AI助言のプロが自ら「幻覚」――PwC・KPMG・デロイトで捏造続出
企業に生成AIの正しい使い方を助言してきたはずの世界的コンサルティング大手が、自社の報告書で生成AIによる「幻覚」被害を出していたことが分かりました。AI検出企業GPTZeroの調査を英紙フィナンシャル・タイムズが検証し、PwC中東法人の報告書に架空の引用や存在しない自社サービスの記載が見つかったと報じています。2025年秋のデロイト、2026年前半のKPMG・EYに続く発覚で、業界全体の信頼性が問われています。
PwC報告書に見つかった「架空の実績」
GPTZeroの分析対象となったのは、PwC中東法人が2024年から2026年にかけて公表した4本の報告書です。特に問題視されたのが2025年発行の「Transforming Governance」で、同社が独自に開発したとする行政向けフレームワーク「Citizen Pulse」について、デンマーク・サウジアラビア・米国・オーストラリア政府が導入済みと明記していました。しかし引用元とされた資料を精査しても、そうした事実を裏付ける記述は一切なく、架空の製品と架空の導入実績を丸ごと創作していた疑いが濃厚です。ほかの3本の報告書からも、実在しない論文や、著者・発行年が捏造された引用が計十数件見つかっており、報告書によっては全体の8割以上が生成AIによる作成、あるいはAIと人間の混在と判定されました。具体的には、実在しない米メディアの記事や、タイトル自体が存在しない国際機関の報告書、著者名や発行年が事実と食い違う学術論文などが引用元として並べられており、読者が個別に原典へあたらない限り誤りに気づきにくい巧妙さも指摘されています。
ドミノ式に発覚するビッグ4の「AI幻覚」
今回のPwCの一件は、単独の不祥事ではありません。2026年6月にはKPMGが「Redefining excellence in the age of agentic AI」と題した報告書を撤回しました。同報告書はUBS、スイス国鉄(SBB)、ロンドン交通局、英国立医療サービス(NHS)が特定のAI活用事例を実施済みと記していましたが、いずれも各組織への裏付け取材で否定されています。同年5月にはEYカナダがサイバーセキュリティ関連の報告書を撤回しており、架空の脚注や誤った出典の記載が理由でした。さらに遡れば2025年10月、デロイト・オーストラリアがオーストラリア政府(雇用労使関係省)向けに44万豪ドル(約4200万円)で納品した福祉制度に関する報告書に、実在しない論文や連邦裁判所判事の発言のねつ造が見つかり、最終分の約6.3万米ドル(約940万円)を返金する事態となりました。この問題はシドニー大学の研究者が、自身や同僚の名前が付けられた「存在しない論文」を報告書内に発見したことから表面化しており、専門家自身が捏造の当事者に仕立て上げられていた点が波紋を広げました。約半年から1年という短い間隔で同種の問題が4社から相次いだことは、単発の不注意ではなく業界に共通する構造的な弱点を示唆しています。いずれの企業も世界有数の会計・監査法人であり、財務諸表の正確性を厳しくチェックする立場にありながら、自社の調査報告書では同様の厳格さが働いていなかったことになります。
なぜ「AIの専門家」が自ら幻覚を起こすのか
皮肉なのは、これらの企業がいずれも企業向けにAIガバナンス(AIの適切な統制・管理体制)の助言や導入支援を主要事業として売り込んでいる点です。専門家は、報告書のような「ソートリーダーシップ」(企業の専門性を示す発信コンテンツ)は大量かつ短期間での発行が求められる傾向にあり、内容の裏取りよりも発信速度が優先されがちだと指摘しています。米ジョージア工科大学の研究者は「意識するとしないとにかかわらず、人はAIに過度に依存し始める」と述べ、米ホフストラ大学の会計学教授も「大手のどこかでこうした事態が起きるのは時間の問題だと感じていた」とコメントしています。KPMGが実施した別の調査では、従業員の約6割がAIの誤りが原因で業務ミスを経験し、4割超が不適切と知りつつAIを使用したと回答しており、専門知識を売る立場の組織でさえ内部の検証体制が追いついていない実態が浮かびます。背景には、コンサルティング業界特有の受注構造もあります。提案書や調査報告書は短納期・低コストで大量に作成する必要があり、生成AIによる下書きは効率化の切り札とされてきました。しかし人間による事実確認(ファクトチェック)の工程を省略・簡略化すれば、AIが自信満々に生成する誤情報がそのまま最終成果物に紛れ込むリスクが高まります。今回の一連の事例は、その典型例といえるでしょう。
広がる法的・信頼リスク
影響は評判だけにとどまりません。デロイトは実際に契約金の一部返金に追い込まれ、PwCについても不動産大手エバーグランデ(中国恒大集団)の破綻に関連して84億ドル規模の賠償請求を別途抱えるなど、大手監査法人は既に厳しい法的圧力下にあります。それでも各社はAI開発企業との提携を拡大しており、PwCとKPMG US法人は米AI企業アンソロピックとの戦略提携を強化したばかりです。企業に対しては「AIを積極活用すべきだ」と助言しながら、自社内では誤りを見抜く体制が整っていなかったという矛盾は、クライアント企業からの信頼を大きく損ないかねません。AIの効率性を追求する動きと、成果物の正確性を担保する体制整備が追いついていない現状のギャップが、今後も同様の問題を繰り返し生む可能性があります。
豆知識:AIハルシネーションとは
AIハルシネーション(幻覚)とは、生成AIが事実に基づかない情報を、あたかも真実であるかのように自然な文章で出力してしまう現象を指します。存在しない論文や統計、発言を「もっともらしく」生成するため、専門家でなければ真偽の判別が難しいのが特徴です。今回のケースで使われたのは主に文章生成AIで、引用文献のタイトルや著者名の一部を実在のものと組み合わせて偽の出典を作る「もっともらしい捏造引用」が典型的なパターンとして繰り返し確認されています。また、生成AIによる文章と人間が書いた文章が混在した報告書も多く、AI検出ツールでは「完全AI生成」ではなく「混在」と判定されるケースが目立ちます。今回の調査で使われたGPTZeroのようなツールは、教育機関の論文不正調査などにも広く使われている技術です。
まとめ:AI活用の「監督者」自身が問われる番
PwC、KPMG、EY、デロイトという世界的コンサルティング大手4社すべてで、生成AIによる捏造が公表資料に紛れ込んでいたことが明らかになりました。AI活用を企業に助言する立場の組織自身が検証体制の甘さを露呈した形で、今後は各社の再発防止策や、報告書公開前のファクトチェック体制の見直しが焦点となりそうです。生成AIを日常業務に取り入れる企業が急増する中、今回の一連の発覚は他業界にとっても他人事ではない教訓と言えるでしょう。
出典:
GPTZero – Chasing the Hallucinations: PwC report hallucinates product and government customers
Swissinfo – KPMG report contained AI hallucinations on benefits of AI
TechCrunch – KPMG pulls report on AI usage due to apparent hallucinations
Accounting Times – Deloitte to refund government after using AI in $440k report
CFO Dive – Deloitte AI debacle seen as wake-up call for corporate finance