エキゾチック粒子「XYZ状態」とは?米研究所が新粒子2種を偶然発見、標準模型の常識に挑戦

探していた粒子は見つからず、代わりに未知の粒子が2つ発見されました

米エネルギー省のトーマス・ジェファーソン国立加速器施設(Jefferson Lab、通称ジェファーソン研究所)の研究チームが、探索していた既知の候補粒子を見つけられなかった代わりに、これまで知られていなかった新粒子の痕跡を2つ偶然発見しました。

研究成果は科学専門誌Physical Review Lettersに掲載され、米ScienceDaily、phys.orgなど複数の科学メディアが報じています。

見つかった痕跡は素粒子物理学の標準模型では説明しきれない「エキゾチック粒子」の一種とみられ、物質を形づくる力の根本原理の理解を前進させる手がかりとして注目されています。

何もない場所で偶然見つかった2つの信号

研究チームはもともと、2006年に米国の別の実験(BaBar)で候補として報告された「Y(2175)」という粒子を、光生成という手法で確かめようとしていました。

光生成とは、高エネルギーの光子ビームを液体水素の標的に照射し、陽子と衝突させることで新しい粒子を作り出す実験手法です。

ところが検出器のデータを解析すると、探していたY(2175)の痕跡はどこにも見当たりませんでした。

その代わりに、質量が約2.24ギガ電子ボルト(GeV、素粒子の質量やエネルギーを表す単位)の「Y(2240)」と、約1.82GeVの「X(1830)」という、これまで報告のなかった2つの構造が浮かび上がったのです。

Y(2240)は統計的信頼度を示す「5シグマ」(誤差である確率が100万分の1程度という、新発見と認められる基準)を満たしており、X(1830)も3シグマ(誤差の確率が約0.3%)の精度で確認されました。

ジェファーソン研究所の研究員マルテ・アルブレヒト氏は、「私たちは光子ビームでY(2175)の確認を目指して探索に出たが、代わりに別の2つの構造を発見した」と述べています。

「XYZ状態」とは何か——教科書のモデルに当てはまらない粒子たち

素粒子物理学では1964年に提唱された「クォークモデル(陽子や中性子などの粒子はクォーク2個または3個の組み合わせでできているとする理論)」が長年の標準的な枠組みとされてきました。

しかし2000年代以降、このモデルだけでは説明できない粒子が次々と見つかるようになり、これらは総称して「XYZ状態」と呼ばれています。

XYZ状態の正体については、複数の仮説が並立しています。

  • クォーク4個からなる「テトラクォーク」
  • 力を媒介するグルーオン(クォーク同士を結びつける粒子)が励起した「ハイブリッドメソン」
  • 複数の複合粒子がゆるく結びついた「分子状態」

今回発見されたY(2240)とX(1830)も、こうした未分類の候補に新たに加わったことになります。

1974年に「チャームクォーク」が発見されて以来、粒子物理学の理解は大きく前進してきましたが、XYZ状態は分類作業が発見のペースに追いつかないほど次々と報告され、研究者の間では「粒子の動物園」とも呼ばれる状況が続いています。

なぜ光生成という手法が重要なのか

これまでXYZ状態の候補の多くは、電子と陽電子を衝突させて対消滅させる手法で発見されてきました。

中国の北京スペクトロメーター(BESIII)や日本のBelle実験、米国のSLAC国立加速器研究所などが、この手法でXYZ状態の探索を主導してきた実績があります。

今回のGlueXコラボレーション(ジェファーソン研究所の実験ホールDで行われる国際共同研究)による成果は、光生成という別の手法でもストレンジクォーク(通常より重い種類のクォーク)を含む領域の構造を初めて観測できることを示した点で意義があります。

GlueX実験のスポークスパーソンを務めるウィリアム・アンド・メアリー大学のジャスティン・スティーブンス教授は、今回の発見が新たな探索手法の有効性を裏付けるものだと説明しています。

