ドードーの嗅覚は鋭かった?世界に2つの頭骨CT解析で「愚鳥」説を覆す新研究

世界に2つしかない頭骨のCT解析で「愚かな鳥」神話に新事実

絶滅した鳥「ドードー」といえば、人を恐れず飛べずに滅んだ「愚かな鳥」というイメージが定着しています。しかし科学誌Zoological Journal of the Linnean Societyに2026年8月5日付で掲載された新研究によると、世界に2体しか現存しない完全な頭骨をCTスキャンで解析した結果、ドードーは嗅覚に優れ薄暗い時間帯に活動していた可能性が高く、認知能力も体格相応で「愚か」だった証拠はないことが判明しました。Sci.News、phys.org、EurekAlert!などが報じています。

世界に2体のみ現存する頭骨をCTで非破壊解析

ドードー(Raphus cucullatus)はインド洋の島国モーリシャス島に生息していた飛べない鳥で、17世紀後半に絶滅しました。現存する完全な頭骨は世界にわずか2体のみとされ、1体はデンマーク自然史博物館(コペンハーゲン)に、もう1体は英オックスフォード大学自然史博物館に保管されています。今回、カナダ・レスブリッジ大学の博士課程学生サラ・シトロン氏とアンドリュー・イワニウク博士らの研究チームは、この貴重な標本を傷つけない高解像度CTスキャンで撮影し、脳が収まっていた空洞を3次元デジタル復元する「エンドキャスト」という手法で分析しました。研究にはフリンダース大学のヴェラ・ヴァイスベッカー教授や、デンマーク自然史博物館の鳥類学芸員ピーター・アンドリュー・ホスナー博士、クリスティ・アンナ・ヒプスリー博士も参加しています。比較対象として、ドードーに近縁な現生のハト・キジバト類36種のデータも用いられました。滅びた種の脳の姿を、生きたまま調べることは不可能です。それだけに、限られた標本を壊さずに内部構造を読み解くCT技術の進歩が、100年以上前から「愚鳥」のレッテルを貼られてきたドードー像を塗り替える鍵になったといえます。今回の解析対象には、ドードーの唯一の近縁種で同じくモーリシャス近海のロドリゲス島に生息し17世紀末に絶滅した「ロドリゲスドードー(ソリテア)」の頭骨も含まれており、2種を比較することで孤島の飛べない鳥に共通する感覚の進化パターンを探る狙いもありました。

視覚は「フクロウ型」——薄暗い時間帯に活動していた可能性

まず注目されたのが視覚系です。ドードーの目自体は近縁種よりやや大きかったものの、視覚情報を処理する脳の部位「視葉(しよう、光の刺激を処理する脳の領域)」は、近縁のニコバルバトと比べて3倍以上小さいことが判明しました。目は大きいのに視覚処理能力は低いというこの組み合わせは、フクロウなど夜行性の鳥に似たパターンで、研究チームはドードーが日中だけでなく薄明・薄暮や夜間にも活動していた可能性を指摘しています。天敵がいない孤島で進化したドードーにとって、昼夜を問わず食料を探せる柔軟な生活リズムは、限られた資源を効率的に利用するうえで有利に働いたと考えられます。従来「鈍い鳥」という先入観で語られがちだったドードーですが、実際には環境に適応した独自の感覚戦略を持っていた可能性が浮かび上がった形です。一般に鳥類は昼行性の種ほど視葉が発達し、夜行性・薄明薄暮性の種ほど嗅覚や聴覚に頼る傾向が知られており、ドードーの脳構造はまさに後者のパターンに合致します。捕食者を警戒する必要がなかった環境では、昼間の鋭い視力よりも、暗い林床で食料を探す能力の方が生存上有利だった可能性があり、この点は孤立した島嶼環境で進化した他の絶滅種にも共通する示唆を与えるものです。

