重力定数「ビッグG」とは?NISTが10年計測、仏実験と0.0235%食い違う

米NISTが10年がけの「封印実験」で挑んだ重力定数再測定の顛末

あらゆる物体を引き合わせる力の強さを決める「万有引力定数(重力定数、通称ビッグG)」。

米国立標準技術研究所(NIST)の物理学者スティーブン・シュラミンガー氏が率いるチームが、10年がかりで挑んだ再測定の結果を発表しました。

成果は科学誌メトロロギアに掲載され、米科学ニュースサイトのサイエンスデイリーやNIST公式発表などが報じています。

あえて「答えを知らないまま」実験を進めるという異例の手法を採用した今回の研究、いったいどのような結果になったのでしょうか。

10年封印された「秘密の数字」——ブラインド実験の仕組み

研究チームは2007年に仏セーブルの国際度量衡局(BIPM)が実施した精密実験を、NIST内で再現する形で計測を行いました。

使用したのはねじれ天秤(トーションバランス)と呼ばれる装置で、金属の繊維がどれだけねじれるかによって極めて微小な力を検出します。

実験には円柱形の金属製おもり8個が使われ、4個は回転台に固定し、残る4個は人の髪ほどの太さしかない銅ベリリウム製のリボンでつり下げました。

測定は2つの方法で行われ、1つはねじれそのものを直接測る方法、もう1つは電圧をかけて重力によるねじれを電気的な力で打ち消す方法です。

シュラミンガー氏が懸念したのは、研究者が「期待する答え」を無意識に測定結果へ反映させてしまう心理的バイアスでした。

そこで同僚のパトリック・アボット氏に依頼し、測定した質量の数値から秘密の補正値を差し引いて実験データをあらかじめ「かく乱」してもらいました。

この補正値を知るのはアボット氏だけで、シュラミンガー氏自身は本当のビッグGの値を知らないまま10年間データを分析し続けたのです。

補正値は封筒に入れられ、正式な発表の場が訪れるまで封印されたままでした。

2024年7月11日、ついに封筒が開かれた

実は2022年の時点で一度、封筒を開ける寸前まで至っていました。

しかしその直前、空気圧の影響が計算に織り込まれていないことが判明し、開封は延期されています。

最終的に封筒が開けられたのは2024年7月11日、米コロラド州オーロラで開かれた精密電磁計測会議の壇上でした。

シュラミンガー氏は当時を振り返り「実験のすべてを徹底的に検証し尽くしたという自信があった」と語っています。

明らかになったNISTチームの測定値は6.67387×10のマイナス11乗 m³/kg/s²でした。

これは2007年の仏BIPMによる測定値と比べて、0.0235%低い数値です。

補正値は事前の予想よりも大きく、しかもマイナス方向に働いていたため、両者の食い違いはより鮮明になりました。

シュラミンガー氏は「あらゆる測定には意味がある。真実こそが重要だからだ」とコメントし、期待した値と一致するかどうかにかかわらず、正確な測定そのものに価値があると強調しています。

なぜビッグGだけ精度が低いのか——225年におよぶ測定史

重力定数の測定は、ニュートンが万有引力の法則を提唱してからおよそ1世紀後、1798年の英物理学者ヘンリー・キャヴェンディッシュの実験にまでさかのぼります。

キャヴェンディッシュは鉛球をワイヤーでつり下げたねじれ天秤を用い、鏡と光を使って回転角を読み取るという方法で重力定数の測定に初めて成功しました。

それから225年以上が経過した現在でも、重力定数は電磁気力や原子核内部の力といった他の基本定数と比べて、際立って精度の低い定数のままです。

他の基本定数の多くが6桁以上の精度で確定しているのに対し、重力定数はいまだにその水準に届いていません。

背景には、重力がほかの基本的な力と比べて桁違いに弱いという根本的な事情があります。

実験室で扱えるおもりが生み出す重力は極めて微弱なため、装置のわずかなゆがみや空気の対流、周囲の振動といった雑音の影響を受けやすいのです。

近年の各国の測定値を比べると、ばらつきはおよそ1万分の1程度に達しており、これは通常の実験誤差として想定される範囲を上回っています。

食い違いの正体は誤差か、それとも未知の物理か

研究チームは食い違いの原因を探るため、おもりの素材を銅とサファイアの2種類で試す追加検証も行いました。

その結果、両者でほぼ同じ測定値が得られ、素材の違いが原因である可能性は除外されています。

物理学の歴史を振り返ると、理論と測定のわずかなズレがのちに新しい物理現象の発見につながった例も存在します。

しかし今回のケースについて、シュラミンガー氏を含む研究チームは、未知の物理法則よりも見落とされた実験上の誤差である可能性の方が高いとみています。

シュラミンガー氏は今後の展望について「この問題に取り組むのは、若い世代の科学者たちに託したい」と述べ、自身の研究に一区切りをつける姿勢もにじませました。

今回の成果は、BIPMによる測定を独立した別のチームが再現した初めての事例としても位置づけられており、再現性そのものを検証したという点に大きな意義があります。

豆知識——重力定数はどこで使われているのか

重力定数は、惑星の軌道計算や人工衛星の打ち上げ、ブラックホールの質量推定など、宇宙物理学のあらゆる計算の土台となっている値です。

地球や太陽の質量そのものも、重力定数の値をもとに逆算して求められています。

そのため重力定数の精度が上がれば、既知の天体質量の精度そのものも連動して向上することになります。

重力定数の記号「G」は、19世紀の物理学者アルフレッド・コーンが導入したとされ、今日でも国際的に共通の表記として使われています。

国際科学会議が定める公式の推奨値(CODATA値)も、こうした世界各地の測定結果を総合して数年ごとに更新される仕組みになっています。

まとめ——重力の謎はなお解けていない

NISTによる10年越しの再測定は、重力定数の精度向上どころか、既存の測定値同士の食い違いをより鮮明に浮かび上がらせる結果となりました。

バイアスを排除するための封印実験という手法自体が、科学的な誠実さを重んじる姿勢の表れとして注目されています。

今後は他の研究機関による追加の独立測定が行われるかどうか、そしてこの食い違いが誤差の見落としか未知の物理現象かを見極められるかが焦点になります。

ニュートンの時代から続く重力の謎は、最新の精密計測技術をもってしてもなお、完全には解き明かされていないのです。

出典:
ScienceDaily
NIST

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