スターリング衛星群が実証、月・火星探査への応用にも期待
NASAは2026年8月、GPS(全地球測位システム)に頼らず衛星が自らの軌道を割り出す新技術「FALCON」の実証実験に成功したと発表しました。
米科学ニュースサイトのサイエンス・デイリーや専門メディアのインタレスティング・エンジニアリングによると、実験衛星群「スターリング」がわずか3日間で200個以上の宇宙物体の軌道情報を、地上からの操作なしに自律的に更新したといいます。
GPSが届かない月や火星周辺での探査にも道を開く技術として注目されています。
FALCONとは何か——星空を頼りに位置を知る技術
FALCON(ファルコン、Fast Autonomous Lost-in-space Catalog-based Optical Navigationの略)は、衛星が姿勢制御用に搭載している「スタートラッカー」と呼ばれるカメラを転用し、周囲の天体を撮影して自分の位置を割り出す航法システムです。
スタートラッカーは本来、明るい恒星を認識して衛星の向きを把握するための装置です。
FALCONはこのカメラで他の衛星や宇宙デブリ(軌道上を漂う不要な人工物)を撮影し、あらかじめ搭載された約2万個の宇宙物体カタログと照合します。
照合によって特定できた物体を「動く目印」として使い、そこからの相対位置を計算することで、自分自身の軌道を導き出す仕組みです。
従来の衛星航法は、GPSなど地球を周回する測位衛星ネットワークに依存してきました。
しかし月や火星付近ではGPS信号が届かない、あるいは著しく弱くなるため、この方式には地球近傍でしか機能しないという限界がありました。
FALCONは外部の測位網に頼らず、衛星自身が周囲を観測するだけで軌道を把握できる点が最大の特徴です。
実証実験の内容——3日間で200天体、精度は既存カタログを上回る
今回の実証実験では、NASAの小型衛星実証ミッション「スターリング」を構成する衛星が使われました。
スターリングは2023年に打ち上げられた4機編成の衛星群で、複数の技術実証を目的とした小型衛星ミッションです。
実験の結果、FALCONはわずか3日間で200個以上の宇宙物体について、軌道情報を地上の運用者の介入なしに更新しました。
さらに注目すべき点として、衛星が自律的に算出した位置推定値の精度が、既存の地上カタログのデータを上回ったとNASAは説明しています。
宇宙物体のカタログは通常、地上のレーダーや望遠鏡による観測をもとに更新されますが、更新頻度には限界があります。
衛星自身が軌道上でリアルタイムに近い形で情報を更新できれば、カタログの精度と鮮度を大きく高められる可能性があります。
NASAの小型衛星・分散システムプログラムでマネージャーを務めるロジャー・ハンター氏は、「FALCONはスターリング実証ミッションにとってまた一つの成果だ」と述べています。
同氏はさらに、「FALCONが示した結果は、軌道上の宇宙交通監視や衝突回避、代替航法の分野に大きな影響を及ぼし得る」とコメントしています。
なぜGPSに頼らない航法が必要なのか——考察
近年、地球周回軌道には運用中の衛星に加えて、稼働を終えた機体や破片といった宇宙デブリが増え続けています。
デブリの増加は、衝突によって新たなデブリを生む「連鎖」のリスクを高めており、宇宙交通管理は各国共通の課題となっています。
FALCONのように衛星自身がデブリを観測対象として活用できれば、監視網の強化と航法能力の向上を同時に進められる利点があります。
また月・火星探査が今後さらに活発化する中で、GPSに依存しない航法技術の重要性は増す一方です。
地球から数十万〜数億キロメートル離れた探査機にとって、地上からの通信には数秒から数十分の遅延が生じます。
その間に衛星が周囲の天体を自ら観測し位置を把握できれば、通信遅延に左右されない自律的な運用が可能になります。
今回の成果は、単なる技術実証にとどまらず、将来の有人月・火星探査における安全性確保にも直結するテーマだといえます。
EraDriveとの提携、今後の展開——月・火星探査への道
FALCONは、NASAとスタンフォード大学発のスタートアップ「EraDrive(エラドライブ)」による共同実験として開発されました。
EraDriveの飛行ソフトウェア「Era-Core」とスターリングのカメラ、搭載カタログを組み合わせることで、外部の航法ネットワークに頼らない追跡・航法を実現しています。
開発を主導したNASAエイムズ研究センター(カリフォルニア州シリコンバレー)は、大学発スタートアップとの技術連携プログラムを通じて資金支援を行いました。
NASAは2026年内に、スターリングを構成する4機の衛星同士が追跡データを共有し、互いの位置情報を協調して精緻化する実験へと発展させる計画を示しています。
- 月周回衛星群の自律航法
- 複数機で連携する分散型科学ミッション
- 有人探査を支える測位インフラ
NASAはこうした分野への応用可能性を挙げており、今回の成果を足がかりにさらなる実証を重ねる方針です。
豆知識——スターリングミッションとは
スターリングは、複数の小型衛星が協調して動作する「群知能」的な運用技術を検証するため、2023年に打ち上げられたNASAの実証ミッションです。
もともとの運用計画は打ち上げから約3年間とされていましたが、相次ぐ技術的成果を受けて運用期間は延長されています。
関係者によると、少なくとも2028年まで運用を続ける方向で調整が進められているといいます。
スターリングではFALCONのほかにも、衛星同士が自律的に通信スケジュールを調整する実験など、複数の技術デモンストレーションが並行して行われてきました。
小規模で低コストな衛星群を使い、将来の大規模ミッションに応用できる基盤技術を積み重ねていく手法は、近年のNASAの小型衛星戦略を象徴する取り組みとなっています。
まとめ——宇宙交通管理の新たな選択肢に
NASAの実証実験により、衛星が周囲の天体を「動く目印」として活用し、GPSなしで自らの軌道を導き出す技術の実用性が示されました。
3日間で200個以上の宇宙物体の軌道情報を自律更新し、精度は既存カタログを上回ったという結果は、宇宙交通監視や衝突回避の分野に直接応用できる成果です。
月・火星探査など、GPSが届かない領域での自律航法技術としても期待が高まっています。
スターリングミッションは2028年まで運用が延長される見通しで、今後は複数衛星が連携して位置情報を精緻化する実験も予定されています。
軌道上の混雑が増す中、今回の成果の実用化がどこまで進むか続報が注目されます。