「80分」の寝不足で体重増、米研究で判明

6週間で体重1ポンド増、座りがちな時間も増加と米研究が指摘

「たかが少しの寝不足」と侮っていないでしょうか。米コロンビア大学の研究チームが医学誌Annals of Internal Medicineに発表した研究で、一晩あたりわずか80分ほどの睡眠不足が6週間続くだけで、体重増加や座りがちな生活習慣を引き起こすことが明らかになりました。ScienceDailyやMedical News Today、コロンビア大学医療センター(CUIMC)も詳しく報じています。

95人を巻き込んだ「がまん比べ」実験

今回の研究は、コロンビア大学ヴァゲロス医科大学院の栄養医学教授マリー・ピエール・サントンジェ氏らのチームが実施しました。対象となったのは、普段は7〜8時間程度眠っている20歳以上の成人95人です。いずれも心臓病や糖尿病のリスクがやや高めの人たちで、2016年から2023年にかけてニューヨーク首都圏で募集されました。

参加者は2種類の交差試験(クロスオーバー試験、同じ参加者が条件を入れ替えて両方を経験する試験方法)を、順序をランダムに入れ替えて経験しました。

  • 通常の睡眠を6週間とる期間
  • 就寝時刻を90分遅らせ、睡眠を制限する期間を6週間

両期間の間には4〜6週間の休止期間を設け、手首に装着したアクティビティモニターで睡眠時間や活動量を常時記録。さらに体重や腹囲、体組成、空腹時のホルモン値まで細かく測定するという、かなり本格的な追跡調査です。実際の睡眠短縮幅は平均で約78〜80分にとどまりましたが、これは日常生活でありがちな「気づけば夜更かし」の水準に近いといえます。

数字で見る「静かな肥満リスク」

結果は決して大げさな数字ではありませんが、着実な変化として現れました。睡眠制限期間を経た参加者には、以下のような変化が見られました。

  • 体重が平均で約1ポンド(約0.45kg)増加
  • 1日あたりの座りがちな時間が平均17分増加
  • 男性および閉経後の女性では、座りがちな時間の増加が約30分にまで拡大
  • 腹囲の増加も確認

研究チームは、この変化を1年間続けた場合の影響も試算しています。第一著者のファリス・ズライカット氏は「80〜90分の睡眠不足が続けば、臨床的に意味のある体重増加につながると考えられる」と述べています。たった1ポンドと聞くと些細に思えるかもしれませんが、これが毎年積み重なれば、数年単位では無視できない体重増加につながる計算です。しかも今回の実験期間はわずか6週間であり、実生活のように寝不足が何年も続く場合には、影響がさらに大きくなる可能性も否定できません。

注目すべきは、体重増加そのものよりも「なぜ座りがちになるのか」という点です。研究チームは、睡眠不足による疲労感が日中の活動量を無意識のうちに減らし、消費カロリーの低下を招いていると分析しています。つまり食べ過ぎだけでなく、動かなくなること自体が体重増加の一因になっているというわけです。

体重だけではない、代謝と心臓への影響

今回の研究がとりわけ注目されているのは、体重増加が単独の現象ではなく、より広い代謝異常の一部として起きている可能性を示した点です。

同じ参加者群を対象にした過去の解析では、心血管代謝リスク(心臓病や糖尿病につながるリスク要因の総称)が高い女性において、睡眠制限期間にインスリン抵抗性(インスリンが効きにくくなり血糖値が下がりにくくなる状態)の悪化が確認されており、特に閉経後の女性で顕著だったとされています。さらに、もともと心臓病リスクの高い参加者では、心臓組織における炎症性細胞の増加も報告されています。

つまり、体重計の数字が動く前から、体の内側では代謝や血管の状態がじわじわと悪化している可能性があるということです。サントンジェ氏は「十分な睡眠をとることは、体重増加や肥満に関連する疾患のリスクを下げる助けになるかもしれない」とコメントしています。体重や見た目の変化として自覚できるようになる頃には、代謝異常はすでにかなり進行している可能性がある、と捉えることもできそうです。

なぜ「ちょっとの寝不足」が見過ごされてきたのか

この研究が興味深いのは、極端な徹夜や不眠症ではなく、誰もが経験しがちな「軽度の慢性的な睡眠不足」を再現した点です。研究チームによれば、米国の成人の約3割がこの水準の慢性的な寝不足状態にあると推定されています。

動画配信やSNSを見ているうちに就寝時刻がずるずる遅くなる、いわゆる「リベンジ夜更かし(日中にやりたいことができなかった反動で、夜に自分の時間を確保しようとして就寝を先延ばしにする現象)」は、まさにこの90分程度の遅れに相当します。数字としては小さくても、体は正直に反応するというのが今回の研究の核心です。睡眠不足が「気合で乗り切れる範囲」だと思われがちなことこそが、長期的な健康リスクを見過ごさせてしまう要因なのかもしれません。

「睡眠後進国」日本にとっての意味

この研究結果は、日本にとって決して他人事ではありません。OECD(経済協力開発機構)の調査によると、日本人の平均睡眠時間は7時間22分で、調査対象となった30カ国中で最下位です。全体平均の8時間24分と比べると、その差はおよそ1時間にのぼります。

この「約1時間」という差は、奇しくも今回の研究で体重増加が確認された睡眠短縮幅(78〜90分)とほぼ重なります。つまり、多くの日本人はすでに、今回の実験で再現された「軽度の慢性的睡眠不足」状態を日常的に送っている可能性が高いといえるでしょう。長時間労働や通勤時間の長さといった構造的な要因が背景にあることを踏まえると、個人の心がけだけでなく、働き方や社会の仕組み全体を見直す必要性を、この研究は間接的に示しているのかもしれません。

補足情報

睡眠不足と体重の関係を調べた研究はこれまでにも数多くあります。例えば2022年に発表されたメイヨー・クリニックの研究では、睡眠を制限された参加者は1日あたり平均308キロカロリーも余分にエネルギーを摂取していたと報告されています。今回のコロンビア大学の研究チームは、睡眠と概日リズム(体内時計に基づく約24時間周期の生体リズム)の研究を専門とする拠点を持ち、長年この分野を研究してきました。今回の解析は、過去に行われた2件のランダム化比較試験のデータを統合(プールド解析)したもので、2026年7月6日付でAnnals of Internal Medicine誌に掲載されています。同誌は内科分野で世界的に権威のある学術誌として知られています。

まとめ

わずか80分の睡眠不足が6週間続くだけで、体重増加や座りがちな生活、さらにはインスリン抵抗性の悪化にまでつながりうることが、コロンビア大学の研究で示されました。研究チームは、食事や遺伝、ストレス、活動量など個人差の影響も大きいと注意を促しつつ、睡眠時間の確保が生活習慣病予防の基本であることを改めて強調しています。慢性的な睡眠不足国である日本において、この研究が今後どのように受け止められていくか注目されます。

出典:
Columbia University Irving Medical Center
ScienceDaily
Medical News Today

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