実験生物学会(Society for Experimental Biology)の学会で発表され、ウガンダの民間団体CEMPOP(Community Enterprise Model for Plant Oil Production)が生産体制の構築を主導しています。

研究チームは今後、生産規模の拡大と低価格での販売モデルの確立を目指すとしており、将来的にはウガンダ国内にとどまらず、アフリカ各地への展開も視野に入れているとしています。

さらに興味深いのは、蚊だけでなくブヨやマダニなど他の吸血性害虫への忌避効果も期待されている点です。マラリアはもちろん、デング熱やダニ媒介性の感染症対策としても応用できる可能性があり、公衆衛生への波及効果は小さくないと考えられます。

安価な天然素材による感染症対策は、資金力に限りがある地域ほど恩恵が大きくなります。今回のような「現地で作れる」ソリューションは、今後の国際保健分野における一つのモデルケースとなる可能性があります。

補足

DEETは1944年に米国農務省が開発した虫除け成分で、80年以上にわたり世界中で使用されてきました。世界保健機関(WHO)によれば、マラリアは今なお世界で年間約2億人以上が感染し、アフリカだけで数十万人が命を落とす深刻な感染症です。安価で効果的な予防手段の普及は、この数字を左右する重要な要素の一つです。

まとめ

ウガンダでの野外実験により、身近な植物キャットニップ由来のローションが、化学合成品のDEETに匹敵する蚊よけ効果を持つことが2度にわたり確認されました。

価格面でのハードルを解消しつつ、地域住民が生産に関わる仕組みまで組み込んだ点は、単なる科学的発見にとどまらない実用性の高さを示しています。

今後は量産体制の確立とアフリカ各地への展開、さらにはダニやブヨなど他の害虫への応用が進むかが注目されます。安価な天然素材が感染症対策のあり方を変える一例として、引き続き追跡する価値のあるテーマといえるでしょう。

出典:
Phys.org
Scientific Reports (Nature)
PMC (National Library of Medicine)

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