GRCop-42とは?NASA製ロケット合金、AIが1億通りから40回で発見

米ワシントン州立大学、AIで3Dプリント条件を効率的に特定

米航空宇宙局(NASA)が開発した特殊なロケット合金「GRCop-42」の3Dプリント条件を、人工知能(AI)がわずか40回の実験で突き止めたとする研究成果が発表されました。

通常であれば1億通り以上もの組み合わせを試す必要があった作業を、AIが効率的に絞り込んだことで、印刷に必要な消費電力も大幅に下げることに成功しました。

米ワシントン州立大学(WSU)の研究チームによる成果で、同大学のニュースリリースや米科学ニュースサイトのサイエンスデイリー、フィズ・オルグ(Phys.org)が詳細を報じています。

GRCop-42とは何か——NASAが開発した次世代ロケット合金

GRCop-42は、銅・クロム・ニオブという3種類の金属を組み合わせた合金です。

高い熱伝導性を持ちながら、極めて高い温度下でも強度を保てるという特性を持っています。

この特性から、液体燃料ロケットエンジンの燃焼室など、過酷な高温環境で使われる部品の材料として期待されてきました。

NASAは、次世代ロケットエンジンの軽量化と耐久性向上を両立させる切り札として、この合金を開発しました。

しかし優れた特性を持つ一方で、3Dプリント(材料を層状に積み重ねて立体物を造形する製造技術)による加工が極めて難しいという弱点を抱えていました。

研究を主導したワシントン州立大学のジャナ・ドッパ教授は「市販のプリンターの9割はこの合金を印刷できない」と説明しています。

印刷には通常、強力なレーザーによる高出力が必要とされ、対応できる設備を持つ研究機関や企業はごく一部に限られていました。

つまりGRCop-42は、性能と引き換えに「作れる場所を選ぶ」材料だったといえます。

航空宇宙分野では、こうした高性能材料の加工難易度が、開発コストや納期の長さに直結してきました。

GRCop-42の量産化が進めば、ロケットエンジンの推力向上と製造コスト削減を同時に狙える可能性があります。

1億通り以上の組み合わせ——なぜ人力での探索は不可能だったのか

3Dプリントの成否は、レーザー出力や走査速度、積層のパターンなど、多数のパラメータの組み合わせによって決まります。

GRCop-42の場合、理論上の組み合わせは1億通りを超えるとされています。

しかも1回の印刷試験には数百ドルの費用がかかり、印刷後の品質分析にも数日を要します。

すべての組み合わせを人力で試そうとすれば、時間的にも金銭的にも現実的ではありませんでした。

研究チームは、過去に失敗した37件の印刷データを出発点として、AIによる探索を開始しました。

実験の結果は「成功」か「失敗」かの二値でしか判定されず、途中経過の情報が乏しいことも、AIにとって難しい課題だったといいます。

ドッパ氏は「試すたびに得られるのは、成功か失敗かという二値の信号だけだった」と、この探索が非常に難しい課題だったと振り返っています。

一般的な機械学習では、正解に近いか遠いかという連続的な手がかりを使って学習効率を高めますが、今回はその手がかりがほとんどない状態からの出発でした。

AIが40回の実験で6つの成功条件を発見した仕組み

研究チームが用いたのは、少ない試行回数で最適な条件を絞り込む機械学習の手法です。

この手法は、次のような手順を繰り返しながら探索範囲を絞り込んでいきます。

  • 未検証の設定について、成功する確率をAIが予測する
  • 不確実性の高い領域を探る設定と、成功が見込まれる設定をバランスよく選ぶ
  • 少数のバッチだけを実際に印刷し、結果を次の予測に反映させる

研究チームはこの手法を3カ月間、合計40回の実験に適用しました。

その結果、異なるレーザー出力の条件下で成功する6通りの印刷設定を特定することに成功しました。

1億通り以上の候補から、わずか40回の実験で答えにたどり着いた計算になり、単純計算では候補全体のわずか0.00004%程度を試しただけで正解にたどり着いたことになります。

少ない手がかりから効率よく学習を進めるこの手法は、材料開発以外の分野でも応用が進んでおり、今回の成果はその実用性を裏付ける事例のひとつといえます。

従来のような網羅的な力任せの探索とは対照的に、有望な範囲を優先的に絞り込んでいく発想が、40回という少ない実験回数での成功につながったといえます。

500ワットでの印刷成功——コストと環境負荷を大幅に削減

発見された6条件のうち特に注目されるのが、レーザー出力わずか500ワットでの印刷に成功した設定です。

これは、GRCop-42の印刷においてこれまでで最も低い出力での成功例だといいます。

出力を抑えられれば、消費エネルギーだけでなく、機器の消耗や印刷後の後処理コストも抑制できます。

高価で特殊な高出力設備を持たない大学や中小企業でも、この合金を扱える可能性が広がったことになります。

ドッパ氏は今回の成果について「この合金の印刷を、いわば民主化することができた」と述べています。

従来は一部の大企業や政府機関に限られていた高性能合金の活用が、より幅広い研究者や企業に開かれる可能性を示した形です。

宇宙開発は巨額の設備投資が参入障壁となってきた分野だけに、低コスト化は新規参入を後押しする材料になり得ます。

研究の意義と今後の展望——他分野への応用にも期待

この研究成果は、AI分野の国際会議AAAI(人工知能学会)の年次大会で「革新的な実用化アプリケーション賞」を受賞しました。

研究チームは、今回のAI探索の枠組みが他の金属合金や積層造形システムにも応用できると考えています。

実験コストが高く、成功例が非常にまれな科学研究全般においても、同様の手法が有効である可能性があるといいます。

新薬の開発や新素材の探索など、試行回数に制約がある研究分野では、今回のような手法へのニーズが今後さらに高まっていくとみられます。

宇宙開発分野では、より安価で入手しやすい設備を用いた部品製造が進む可能性があり、産業構造そのものに影響を与えることも考えられます。

特に自国で高出力設備を持たない国や新興の宇宙企業にとっては、参入の選択肢が広がる契機になるかもしれません。

背景情報——3Dプリントとロケット開発の関係

今回使われた3Dプリント方式は「指向性エネルギー堆積(DED)」と呼ばれる手法で、金属粉末やワイヤーにレーザーを照射しながら層を積み重ねていく技術です。

NASAはGRCop-42のほか、複数の高性能合金を独自に開発し、商業宇宙企業への技術供与を進めてきました。

近年は米スペースXやブルーオリジンなど民間企業もロケットエンジン部品の3Dプリント化を積極的に進めており、製造コストの削減と開発期間の短縮を競っています。

従来、金属3Dプリントの条件出しは熟練技術者の経験と勘に頼る部分が大きく、暗黙知として企業や研究室に蓄積されてきました。

今回のような手法が広がれば、そうした経験知をデータとアルゴリズムに置き換える動きが加速する可能性があります。

まとめ——AIが切り開く材料開発の新手法

今回の研究は、AIを使うことで、莫大な組み合わせの中から効率的に最適解を見つけ出せることを具体的に示した事例といえます。

GRCop-42の低出力印刷が実用化されれば、宇宙開発の裾野が広がることが期待されます。

今後は他の合金や製造プロセスへの応用が進むか、また実際の商業ロケットエンジンへの採用が進むかが注目されます。

実験回数やコストの制約に悩む他分野の研究者にとっても、今回の手法は参考になる先行事例として注目していく価値がありそうです。

出典:
Washington State University Insider
ScienceDaily
Phys.org

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