英クレジットカードの延滞、金融危機以来の最悪水準

英中央銀行調査で判明、家計の綻びとAI活用への期待

2026年7月2日、イングランド銀行が公表した最新の「信用状況調査」で、英国のクレジットカードなど無担保ローンの延滞率が2008〜09年の金融危機以来の最悪水準に達したことが判明しました。

生活費の高騰と雇用不安が重なる中、家計の綻びがついに数字として表れた形です。

Bloomberg、Scottish Financial News、そしてイングランド銀行自身の発表資料をもとに、その実態と背景を読み解きます。

調査結果 – 延滞率が2008年以来の急上昇

イングランド銀行が四半期ごとに実施する「信用状況調査(Credit Conditions Survey、金融機関への聞き取りをもとに信用市場の動向をまとめる調査)」によれば、2026年4〜6月期にクレジットカードや無担保ローンの延滞増加を報告した金融機関の割合(純増減)は37.4%に達しました。

前四半期(1〜3月期)の18.6%からほぼ倍増しており、これは2009年以来で最大の四半期上昇幅だとされています。

この37.4%という数字は、延滞客の絶対数を示すものではなく、悪化したと回答した金融機関の割合から改善したと回答した金融機関の割合を差し引いた「純増減」です。数値そのものよりも、悪化の方向とスピードが際立って急であることに注目すべきでしょう。

一方、住宅ローンなど担保付き融資の延滞は横ばいで、悪化は無担保ローンに集中していることが特徴です。担保の有無で明暗が分かれた背景には、生活費の高騰に直面した家計が、まず利用しやすいクレジットカードや個人向けローンの返済を後回しにしている実情がうかがえます。

2009年当時は世界的な金融危機による大量失業と資産価格の急落が延滞増加の主因でしたが、今回は表面上の景気指標が大きく崩れていないにもかかわらず延滞が急増している点が異なります。じわじわと積み上がった生活費の負担が、統計上「突然」の悪化として表面化した格好です。

家計を圧迫する三重苦 – 金利・物価・雇用不安

KPMGの英国金融サービス部門責任者、カリム・ハジ氏は今回の悪化について、複数の要因が同時に重なった結果だと分析しています。同氏が挙げた要因は次の通りです。

  • 与信条件の引き締め(金融機関がローン審査を厳格化していること)
  • イラン情勢の緊迫化が続く影響
  • 労働市場の減速による雇用不安

これに加えて、根強いインフレとエネルギーコストの高止まりが、生活費全般に対する消費者心理を冷え込ませていると指摘されています。

英国企業がイラン情勢の影響でコスト増に直面しているという報道は既に相次いでいますが、今回の調査結果は、その余波が企業だけでなく個人の家計にも及び始めていることを示唆しています。エネルギー価格や物流コストの上昇は最終的に商品価格へ転嫁され、家計を通じて経済全体に波及していく構図が見て取れます。

クレジットカード利用は増加、新規ローンは手控え

興味深いのは、延滞が増える一方で、クレジットカードの利用残高自体は拡大している点です。2026年5月までの1年間で、クレジットカード債務は前年比12.1%増となりました。

英国全体のクレジットカード債務残高は2026年4月時点で790億ポンド(約15兆円)に達し、2026年通年のクレジットカード利息支払額は193億ポンド、成人1人当たり約342ポンドに上ると見込まれています。

その一方で、個人向けローンなど新規の無担保借入については、金利の高さを理由に家計が慎重な姿勢を強めていることも調査で明らかになりました。

つまり、既存のクレジットカード債務が生活費の穴埋めに使われて膨らむ一方、新たな借り入れには及び腰になるという、家計防衛の二極化が進んでいる構図です。日本でもキャッシュレス決済の拡大とともにリボ払いの残高が問題視されることがありますが、英国の状況は物価高騰下でその構図がより深刻な形で表れた事例と言えるかもしれません。

KPMGが提言 – AIで「延滞予備軍」を検知せよ

ハジ氏は今回の調査結果を受けて、金融機関に対しAI(人工知能)やデータ分析を活用し、返済に行き詰まる前に延滞予備軍となりうる利用者を先回りして把握するよう呼びかけています。

これは、AIが単なる業務効率化のツールではなく、金融機関のリスク管理や消費者保護の最前線で活用され始めていることを示す一例と言えるでしょう。

実際、英国の金融機関は近年、利用者の支出パターンや残高推移をAIで分析し、延滞の兆候を早期に検知する取り組みを強化しています。今回の提言は、その動きを一段と加速させる可能性があります。

一方で、AIによる与信審査の厳格化が行き過ぎれば、本来は返済能力のある利用者まで融資を受けにくくなる恐れもあり、金融包摂(誰もが必要な金融サービスを利用できる状態)とのバランスが今後の課題になりそうです。

金融機関にとっては、延滞が実際に発生してから督促・回収を行うよりも、AIで予兆を検知し早めに返済プランの見直しを提案する方が、コストと顧客関係の両面で望ましいとされています。今回のような調査結果は、そうしたAI活用の必要性を後押しする材料になりそうです。

2008年危機との違いと今後の展望

今回の延滞急増は金融危機以来最悪と報じられていますが、イングランド銀行の金融政策委員会は、現時点では今回の状況が2008年当時ほど金融システム全体を揺るがすリスクにはつながらないとの見方を示しています。

その根拠として、現在の英国の金融機関が十分な資本を備えていることや、特定の外的ショックへの直接的な露出が限定的であることが挙げられています。

とはいえ、英国では成人の約890万人が過去半年以内に請求書やローンの支払いを延滞するなど深刻な財務的困難に陥っており、貯蓄がまったくない成人も1,150万人に上るとされます。

金融システム全体の安定性と、個々の家計が抱える痛みは、必ずしも同じ尺度では測れないという点に注意が必要でしょう。2008年の危機が金融機関の連鎖破綻という「上」からのショックだったのに対し、今回は生活費と金利負担という「下」からのじわじわとした圧力である点が大きな違いだと言えます。

補足情報

イングランド銀行の「信用状況調査」は、英国の主要な銀行やノンバンクを対象に四半期ごとに実施される聞き取り調査で、住宅ローンや消費者ローン、法人向け融資など幅広い信用市場の動向を定点観測する目的で続けられています。

現時点で英国の家計債務全体は約2兆ポンド(住宅ローン1兆7,460億ポンド、消費者信用2,530億ポンド)に上り、世帯当たり平均で約7万ポンドの借金を抱えている計算になります。

また無担保ローンについては今後さらに供給が絞られる見通しで、金融機関側は2026年7〜9月期にかけて新規の与信条件を一段と厳格化する意向を示しています。

生活費への不安から新規借り入れそのものを控える家計と、貸し手側の慎重姿勢とが重なり、英国の消費者信用市場は当面縮小基調が続く可能性があります。

まとめ

今回のイングランド銀行の調査は、英国の家計が高金利・物価高・雇用不安という三重の重荷を抱え、クレジットカードなど無担保ローンの返済に行き詰まり始めている実態を浮き彫りにしました。

延滞率は2008年の金融危機以来の水準に達した一方、金融システム全体への波及は限定的とされており、今後は個々の家計支援とAIを活用したリスク検知の両立が焦点となりそうです。

次の四半期の調査で悪化に歯止めがかかるかどうか、注目が集まります。

出典:
Bloomberg
Scottish Financial News
Bank of England – Credit Conditions Survey 2026 Q2

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