肥満・脂肪肝・糖尿病予備群42人の臨床試験で判明した差
肥満や糖尿病予備群、脂肪肝を抱える人にとって、どの食事法を選ぶべきかは大きな関心事です。
米ワシントン大学医学部の研究チームが、ケトジェニックダイエット(ケトン食、炭水化物を極端に制限し脂質を主なエネルギー源とする食事法)と地中海式ダイエット、プラントベース(植物性食品中心)ダイエットを直接比較する臨床試験の結果を発表しました。
米科学ニュースサイトのサイエンス・デイリーやワシントン大学医学部の公式発表によると、3つの食事法はいずれも同程度の減量効果を示した一方、肝臓の脂肪減少効果には明確な差がついたといいます。
数字とともに、その内容を詳しく見ていきます。
42人を3グループに分けた臨床試験の概要
今回の研究は、肥満と糖尿病予備群(プレディアベティス、血糖値が正常より高いものの糖尿病の診断基準には達していない状態)、さらに脂肪肝を併せ持つ42人を対象にしたランダム化比較試験です。
参加者は3つのグループに分けられました。
- ケトン食グループ:炭水化物4%、脂質73%、タンパク質約23%
- 地中海食グループ:炭水化物50%、脂質35%、タンパク質約15%
- プラントベース食グループ:炭水化物70%、脂質15%、タンパク質約15%
研究チームは全参加者の食事を実際に提供し、毎週管理栄養士との面談を行うという厳格な管理下で試験を実施しました。
期間は体重の約10%減少を達成するまでで、平均して4〜5カ月間続けられました。
このように食事内容と摂取量を厳密にコントロールした点が、通常の自己申告に頼る食事調査とは一線を画す特徴です。
肝脂肪は67%減——地中海食・プラントベース食の45%を上回る
試験の結果、3グループとも体重は平均で約10%減少し、この点では差がありませんでした。
しかし肝臓の脂肪量に注目すると、ケトン食グループでは67%もの減少が確認されました。
一方、地中海食とプラントベース食のグループはいずれも45%の減少にとどまりました。
糖尿病予備群からの離脱率にも差が見られました。
ケトン食グループでは約50%の参加者が試験後にプレディアベティスの基準を満たさなくなりました。
地中海食グループでは29%、プラントベース食グループでは7%にとどまっています。
さらにケトン食グループでは、肝臓の脂肪分解を促すホルモンであるグルカゴンの増加幅が最も大きく、血中インスリン濃度の低下幅も最大でした。
体重減少という同じ結果の裏で、代謝面の改善度合いには大きな開きがあったことになります。
高脂肪食なのにコレステロールは悪化せず——研究者も驚いた発見
研究を率いたサミュエル・クライン氏は、今回の結果について「肝臓の脂肪含有量が高くプレディアベティスの状態にある人にとって、炭水化物摂取を減らすことは減量以上の重要な治療効果を持ちうることを示すデータだ」と述べています。
筆頭著者のマックス・ピーターセン氏が特に意外だったと語るのが、脂質の摂取量が最も多かったケトン食グループで、血中脂質やコレステロール値の悪化が見られなかった点です。
脂質を73%も摂取していながら数値が悪化しなかったという結果は、脂肪の摂取量そのものよりも、糖質制限による代謝の変化が肝臓の脂肪蓄積を左右している可能性を示唆しています。
ただし今回の試験は参加者数が42人と少なく、期間も4〜5カ月と短期間である点には注意が必要です。
また研究チームが食事を提供する管理環境下での結果であり、実生活で同じ食事を継続できるかどうかは別の課題として残ります。
長期的な安全性や持続可能性についても、今回の試験だけでは結論づけられません。
なぜケトン食は肝脂肪に効くのか——考察
肝臓は摂取した糖質を脂肪に変換して蓄積する臓器であり、糖質摂取を極端に減らすケトン食はこの経路そのものを断つ形になります。
地中海食やプラントベース食も炭水化物の質を改善する食事法として知られますが、糖質量そのものは依然として多く、肝脂肪への直接的な効果はケトン食に及ばなかったと考えられます。
一方でケトン食は継続の難しさがしばしば指摘される食事法でもあります。
炭水化物をほぼ排除する食生活は、外食が多い人や炭水化物中心の食文化を持つ地域では実践のハードルが高くなりがちです。
白米やパンといった主食を中心とする日本の食習慣においても、同様の効果を得るには相応の工夫と指導が求められるとみられます。
今回の結果は、肥満治療における「何を減らすか」という食事の質の議論に、脂肪肝という具体的な臓器レベルの指標で一石を投じるものといえます。
脂肪肝と糖尿病予備群をめぐる世界的な背景
脂肪肝は近年、医学的にはMASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患、肥満や糖尿病などの代謝異常を背景に肝臓へ脂肪が蓄積する病態)と呼ばれるようになっています。
世界的に肥満人口が増加する中で、MASLDは成人の3人に1人が該当するとも指摘される身近な病態です。
放置すると肝硬変や肝がんに進行するリスクもあり、早期の生活習慣改善が重要とされています。
今回の研究は米国立衛生研究所(NIH)などの助成を受けて実施され、学術誌セル・メタボリズムに2026年8月27日付で掲載されました。
研究チームは今後、より大規模かつ長期の試験で今回の結果を検証する必要があるとしています。
まとめ——ケトン食は選択肢の一つ、しかし万能ではない
今回の臨床試験では、ケトン食・地中海食・プラントベース食のいずれも体重を約10%減らす効果は同等でした。
しかし肝臓の脂肪減少やプレディアベティスからの回復といった代謝指標では、ケトン食が最も高い効果を示しました。
一方でコレステロールが悪化しなかった点は意外な発見であり、脂質摂取量そのものより糖質制限の効果が注目されます。
参加者数が少なく短期間の試験である点を踏まえつつ、今後の大規模な追跡調査が待たれます。
出典:
ScienceDaily
Washington University School of Medicine
EurekAlert!