嗅覚と触覚は逆に発達——大きなくちばしがセンサーに

視覚とは対照的に、嗅覚を処理する「嗅球(きゅうきゅう、匂いの情報を処理する脳の領域)」は他のハト類より拡大していました。さらに、くちばし周辺の感覚を脳に伝える「三叉神経(さんさしんけい)」の通り道も広がっており、大きな上くちばしが単なる採食器官ではなく、触覚センサーとしても機能していたことがうかがえます。研究チームはこれを、視覚に頼れない薄暗い環境で、匂いと触覚を頼りに地面に落ちた果実などの食料を探索していた証拠とみています。目に見えない感覚を化石や絶滅種で復元するのは極めて難しい作業ですが、CTによる脳内部の可視化技術が、こうした「見えない生態」の解明を可能にしつつある点は今後の古生物学全般にとっても意義深い進展です。鳥類の中で嗅覚が発達した種は一般に少数派とされ、キーウィなど地上性・薄明薄暮性の鳥に多く見られる傾向があります。ドードーもまた地上を歩いて果実や種子を採食する生活様式だったと考えられており、飛翔能力を失った代わりに嗅覚と触覚という「近距離センサー」を発達させたとすれば、視覚に依存する典型的な鳥類の進化パターンとは異なる独自路線を歩んだことになります。

認知能力は体格相応、「愚か」だった証拠なし

「ドードー」という名前自体、ポルトガル語やオランダ語で「愚か・のろま」を意味する語に由来するとされ、長らく知能の低い鳥という印象を持たれてきました。しかし今回の解析では、学習や判断に関わる脳領域は体の大きさに見合った標準的な水準にとどまり、知能が低かったことを裏付ける証拠は見つかりませんでした。加えて内耳の構造分析から、ドードーと近縁種ロドリゲスドードー(ソリテア)はいずれも低周波の音でコミュニケーションを取っていた可能性も示されました。人を恐れず簡単に捕獲された記録が「愚かさ」の象徴として語り継がれてきましたが、これは天敵不在の環境で警戒心そのものが不要だったためと考えるほうが自然です。知能の高低ではなく、進化的な文脈を無視した人間側の解釈が、誤ったイメージを定着させてきた典型例といえるでしょう。研究チームは、この「愚かさ」神話が定着した背景には、当時の船乗りたちが残した誇張混じりの記録や、後世のイラストレーターが描いた太った不格好な姿のイメージも影響したと指摘しています。実際には脂肪を蓄えた個体の姿が誇張して描かれた例が多く、科学的な観察に基づかない伝聞が定説として広まってしまった典型例でもあります。

絶滅から300年超、標本の希少性が示す教訓

ドードーは17世紀にヨーロッパの船乗りがモーリシャス島に到達して以降、乱獲や人が持ち込んだブタ・ネズミなどの外来種による捕食が重なり、わずか数十年で姿を消したとされています。生態を直接観察した当時の記録はごくわずかで、残された骨格標本が唯一の手がかりです。今回の研究は、世界にたった2体という極めて限られた資料からでも、CT技術の進歩によって新たな知見を引き出せることを示しました。裏を返せば、絶滅種の実像はいまだ標本の希少性という制約の中にあり、失われた生物多様性を取り戻すことがいかに困難かを改めて浮き彫りにしています。研究チームは今後、同じ手法を他の絶滅鳥類や、標本が少なく生態が謎に包まれたままの種にも応用していく方針を示しており、博物館に眠る希少標本の再解析が、教科書的な「常識」を次々と覆していく可能性があります。

豆知識:ドードーとモーリシャス島

ドードーが生息していたモーリシャス島は、天敵となる大型哺乳類が存在しない孤立した環境で、飛翔能力を失う代わりに大型化して繁栄した鳥でした。絶滅の象徴的存在として知られ、19世紀の小説『不思議の国のアリス』に登場するキャラクターとしても有名です。デンマーク自然史博物館は2027年に新館の開業を予定しており、今回分析対象となった頭骨標本も新たな展示の目玉になる見通しです。現存する完全な骨格や軟部組織はほぼ残っておらず、研究者たちは今後もCTなど非破壊分析技術を駆使して、限られた標本から絶滅種の生態を読み解く取り組みを続けるとしています。なお「ドードー」という呼び名は、ドードーを最初に目にしたポルトガル人あるいはオランダ人の船乗りが名付けたとされますが、語源には諸説あり、鳴き声を由来とする説や、オランダ語で「怠け者」を意味する語に由来するとの説もあり、確定的な結論は出ていません。

まとめ

世界に2体しかないドードーの頭骨をCTスキャンで解析した今回の研究は、視覚より嗅覚・触覚を重視し薄暗い時間帯にも活動していた可能性や、体格相応の認知能力を持っていたことを示し、長年の「愚かな鳥」というイメージを覆すものとなりました。今後は同様の非破壊分析が他の絶滅種にも広がり、化石や博物館標本から新たな生態像が次々と明らかになるか注目されます。

出典:
Sci.News
phys.org
EurekAlert!

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