反AI感情の高まりで米テック経営者が「命の危険」に直面

OpenAIのサム・アルトマンCEOの自宅への放火未遂、Anthropic本社への侵入者による「幹部を殺害する」との脅迫――。

米The Wall Street Journalの報道によれば、AIへの反発が過激化する中、米テック企業の経営陣が武装警備員を伴って行動するようになっています。Breitbart、Futurismなど複数メディアの報道をもとに、この異例の事態の背景を探ります。

発端 – アルトマン氏宅への放火未遂とAnthropicへの侵入

2026年4月、反AI活動家を名乗る20歳の男が、拳銃と火炎瓶を持ってOpenAIのサム・アルトマンCEOの自宅への放火を試みる事件が発生しました。幸い負傷者は出ませんでしたが、男は殺人未遂と放火の容疑で起訴されました。

この事件からわずか5日後、今度はAnthropicの本社ロビーで別の事件が起きます。ある男性が幹部の名前を記した封筒を警備員に示し、「その幹部は殺される」と警告したというのです。警備員が対応し、実害には至りませんでした。

さらにAnthropicでは、就職応募者を装った人物が「会社に技術を盗まれた」として、社員の子どもを標的にするような脅迫を投稿した事例や、返金トラブルを理由に「拳銃を持って行く」とオクラホマ州の男性が脅した事例も報告されています。単発の過激事件ではなく、複数の企業・複数の形態で脅迫が連鎖している点が、今回の事態の深刻さを物語っています。

脅迫件数が「7倍」に急増

フォーチュン100企業向けにSNSやダークウェブ上の脅威を監視するLiferaft社によると、AI企業幹部やデータセンターを標的にしたデジタル上の脅迫件数は、2026年2月末から5月にかけて7倍に急増しました。同社CEOのジョナサン・グラフ氏は「これほど短期間で事態が悪化するとは驚きだった」と述べています。

これを受けて、企業側も警備体制の強化に動いています。S&P500採用のテック企業のうち、役員警護費用を開示した企業の割合は2021年の26.8%から2025年には38.1%まで上昇しました。具体的な支出額も急増しています。

  • Palantir Technologies – 警護費用が前年比150%増の約300万ドル(約4.6億円)に
  • Oracle – 前年比85.5%増の560万ドル(約8.6億円)、主に創業者ラリー・エリソン氏の自宅警備に充当
  • Salesforce – 前年から約100万ドル増の約400万ドル(約6.2億円)規模に拡大

警備会社JPT Securityのダコタ・ドミンゲス副社長は「数年前、テック企業のCEOに警護が付くことなど考えられなかった」と語っており、業界の常識が短期間で塗り替えられつつあることがうかがえます。

なぜ反発が過激化するのか – 「王様になりたいのか」という怒り

データ分析企業Palantirのアレックス・カープCEOは、こうした暴力的な反発の根底にあるのは雇用不安だと分析しています。「『あなたの仕事はなくなる』と告げられれば、人々は武器を手に取ってしまう」というのが同氏の見立てです。

AIによるリストラで職を失った元Pinterestのデザイナー、ボニー・ケイト・ウルフ氏は「もう封建時代には戻れない。権力者たちはまるで王様になりたがっているように見える」と、富の集中に対する強い不満を語っています。

実際、世論もAIに対して急速に厳しくなっています。米Quinnipiac大学が2026年3月に実施した調査では、55%の米国人が「AIは益より害の方が大きい」と回答しました。これは前年の調査の44%から大きく上昇した数字です。AIに否定的な回答者は肯定的な回答者を4倍以上上回っているとされ、脅迫という極端な形で表出する反発は、こうした社会全体の空気の延長線上にあると考えられます。

「声を潜める」経営者たち – 広報戦略にも変化

身辺警護の強化だけでなく、経営者の情報発信のあり方にも変化が生じています。批判の矛先が向くことを避けるため、SNSでの発言や公の場での露出をあえて控える経営者も出てきているといいます。

これはAI業界にとって皮肉な状況といえるでしょう。かつてAI企業の経営者たちは、技術革新の伝道者として積極的にメディアへ登場し、自社の成果や将来のビジョンを語ることを重視してきました。しかし今、その発信力そのものが標的化リスクにつながりかねないというジレンマに直面しているのです。

データセンターへの抗議活動や監視カメラの破壊行為なども報告されており、脅迫は経営者個人だけでなく、AIインフラそのものにも及び始めています。急速な技術普及の裏側で、社会との軋轢が物理的な対立にまで発展している実態が浮かび上がります。

補足情報

「役員警護(エグゼクティブ・プロテクション)」は、企業幹部を対象とした専門的な身辺警護サービスで、自宅警備や移動時の護衛、脅威情報の監視などを含みます。米国では従来、金融機関トップなど一部の経営者に限られたサービスでしたが、近年はテック業界でも急速に普及が進んでいます。

今回名前が挙がったOpenAI、Anthropicはいずれも大規模言語モデル(LLM)開発を主導する企業で、生成AIの急速な普及とともに社会的注目度も高まっています。一方で、Quinnipiac大学の調査では教育分野において「AIは害の方が大きい」との回答が64%に達するなど、分野によって懸念の度合いに差がある点も特徴です。

まとめ

AI技術の急速な普及は、雇用や社会構造への不安という形で反発を招き、テック企業幹部への脅迫という深刻な事態にまで発展しています。

警護費用の増加や経営者の発信自粛といった変化は、AI業界が技術開発だけでなく、社会との向き合い方そのものを問われる局面に入ったことを示しています。

今後、雇用への影響を巡る議論が激化するほど、こうした緊張はさらに高まる可能性があり、企業側がどのように社会との対話を再構築していくかが注目されます。

出典:
The Wall Street Journal
Breitbart
Futurism
Bloomberg

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