実験を支えるCEBAF(継続電子ビーム加速器施設)は膨大な量のデータを生み出しており、数分ごとにノートパソコン1台分のハードディスク容量に相当するデータが記録されるといいます。

独ヘルムホルツ重イオン研究センター(GSI)およびゲーテ大学フランクフルトのフランク・ネアリング氏、GSIのクラウス・ゲッツェン氏らも解析に加わりました。

偶然の発見が示す物理学的な意義

今回の発見が重要なのは、狙って見つけた成果ではなく、探索の副産物として偶然浮かび上がった点にあります。

科学研究において、当初の仮説が外れた末に新しい現象が見つかるという展開は珍しくありませんが、今回はそれが素粒子物理学の根幹に関わる「強い力(クォークやグルーオンを結びつける4つの基本的な力のひとつ)」の理解に直結しています。

XYZ状態が実際にテトラクォークなのか、ハイブリッドメソンなのか、あるいは分子状態なのかを見極めることは、クォークとグルーオンがどのように結びついて物質を形づくるのかという根本的な問いへの答えにつながります。

X(1830)は3シグマにとどまっており、統計的にはまだ「有力な候補」の段階であるため、今後さらにデータを積み重ねて5シグマ級の確度に引き上げられるかが焦点になります。

日本の実験とのつながり、そして今後の展望

XYZ状態の研究では、日本の高エネルギー加速器研究機構(KEK、茨城県つくば市)が運用するBelle実験も、電子・陽電子衝突による探索で世界的な成果を上げてきました。

つまり今回のGlueXによる光生成での発見は、日本の研究グループが培ってきた成果と手法を補い合う関係にあり、国際的な素粒子物理学コミュニティ全体にとって有益な追加情報となります。

今後は米国のジェファーソン研究所に加え、KEKやCERNなど各国の加速器施設が独自の手法でY(2240)やX(1830)の追試を行い、統計的信頼度をさらに高めていくことが見込まれます。

複数の実験手法で同じ構造が確認できれば、その粒子が測定誤差ではなく実在する新しい物理現象であるという確信がより強まることになります。

研究チームは今回の成果を足がかりに、他のエネルギー領域でも同様の光生成実験を拡大し、未知のXYZ状態をさらに探索していく方針です。

関連トピック:素粒子研究の歴史的背景

素粒子物理学の基礎となるクォークモデルは1964年にマレー・ゲルマンとジョージ・ツワイクによって独立に提唱されました。

その後1974年に「チャームクォーク」が発見された出来事は「11月革命」と呼ばれ、当時の物理学界に衝撃を与えました。

シグマ(σ)という単位は統計的なばらつきを示す指標で、素粒子物理学の世界では5シグマに達して初めて「発見」と公式に認められる慣習があります。

2012年に欧州原子核研究機構(CERN)がヒッグス粒子の発見を発表した際も、この5シグマの基準が使われたことで広く知られるようになりました。

ジェファーソン研究所のCEBAF加速器は全長約7/8マイル(約1.4km)の周回型加速器で、米バージニア州ニューポートニューズに位置しています。

まとめ——粒子の「動物園」はさらに複雑に

今回、米ジェファーソン研究所のGlueXコラボレーションは、既知の候補粒子Y(2175)を光生成という手法で確認しようとした結果、想定外の新構造Y(2240)とX(1830)を発見しました。

Y(2240)は5シグマ、X(1830)は3シグマの統計的信頼度で確認されており、いずれも従来のクォークモデルでは説明が難しい「XYZ状態」の新たな候補です。

今後は追加データによってX(1830)の確度を高められるか、そしてこれらの構造がテトラクォークやハイブリッドメソンなど具体的にどの理論で説明されるのかが注目されます。

光生成という手法が今後のXYZ状態探索の新たな主力ツールになるかどうかも、素粒子物理学コミュニティが注視するポイントとなりそうです。

出典:
Jefferson Lab
ScienceDaily
Phys.org

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