米ジョージア州で300世帯超が土地収用の対象に、AIブームの知られざる代償
米国では今、AIデータセンター向けの電力需要が急増し、その電力網建設のために一般住民が土地を追われる事態が広がっています。CBS Newsと公共放送局Georgia Public Broadcasting(GPB)、地元紙Atlanta Journal-Constitution(AJC)の報道によると、南部ジョージア州では300件を超える土地・住宅が電力会社による収用の対象となっています。AI投資の裏側で何が起きているのか、その実態を追います。
巨大送電網「プロジェクト・ワンズリー」とは
今回の騒動の中心にあるのは、電力大手ジョージア・パワー社が進める「プロジェクト・ワンズリー」と呼ばれる送電網拡張計画です。
この計画は、コウェタ郡とフェイエット郡を横断する全長35マイル(約56km)・50万ボルトの高圧送電線を新設するもので、少なくとも4カ所のAIデータセンターに電力を供給する目的で進められています。
建設予定地には330件を超える私有地が含まれ、そのうち20~30軒の住宅は完全に取り壊される見通しです。残りの土地についても、送電塔の設置のために恒久的な地役権(土地利用の制限)が設定されることになります。
ジョージア・パワー社は今後10年間で計画する新設送電線の総延長を、2022年時点の計画(約50マイル)から一気に1,065マイル(約1,714km)にまで拡大しており、その急拡大ぶりがAI関連投資の規模を物語っています。
「土地収用」という強制力のある手段
ジョージア・パワー社はまず土地所有者に任意売却を持ちかけますが、応じない場合はエミネント・ドメイン(土地収用権。公共目的のためであれば補償と引き換えに私有地を強制的に取得できる制度)を行使できる立場にあります。
同社によれば、初回提示額は鑑定評価額(適正市場価格)の125%を基本としており、長期化する裁判を避けるための配慮だとしています。
しかし住民側の受け止めは異なります。複数の住民は、提示額が市場価格より約10万ドル(約1,500万円)も低いと主張しており、金額の妥当性を巡って対立が続いています。
制度上の焦点は、電力の8割近くが一般家庭ではなく企業のデータセンターに供給される計画であっても、それが法律上の「公共のための利用」に該当するのか、という点です。住宅街のインフラ整備とは異なり、恩恵の大部分が特定企業に及ぶ点で、この「公共性」の定義そのものが問われています。
住民の声「祖母の代からの土地を奪われる」
コウェタ郡に住むアンズリー・ブラウンさんの実家は、まさにこの計画の対象地に含まれています。5~6歳の頃から慣れ親しんだ家で、母親は「本当の意味での世代を超えた資産」としてこの土地を大切にしてきました。
ブラウンさんはCBS Newsの取材に対し、「これは私たちにとって窃盗も同然です。数十億ドル規模の企業が、抵抗する力を持たない小さな存在から土地を奪っているだけです」と憤りをあらわにしています。
同様の事例は他にもあります。
- クラウディア・ムーアさん、ブレイク・ムーアさん夫妻 – 所有する森林地を失うことになった
- シンシア・ヴァン・エップスさん – 「不当に安い」提示額を拒否し、徹底抗戦する構え
ジョージア・パワー社の広報担当者は、収用はあくまで「最後の手段」であり、「透明性を保ち、誠実に交渉し、手続きをできる限り円滑にするよう努めてきた」と説明しています。ただし、どの企業がデータセンターの入居企業なのかについては「安全保障上の理由」で非公表としており、住民側の不信感を強める一因にもなっています。
背景にあるAI電力需要の爆発的増加
今回の事態の根底にあるのは、AI開発競争によって膨れ上がる電力需要です。
ジョージア・パワー社の広報担当者メレディス・ストーン氏によれば、「ジョージア州で見られる需要増加の8割はデータセンターによるものだ」といい、同社は新たに約1,000万キロワット(10,000メガワット)分の発電能力確保を目指しています。
この需要増に対応するため、同社は2022年に石炭火力発電から撤退した「プラント・ワンズリー」を、天然ガスと蓄電池を組み合わせた発電拠点として復活させる計画も進めています。
一連の計画はすでにジョージア州の公益事業委員会(Georgia Public Service Commission)の承認を経ていますが、その前提となった需要予測が、わずか数年でここまで急拡大したこと自体が、AIインフラ投資のスピード感を象徴していると言えるでしょう。
従来、送電網の拡張は主に人口増加や産業誘致に伴って緩やかに進むものでした。今回のように特定企業向けの需要が起点となり、既存住民の生活基盤を短期間で揺るがす例は、電力インフラの計画のあり方そのものに一石を投じています。
問われる「公共性」の定義と法制度の遅れ
現行のジョージア州法では、こうした収用は合法とされています。この枠組みを見直すには州議会での法改正が必要ですが、次の通常会期は2027年1月まで開かれません。つまり、法整備が現実の開発スピードに追いついていない状態が、当面続くことになります。
これは米国に限った話ではありません。AIデータセンターの建設ラッシュは全米各地に広がっており、たとえばバージニア州でも住民による反対運動が起きているほか、今週末にはAIデータセンターに反対する抗議活動が全米各地で予定されているとも報じられています。
電力網・土地・水資源といった有限な地域資源を、AIという新しい巨大産業とどう分け合うのかという問いは、ジョージア州にとどまらず、今後日本を含む世界各地のデータセンター誘致議論においても避けて通れない論点になっていきそうです。
補足情報
「エミネント・ドメイン」は米国憲法修正第5条に根拠を持つ制度で、道路や学校、公共インフラの整備などを目的に、歴史的にたびたび行使されてきました。今回のように民間企業向けデータセンターの送電網整備を理由とする収用は、その適用範囲の広がりを象徴する新しい事例といえます。
また、ジョージア・パワー社はデータセンター関連の計画に「プロジェクト・ワンズリー」のほか「プロジェクト・セイル」といった社内コードネームを用いており、入居予定の企業名はいずれも公表されていません。地域住民は、自分たちの生活に直結する開発の実態を十分に知らされないまま計画が進む点にも不満を募らせています。
親会社であるサザン・カンパニー傘下のジョージア・パワー社は、南部有数の電力供給事業者であり、今回のような大規模インフラ拡張は同社にとっても近年で最大級の投資規模となっています。
まとめ
AIブームを支える電力インフラの拡張が、米ジョージア州では300件を超える土地の強制収用という形で、地域住民の生活に直接的な影響を及ぼしています。
提示された補償額を巡る対立や、「公共性」の定義を問う声は根強く、州議会が動く2027年1月まで抜本的な解決は見込みにくい状況です。
データセンター側の企業名すら明かされないまま計画が進む不透明さも、住民の不信を深める要因となっています。
今後は、係争中の住民による訴訟の行方や、他州へのAIデータセンター反対運動の広がりに注目が集まります。
出典:
CBS News
Georgia Public Broadcasting
The Atlanta Journal-Constitution