アメリカ農務省(USDA)が、家畜用の鶏インフルエンザウイルス(高病原性鳥インフルエンザA(H5N1))が食肉に混入していないかを検査しました。その結果牛ひき肉からは、ウィルスは検出されませんでした。
USDAの調査結果と、この問題が日本の畜産業や食品産業に与える影響について考察します。
https://www.cbsnews.com/news/ground-beef-tests-negative-for-bird-flu-usda-says
近年、鳥インフルエンザウイルスの家畜への感染が世界的に拡大しています。アメリカでは、2022年から2023年にかけて未曾有の規模の高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)が発生し、5,800万羽以上の家禽が殺処分されました。
しかし、驚くべきことに、この流行はウシにも感染が確認されています。
アメリカでの家畜への感染状況
記事によると、現在少なくとも9つの州(コロラド、アイダホ、カンザス、ミシガン、ニューメキシコ、ノースカロライナ、オハイオ、サウスダコタ、テキサス)で、乳牛にH5N1ウイルスの感染が確認されています。
ウイルスの感染が確認された乳牛は、一時的に乳生産量が低下する程度で、致死率は低いようです。
しかし、USDAはある無症状の乳牛の肺組織からH5N1の変異株を検出したことから、ウイルスの感染経路や食肉への混入リスクについて懸念を抱いています。
そこで、USDAは以下の3つの対策を講じました。
- 州間を移動する乳牛に対する検査要件の強化
- 小売店から購入した挽き肉30サンプルのウイルス検査
- と畜場で病牛と判定された肉の筋肉サンプルのウイルス検査、および加熱実験
このうち、小売店の挽き肉サンプルからはウイルスは検出されませんでした。
日本の家畜生産と食品安全への影響
日本でも2022年に高病原性鳥インフルエンザの発生がありました。
約96万羽の家禽が殺処分される深刻な事態となりました。
日本では鶏卵や鶏肉が生産の中心ですが、ウシの飼育頭数も全国で約270万頭(乳用牛約130万頭、肉用牛約140万頭/2022年現在)と多くの規模があります。
もし日本でアメリカ同様にウシへの感染が確認された場合、以下のような影響が考えられます。
- 食肉の安全性への不安から、消費者の牛肉離れが起こる可能性
- 感染が確認された農場からの牛乳や肉の出荷停止による供給減
- ウシの大規模な殺処分が必要になれば、生産量の大幅な減少
- 畜産農家の経営破綻リスクの上昇
- 食品メーカーの原料調達や製品供給に支障
政府は家畜保護法に基づき、発生農場の家畜移動制限や殺処分、周辺地域の移動制限などの措置を取ることになります。
食品に係る規制や検査体制の強化、消費者への正確な情報提供も必要不可欠です。
ウイルスの食品への混入リスクと加熱処理の効果
動物由来の食品へのウイルス混入リスクを完全に排除することは難しいと考えられます。
ただし、USDAの調査でも明らかなように、と畜場での徹底した個体検査と食肉処理工程での加熱処理により、一定のリスク低減が図れます。
一般に、加熱処理温度が高いほどウイルス不活化が進みます。適切な加熱処理を行えば、食肉への混入リスクはかなり低くなると考えられます。
まとめ
高病原性鳥インフルエンザの家畜への感染は、食品安全への新たな脅威となっています。
政府と関係機関の迅速な対応と、消費者への正確な情報提供が何より重要です。
一方で、日頃から食品の十分な加熱や適切な取り扱いに気をつける必要があります。人獣共通感染症への対策強化と、食の安全確保に向けた取り組みが求められています。